Episode 16
3人がボス部屋に、残った俺達は一応ということで他の部屋や通路を見て回ることにした。
と言っても……見つけても何もしない方向での探索のため、あまり得られる情報も少ないのだが。
「一応、こっちで索敵が出来るが……カリヤ達は?」
「こちらも出来る。そうだな……お互いに索敵しておこう。トレジャーハンターと冒険者で何か違いがあるかはわからないが……それでもやっておくのはいいだろう」
「了解した」
そう言われた瞬間俺は頭の中で指示を出し、鎧に索敵を開始させた。
俺自身も権能を使えば出来ないわけではないものの……どうせなら鎧に任せて別の事を考えていた方がいいだろうという判断からだ。
いざとなれば最悪権能を重ね掛けすればどうとでもなる。
その時の自身の肉体的損傷を考えなければ、というある種諦めている部分もあるのだが。
「よし、じゃあ向かおう。……一応聞きたいが、宝物庫の方には影は居なかったのか?」
「俺が宝物庫に挑んだ時は見てないな。まぁ守護者が居たから……もしかしたら守護者に退治されていた可能性もないわけじゃない」
「それもそうか……って守護者もいたのか。中々ハードな攻略だったんじゃないか?」
「まぁ……少しばかり苦戦はしたがそれなりだったな」
そんな会話をしながらも、手や視線はきちんと周囲を警戒するためにあちこちへと向けられている。
進んでいる方向は、一度俺が宝物庫へと向かった時に使った道だ。
そのため、俺は他のメンツと違って道自体の罠の有無に関してそこまで意識を割かず。
どちらかと言えば、曲がり角などから突然影が出てこないかどうかを警戒していた。
「……うん、居ないな」
「ホントにいるのか?……っとと、すまねぇ。そっちを疑ってるわけじゃねぇんだ」
「いや、俺が同じ立場だったら確認もできてない、真偽不明の敵だからな。そう考えるのも当たり前だろう」
「ありがたい。……しかし、人を取り込むモンスターなぁ……」
ファミルが顎に手を当てつつ、考え込むような素振りを見せているものの。
正直彼ら自体に情報は期待していなかった。
もし何かそれらしい知っているのであれば、俺やティクルのおっさんが情報を渡した時に何かしらのリアクションを見せるはずだからだ。
特にリーダーをしているカリヤがそういった素振りを見せなかったことから、少なくともパーティ全体で共有されているであろう情報にはそういったものはないのだろう。
だが、ファミルの口から語られた話は少しその考えを改めるには十分なものだった。
「何か思い当たるものが?」
「いや、な。少し前に似たようなモンスターが出たって法螺話がギルドに出回ったことがあったなぁ、ってな」
「……その時は結局どうなったんだ?」
「単純にギルドが調査クエスト出して冒険者を派遣、件のモンスターが居なかった事から、法螺話ってのが広がったはずだ。……うん、法螺話だったから忘れかけていたな。すまん、共有すべき事柄だった」
……十分すぎるくらいに重要な情報じゃねぇか。
いつ、どこで、という一番重要な情報は分からなかったものの。
今回の件に近いかもしれない事柄が実際に噂として冒険者ギルド側で流れていた。
これ自体が有用な話だ。
「……少し考えるべきかもしれないな」
「そうだな。その噂が本当だった可能性を考えると……」
「今回、突然湧いて出たように見えた影達の出処が知れる可能性があるかもしれない、ってわけか」
「増援が来れば詳しい話を知っている奴もいるだろう。とりあえずは出来る限りの探索をしていこう」
件のモンスターが居なかったという話。
それはもしかしたら、そこからそのモンスターが移動したのかもしれない。
そして、そのモンスターが俺達トレジャーハンターが攻略を開始する前にこのダンジョンへと入り込み、繁殖……そして何かを作り出している。
その可能性も十分に考えられた。
モンスターが何かを作り上げるという話はよく聞くものだ。
妖精系のモンスターは何かと人を模した像なんかを自身のテリトリーに作ると聞くし、ゴブリンやオークなどのモンスターならば村のようなものを作り上げるとも聞く。
そして、それらは全てそれを作り出したモンスターからすれば……かなり価値のある物となっているらしい。
今回俺達が目撃したあの影が作り上げていたあの胎動する何かがそれならば……あれを守るように影達が動いていたことにも納得がいく。
……なんにせよ、面倒には変わらねぇな。
見つけてしまった事、そして謎のモンスターの生態であろうものを知ってしまったもの。
これだけでも後でギルドで報告書を複数書かないといけないのが分かりきってしまっているため、今から憂鬱でしかない。
「これが終わったら、暫く仕事には行けねぇな……」
「あぁそっちもか?こっちもだ。……まぁこういうのにはつきものだし仕方ねぇな。街で会ったら今回の事を笑いながら飲めるようにはしよう」
「それは良いな。そのためにはきちんと帰らねぇとなぁ」
冗談を言い合いながら、俺達は奥へと進む。
俺にとっては一度到達した、メンバーにとっては初の宝物庫へと。




