Episode 21
少し時間が経ち。
十分に休憩も取れただろう時に、静かに装備の点検をしていた俺にカリヤが声を掛けてきた。
というのも、俺が装備の点検を始めたと同時、ファミルと共に何やら相談をしていたようで、その意見がまとまったのだろう。
ファミルもこちらへと視線を向けていることから、それが両方の意見をまとめた上でのものであると理解した。
「カナタ」
「……決めたのか?」
「あぁ、俺達は……」
カリヤは顔を下に向け息を一度吐き、何か改めて覚悟を決めたかのように再び俺へと顔を上げた。
その目には、今まではなかった何かを感じた。
「俺達は、お前について行こうと思う。無論、道中で出来る限り足手まといにならないようにはするし……そちらの、メア殿か?メア殿に魔力の提供もする」
「なんでそう決めた?ここから先は本当に俺の我儘でしかないぞ。それに、さっきも言った通り外に出るまでは手を貸してやるとも言った。その上で、何故?」
「簡単だ。俺達は仲間が2人まだここにいるからな」
絶望的な状況。
そして、恐らく聞こえてきた悲鳴からすれば……既にこの世には居ないであろう仲間の為。
それだけの為に、彼らは俺と共に……否、俺達と共に行くことを決めた。
美談だろう。正義感ではなく、仲間を思う気持ちからくる覚悟だ。
しかしながら、それは無謀でもある。
俺はまだいい。この鎧を着けているから最悪生命力まで吸わせれば、死に体になったとしても生き延びる事くらいは出来るだろう。
しかしながら、彼らは違う。
「その仲間たちが既に取り込まれていたとしても?」
「あぁ。もしそうなら弔い合戦になるからな。やらないわけにはいかねぇさ」
「……影は倒せるようだが、余裕は?」
「囲まれてもカナタが来るまでは耐えてみせた。それで十分だろう?……カナタが言いたいことくらい分かっているさ。どう考えても無謀だ。俺達にはメア殿のような特別なものはない。……だが、冒険者として、そしてあいつらの仲間として!影達が大量に存在するこの場を放置することはできない……ッ!」
思った以上に情に厚い男だったのか。
目に涙を浮かべ俺へと掴みかかる勢いでそう言ったカリヤは、ハッとした表情で俺から離れる。
自身がしている行動が急に恥ずかしくなったのだろう、俺と目を合わせようとせず……しかしながら俺からの言葉を待っているように見えた。
『……どうするのだ?主人様よ』
(あー、いや。ここまで焚き付けるつもりはなかったんだが……)
正直な話、俺はその様子に困惑していた。
当初、あぁは言ったものの……あまり本気ではなかったのだ。
良くて魔力の提供、悪くても外に出すまでの短い時間で多めに魔力を吸い取っておけば後々に使えるだろうと思っていた程度。
まさか本気で影達と戦うために意思表示をしてくるとは思っていなかった。
「……いいだろう。邪魔だと思った時点で帰らせるからな」
「ほっ、本当か!感謝する!」
「ありがたい!」
俺がそう言うと、すぐさま準備に取り掛かる彼らの背を見ながら苦笑する。
結局の所、そのやる気が空回りしなければそれでいいのだ。
それに……彼らには悪いが、これで肉壁が2つ出来た。
危なくなったら囮にも使える優秀なものだ。出来る限り利用させてもらおうと思う。
『……思考が流れてくるのだが……』
(気にするな)
頭の中に響いてきた鎧の言葉に適当に返しながら、俺は装備の最後の点検を行っていく。
基本的にここからの戦闘で使うのは今までと同じ装備。
ダンジョンアタック用の装備の流用だ。
しかし1つだけ違うものも存在する。
それが、
「……ん?カナタ、その片眼鏡は?」
「ここの宝物庫から見つけた奴でな。便利に使えると思っていたが、こんなにすぐ出番が来るとは思っていなかったから点検もしてなかったんだ」
「なっ!?そんなもの下手をしなくても国宝級じゃないか!……いや、こうして使うって事は、報酬として?」
「そういうこった」
宝物庫で見つけた物の鑑定が行える片眼鏡だ。
思えば、持っていたのにも関わらず影へ鑑定を行っていなかった事を思い出したのだ。
……まぁ、どこからが敵対行動と捉えられるか分からなかったからな……。
影の意味不明さも相まって、確かめるのがここまで遅れてしまったというのもある。
あとは問題なく動いてくれればいいだけだ。
試しに着けてみれば、周囲の……俺に近いものの鑑定結果が見えるようになる。
問題なく使えているらしい。
「よし、こっちの準備は終わった。そっちは?」
「元々動いてたからな。多少武器の手入れをする程度で十分だ」
「こっちも同じく。いつでもいけるぜ」
「……じゃあ合図と共に解除する。俺についてくるんだ。途中危なくなれば遠慮なく呼べ。いいな?」
「「了解!」」
こうして、俺と冒険者2人、そして今回の鍵である鎧の絶望的状況からのダンジョンアタックが開始された。
目指すは、心ノ臓のようなものが置かれていた、あのボス部屋へ。




