Episode 15
はっきり言えば、ダンジョン内を進むこと自体は順調だった。
というのも、そもそもが俺達トレジャーハンターへ【攻略】依頼を出される時点で、危険自体は少なくなっているのだが。
「……変だな」
「変、とは?」
呟いた言葉に、近くを歩いていたカリヤが反応する。
独り言にしては大き目に声を出してしまったかもしれない。
「単純な話。……あの影が出てこないのが少しな」
「あぁ、成程……確かに変だな」
幾らボス部屋に大量に存在しているといって、ティクルのおっさんが最初に奴らを見つけたのはボス部屋でも何でもない通路だ。
そこから、一定時間はボス部屋に留まるものの、その後は徘徊するようにダンジョン内をうろついているのではないか?という推測を立てているのだ。
なのに、一度も出会わない。
今はまだ戦闘を起こすつもりはないものの、一度も出会わないとは思わず少しだけ拍子抜けしてしまう。
「一度、俺が先にいってボス部屋の様子を確認してこようか?」
「いいのか?カナタ」
「マリスに任せるより、一度通った俺が行った方が何かあった時でも確実だろう?マリスもそれでいいか?」
「あぁ。適材適所、ダンジョン内のそういうのに関しちゃそっちのが先輩だ。任せた」
冒険者の斥候であるマリスの了承も受け、俺は1人……いや1人と鎧1つでボス部屋へ向かって走り出した。
当然、周囲を探るために権能を使い、いつ何が来てもいいようにしながらではあったが。
「……こりゃ不味いかもな」
暫くして、ボス部屋へと辿り着いた俺の口から思わずそんな言葉が漏れ出した。
以前と変わらない光景。
影達が大量に集まっているのには変わりがないものの、1つだけ以前と違うものが存在した。
それは、影達の中心に在った。
よくよく観察してみれば、それが弱いながらも鼓動している事が分かる。
まるで心ノ臓のように、人間の臓器のように動くそれを見て……少なくはない嫌悪感を抱く。
『これ、は……一体……』
「詳しい事は知らねぇが……これがろくでもないものだってのは分かるな……」
ボス部屋という場所にある意味は分からないが、ここに影達が集まっている理由は分かった。
彼らはアレを守っているのだ。そして、育んでいる。
今も1体の影がアレに吸い込まれるように取り込まれたのが見えた。
その形状も問題と言えば問題だった。
卵状。高級品のためあまりお目にかかったことはないものの、モンスターの卵なら嫌になるほど潰してきたため覚えている。
そんな卵状をした、影のような存在。
それが知らぬ間にボス部屋に存在していた。
「……取り込んでるってのが厄介だな」
取り込んでいる。
あの影達も同じような性質をもっているものの、あの卵はその影達を取り込んで成長している。
ただでさえ、人を取り込んでいると思われる影を更に取り込んで成長しているのだ。
影1体1体が取り込んだ量が少なくても、積もり積もればそれは大きな力に変わる。
中々に面倒な事になってきたと口の中で舌打ちをしつつ、俺はそれらに背を向けて報告するために走り出した。
俺は気が付かれないようにその場から離れ、俺が別行動を始めた地点から移動していなかったパーティへと合流した。
「どうだった?」
「居たには居た。だが厄介な事になってる」
「……何?」
俺はボス部屋で見た光景、それに関して感じた事をパーティメンバーに対して事細かに伝えていく。
それらを聞いた彼らは目を見開いて驚いた後、自然と彼らのリーダーであるカリヤへと視線が集まった。
不測の事態とでもいうべき現状だ。
リーダーの指示を仰ぐことは別段おかしいことではない。
俺も、そしてダンジョンに入ってから不自然に静かなレンも彼へと視線を向けていた。
「刺激するのも良くはない、か。……一度戻るかどうかを決めようか」
「カナタ以外も確認しておいた方が良くないかしら?人数をそこまで多くしなければ問題ない……って考えは?」
「無しではないな……マリス、【気配遮断】とかの権能は?」
「使える。……だが、使うときちんと調べられんぞ」
「いや、それでいい。カナタ、影達は権能には反応したのか?」
どうやら一度、マリスにも様子を見てきてもらうようで。
今回を含め、計2回ほど影達を見ている俺に再度確認したいのだろう。
「権能自体は試してねぇな……魔力に関して反応しないことは分かっているが」
「魔力か……一応使えないことはないから何とかなるな」
「よし、じゃあマリスは危なくなったら即離脱。出来る限り情報収集を頼む。後詰めは……レンとヤーマ。頼む」
「「了解」」
魔力さえあれば魔術を行使できる魔術師組が、マリスに何かあった時用の救出、防衛戦力としてマリスの後方から着いていくらしい。
他の……俺を含めたメンバーでは、最悪敵対行為をとった瞬間に取り込み対象となってしまうかもしれないから適材適所という奴だろう。
不満は一切ない。
いや、危険な事を押し付けられたことに対する安堵の方が大きいだろうか。
人として最低だろうが、自分の身を守る事を第一にと教えられてきたのだ。




