Episode 18
「チッ、ここもダメなのかよ……ッ!」
イラつき、壁を蹴ろうとした足を寸での所で止めた。
折角まだ回りに影が居ないのに大きな音を出すところだった己を諫め、一度休憩する事にした。
宝物庫のあるエリアから何とか抜け出し、外へと脱出を図った俺だったが待っていたのは影、影、影。
出口だったろう場所はボス部屋のように影が密集していて近づくことも容易ではなかったために、そこから出るのを諦めたほどだった。
では逆に他の所から出ようと思って探すも、やはりというかなんというか。
ダンジョンに入り口以外の出口は存在しないという常識が真実だったという事しか分からなかった。
『主人様よ、一応周囲に影は居ないが……どうする?』
「どうするもこうするもねぇだろうよ……いつまで持ちこたえるべきなのか分からねぇ以上、ここで死ぬのも覚悟しねぇといけねぇ状況だ。メア、お前も例外じゃねぇぞ」
『……奴らが何を対象として飲み込むか分からないからか』
「そういうことだ。基本的に魔力が貯蔵されると言われている心ノ臓を抉り取ったはずの死体すらも取り込んだ……らしい、あの影達だ。お前みたいな鎧でも取り込む対象としてみるかもな」
一応、周囲には俺以外の生き物はいないため、メアは普通に話している。
一瞬カリヤ達の顔が頭に浮かんだが、今更浮かんだところで意味がない。
彼らはあの一瞬で戦おうとあの場で戦闘態勢に移っていた。
モンスターを討伐し、ダンジョンを攻略する冒険者として正しい姿だろう。
そして俺はあの場から逃げ出した。
モンスターと極力戦わず、安全を確保してからダンジョンを攻略するトレジャーハンターとしては正しい姿なのだろうが……あの場だけで言うのなら、全く正しくない自身の欲に溺れた醜い姿だったことだろう。
「チッ……どうしようもねぇな。相手は影だから俺の攻撃が効くかどうかも分からねぇ。それ以前に捕まったら取り込まれる危険性があって、そんな奴らがうじゃうじゃ湧き出てきたと来たもんだ」
『絶望的だな……一応、私も攻撃は出来るが……それでもアレらを倒せるかと言われると厳しいからな』
「……攻撃できたのか?いや、リビングアーマーが攻撃できない方がおかしいのか」
今も鎧に索敵させながら、俺も権能を使い周囲の確認がてら二重に索敵を展開している。
このダンジョンに潜ってからそんな扱いばかりをしていたからか、この鎧が防御や索敵関係ばかりに特化している補助防具程度の認識にまで落ちていた。
……こいつだってモンスターだってのに。今の状況じゃ何をしてくるか分からないのは同じなんだぞ……。
『出来る、というか出来ないと思ってたのか……?一応、極光魔術を使えるぞ』
「極光……ってぇと、生活魔術か。一番ダメじゃねぇか」
『はぁ!?』
魔術には属性と呼ばれる種類分けが存在する。
守護者が使ってきた炎の玉を出現させ、撃ちだすのは火炎魔術……という風に、魔力を使いどのような現象が引き起こせるかによってその魔術の属性は変わってくる。
全部で7種類ほどある属性の内、鎧の言った極光魔術は基本的に魔術を扱える全員が行使する事が出来るとされている属性だ。
何故か。
それは単純に、極光魔術は習得自体が簡単な属性だからだ。
故に、他の属性魔術を習得する前に感覚を覚えるために習得するのが極光魔術とされている。
俺はきちんとした場所で魔術を教わっていないが、それでも師匠から教わる時には同じように極光魔術から教わった。
「何をって……。そもそも極光魔術って言えば、生活に必要な光を生み出したりするだけの魔術だぞ?攻撃に転用しようにも相手の目を焼く程度にしか使えねぇじゃねぇか」
『……本当に主人様は何を言っているんだ?極光魔術といえば攻撃魔術ばかりで、そんな小細工をする必要のないくらいの属性だぞ?』
「は?」
『む?』
何か、認識が違う。
そう感じた俺は、気になったことを聞いてみた。
「おい、メア。少し聞くぞ。お前が極光魔術を覚えたのは鎧になる前か?後か?」
『何を急に……前だが』
「その時の属性魔術における、攻撃性の高いものは何があった?」
『そうだな……極光、火炎、それと深緑だったか。それがどうしたのだ?』
深緑魔術。
生命力の回復や、植物の成長促進など|俺が知っている《・・・・・・
・》深緑魔術は攻撃なんてものとは無縁の属性のはず、なのだ。
それなのに今鎧は俺の問に対して、その魔術の名前を挙げた。
「……チッ、そういうことかよ。師匠にどやされちまうな……」
『おい!主人様!きちんと説明してくれないと私はわからないが?!なんだというのだ!』
「あーうるせぇうるせぇ。……まず、だ。俺とお前とじゃ魔術に対しての認識に差があった。これは事実だ。というか、俺は今もそう思っているし……恐らくお前もそう信じてるんだろう。だからそれについてはそういう事として進める」
俺は自身の頭の中の整理も兼ねて話始める。
もしかしたら現状がひっくり返るかもしれない、そんな話を。
「で。この差が生まれた理由は単純に……お前が鎧になった。それだ」
『……はぁ?』
「鎧になってから、お前はどれほどの時を過ごした?俺が見つけるまでに、だ」
『そんなもの分かるわけ……まさか』
鎧も俺が何を言いたいか分かったようで。
驚いたかのような声をあげた。
「魔術における認識が全く違うようになってしまう程度には、時間が経っていたなら。実際にお前が言っているように、極光魔術や深緑魔術が攻撃魔術として扱われる時代があったならば……お前は今、影に攻撃出来る手段を唯一持っていることになる」
『……』
「お前の能力をきちんと確認してなかった俺が悪いっちゃ悪いなコレは……クソ、カリヤ達を無駄に囮にしちまったかもしれねぇ」
頭を乱暴に搔き、今まで通ってきた道の事を思い出す。
あれらももしかしたら鎧の攻撃で何とかなっていたかもしれないと思えば……今頃外に出れていたかと思えば、自身の阿呆さに絶望したくなる。
が、それをしている暇はない。一刻も早く、この場からでなければ絶望する俺自身が取り込まれてしまうかもしれないのだから。




