Episode 17
宝物庫。
少し前までそこにいた俺にとっては見た事のある、そして俺と共に新たについてきた冒険者たちは初見となる、宝物庫前の惨状だ。
「これ、は……」
「本当に君がやったのか?カナタ」
「まぁ、企業秘密って奴だ」
俺と守護者による戦闘によって破壊されている通路までの爪痕は、改めて自分でみてもやりすぎたと感じるものだった。
権能の重複付与による攻撃を行ったからか、普通の人間の膂力では到底行えないような惨状だからだろう。
これを俺がやったとは信じられないような顔つきで皆こちらへと視線を向けていた。
「……1つ言うなら。こっちも守護者と戦える程度には戦闘力はねぇいけねぇんだ。これがトレジャーハンターの最低限ってわけじゃないから勘違いしないでくれ」
「……いや、カナタが有名な理由が少しわかったよ。成程な。これなら確かに安全に宝を盗ってきてもらえるだろうさ」
冒険者は冒険者で、トレジャーハンターはトレジャーハンターで。
仕事の幅も、そして出来ることの幅も違うだろう。
だからこそ、この光景を他の者が見る度に色々な反応が返ってくる。
俺と同業であるトレジャーハンターが見れば、本当に同業者がやったのかどうか疑いの視線を。
今のように冒険者たちが見れば、何故トレジャーハンターというモンスターと戦う事が本業ではない職に就いているのか。
そしてそれ以外の、教会関係者や一般人から向けられる忌避の視線。
だからこそ、今ではもうそういったものは慣れてしまった。
反応しても意味がないし、そもそもの話……反応した所で俺にメリットなんてものは何もないからだ。
俺がここに立っている理由は、今後の俺のダンジョン攻略に支障が出るかもしれないから。
そして、今俺が身に着けている鎧の出自を調べるため。
それらの為に、こうして隠し札ともいうべき物を別段親しくもない相手へと見せているのだ。
「……ん?」
そんな事を考えている時。
俺は1つの違いに気が付いてしまった。
それは、
(メア、守護者の身体は?)
『……守護者の身体は、私が索敵している範囲には存在しないな。もしや』
(あぁ、その可能性がある。取り込まれた可能性がな)
守護者を殺した場所に、首を引きちぎり心臓を抜いたはずの守護者の身体が存在しなかったのだ。
心臓は確かに溶け、扉へと吸い込まれて消えていったものの、それ以外の身体については消えていないはずなのだ。
それに消えていない事は俺が宝物庫から入り口へと戻る時に確認している。
この短い時間の間にダンジョン内に生き残っているモンスターに全て食べられる、という事はないだろう。
その場合、あの身体から流れ出た血が垂れ、どの方向へと行ったか程度は分かるだろう。
それがない、という事は。
「カリヤ。俺の所為でまずいことになったかもしれない」
「なに?どういう……」
「守護者の死体がなくなっている」
破壊の中心、そこに存在する血だまりの中にあったはずの死体はそこには存在せず。
元からなかったかのように消え去っていた。
俺の言葉を聞いたカリヤは目を少し見開いた後、冷静に質問を投げかけてくる。
「何故放置した?仕留めそこなった可能性は?」
「仕留めそこなった可能性はないな、きちんと確認した。放置した理由に関しては……正直な話普段はしている時間がないからな。癖が出た」
「攻略の途中で他のトレジャーハンターが来る可能性があるから、か。……いや、まて。それがもし本当なら……ッ!」
「ッ!?」
瞬間、叫び声が聞こえてくる。
その声は先程ボス部屋に向かった3人のもの。それと同時にあまり普段から魔力を使わない俺でも感じ取れるほどの濃密な魔力がボス部屋の方から感じ取れた。
『主人様!』
(クッソ、悉く最近の俺は運がねぇな……!メア、こっからはもう障壁や能力は隠さなくていい!)
『了解!じゃあ……なっ!?』
(……どうした?)
『今まで出現していなかったはずの影達が通路に!気を付けるのだ主人様!』
その言葉と共に、俺の視界の中でも通路の陰となっている部分から湧き出すようにして影達が出現し始めた。
それと同時、敵対行動をしていない俺達を取り囲むように集まり始めている。
逃げるなら今しかない。
俺は守護者での戦闘で使ったように、【身体強化】を多重で掛け。
自分の身体が光に包まれ、何処かから際限なく力が湧き出てくるのを感じた。
『足場は障壁で問題ないか!?』
「十分ッ!」
口に出してしまった声を気にしている余裕はなく、周りを助ける余裕もなかった。
強化された足で地を蹴り、宙に浮き。
空中に設置された障壁を足場に進んでいく。
目指すは外へ。影達が蔓延るダンジョンからの脱出を。




