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Episode 20


1つ、覚悟を決めた事がある。

それは、ほぼほぼ全員にこの(メア)の事を隠すのを諦める、ということ。

バレた時の事を考えるのはもう面倒だから、その時の俺に任せることにした。

だからこそ、今。


「メア!」

『分かっている!』


名前を呼び、声で応えられる。

どこからか響いた声にカリヤ達は周囲を見渡しているものの、気にしない。

鎧が緑色に光を放ち、俺達の周囲に茨の檻を作り出す。

続いて白く光ったかと思えば、足元に淡く光る力場のようなものを展開し、影が入ってこれないように、生まれないようにした。


そして最後に、俺の首元に鋭い痛みが走る。

手で確認すれば、硬い何かが鎧から伸び俺の首に刺さっていた。

それは時々脈動しているようで。それがどくんと脈を打つたびに俺の中から何かが吸われていく感覚があった。


「よし、これで一安心……か。ご苦労」

『うむ。だが主人様よ、長くは保たんぞ』

「それでいい。カリヤ達を休ませたかったからな……」


そんな事を話しながら、カリヤ達へと向き直る。

カリヤは訝しそうな、しかしながらどこか嬉しそうな顔を、ファミルは何故か目を輝かせ満面の笑みでこちらを見ていた。

どういう事だ?と思いつつ、とりあえず休むといいと言おうと口を開こうとすると。


「カナタ、何故戻ってきた!?お前、この場がどういう場所か分かっているから逃げたんじゃないのか!?これじゃ共倒れだ!誰がこの惨状を外に伝える!?」

「あー……悪ぃ。確かに俺もそのつもりだったんだがな……」

「言い訳はいい!……とにかく、戻ってきたんだ。トレジャーハンターが逃げずに戻ってくる、という事はだ。何か勝算……もしくは俺達全員が外に出れるくらいの策があるんだろう?」


そう言って、カリヤの目は俺の着けている軽鎧へと向けられる。

どうやら先程から響いている声がどこからなのか、ある程度検討がついているようで。


「トレジャーハンターと冒険者、その違いは天と地ほどある。だからここで詳しくは聞かないし……それを報告する事もないとここに誓おう」

「おいおい、良いのか?俺が言う事じゃないが冒険者としてそれは」

「皆まで言うな。俺がそう決めた。それに害になっているなら兎も角、みる限りなっていないのだろう?」

「チッ……」


俺の隠している手へと視線を向け、薄く笑う。

ある程度、ではなくほぼ確信をもって話しているらしきその姿は、冒険者をしているよりは治世者なんかの方が向いているのではないだろうか?と思わせるほどだった。

さて、こうなってくると問題はもう1人……目を輝かせ、少年のような顔でこちらを見てくるファミル、ということになるのだが……。


「な、なぁ!カナタ!お前コレ本当にイディア商会から売り出されるのかよ!?今のこの段階でも欲しいくらいだぞ!?」

「えーっとだな、ファミル……」

「はぁー……」

「???」


無駄に説明に時間が掛かった、ということだけは伝えておこうと思う。




俺と鎧が出会った時からの話をざっくりと2人に話し、嘘を吐いていた事を謝罪した。

そこまでしてやっとファミルはこの鎧の事をモンスターだと認識し、売り出されないものだと理解してくれたために、本当に遠回りをしたものだと嘆息してしまう。


「で、だ。本題に戻ろう。……カナタは、その鎧でこの状況をどうにか出来ると本当に思っているのか?」

「思っちゃねぇよ。実際、今も鎧だけじゃこれを展開してそのままにするのが出来ちゃいねぇ」

「……何?」


そうやって訝し気にこちらを見てくるカリヤに対し、俺は首を見せる。

これで鎧から生えた何かが刺さっている様子がしっかりとカリヤも確認できたのだろう。

驚いたような顔と見開いた目でこちらの顔を伺っている。


「一応言っておけば、これは俺が同意した上で吸わせてる。魔力をな」

「魔力だけを、か?」

「あぁ。……そうだよな?メア」

『血など吸うわけがないだろう?血は私の身体をダメにするからな。健康にも悪い』


鎧の身で何が健康か、とは思うものの。

こいつが本気で俺の身体から吸えるものをあらかた吸おうと思えば、その瞬間に俺は死んでいるだろう。

一応俺が契約によって制限をかけているものの……それがなかったらどうなっていたことか。


「そういうことらしいぞ」

「成程な……ふむ、モンスターは本当にわからないな……」

「……とりあえず、だ。鎧だけじゃ無理だが、これを使えばかなりの魔力を鎧に集める事が出来るわけだ」


多くの魔力を鎧に流し込んでも問題のないことは、こいつと出会った時に既に分かっている。

あとはその魔力をどう使うか。それが問題なわけだ。

とはいえ、命令権は俺が持っているわけで。


「魔力を集め、それを使いさっきの周りの影を消し飛ばした魔術を使い続ける。そうすりゃどうなる?」

「……出てくる端から消えていく。……そのままボス部屋まで行くつもりか?」

「そういうこった。まぁこの状況を作り出しちまったのは俺だからな。そこらへんはきっちり仕事として処理する。処理するが……」


俺はこの時、悪い顔をしていたのだろう。

目の前で俺の顔を見ていたカリヤとファミルが引いたように顔を引き攣らせ、鎧からは小さく『うわぁ……』という声が漏れ出たのだから。


「ここは、既に俺の仕事場(ダンジョン)だ。新しい難度を勝手に追加してくれるなら、それを攻略するのが俺の役目だろう……!?」


そう、それだけが俺が鎧に身体の魔力を渡す理由。

単純に、難度の上がったダンジョンへと挑みたいだけ。攻略したいだけ。

一度倒したはずの守護者を使われたのだ。放置していた俺が悪い?

確かにそうだろう。


しかしながら、それを使うという事は、だ。

一度倒した俺以外に、この事態の収束(新たな難度への挑戦)は赦されない。


「だから、力を貸す気がないのなら……外までは送り届けてやる。それ以降は好きにすればいい。俺は、このダンジョンを攻略するまでは絶対に外に出ないからな」


そう言って、俺はバックパックの中から魔力を回復するポーションを取り出し飲み込んだ。



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