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Episode 13


レンとの会話を終え、少し距離をとった後。

俺はダンジョンの警戒をしながら、別のトレジャーハンターたちの近くで彼らの話を聞いていた。

というのも俺がダンジョンに閉じ込められ、尚且つ出てくるまでの時間で1組も探索者がここについていないという点がどうしても気になっていたのだ。


「まだ 冒険者を呼びに行った奴は戻ってきていないのか?」

「おぉ、鎧の旦那。多分そろそろ帰ってくるとは思うんだが……ちょっと見てみっか。【望遠】」


トレジャーハンターの1人に話しかけると、彼は自分の指で丸を作り、街のある方向をその丸を覗き込むようにして見た。

【望遠】。その名の通り、遠くを見るための権能だ。

但し、遠くを見るためには何でもいいから丸い物を通して見なければならないという制約はあるものの……自身の身体1つで発動できるため便利な権能だ。

ダンジョン内では見通しが悪いため、あまり使われることはないものの……使えて損をするという事はないだろう。


「んー……おっ見えた。何人かそれっぽいのを引き連れてんな。人数は6」

「成程、約1パーティほどか。まぁまぁ連れてこれたな」

「人を喰うかもしれないモンスターだもんなぁ……俺が冒険者でも相手にしたくねぇしよく来てくれたもんだ」


モンスターを狩り、ダンジョンを攻略する冒険者でも相手にしたくないモンスターは当然存在する。

それが今回見つかった人を喰らう系統のモンスターだ。

当然、他のモンスターも人を……肉を喰らうものはいる。

しかしながら、それらは栄養として喰らうだけで力を付けるために喰らうのではない。


今回の影のようなモンスターのように、人を喰らい……恐らくは自分の力を底上げしていると思われるモンスターに関しては、一瞬の躊躇いが相手の強化に繋がってしまうため相手にしたくない冒険者が多いと聞く。

そんな相手がうじゃうじゃいる可能性がある、というだけでいくら冒険者でも仕事をしたくない場所ではあるだろう。

そんな中、来てくれるというだけでも称賛モノだ。


暫くして、冒険者を伴ったトレジャーハンター……クレイ=ディコルと名乗った男が到着した。


「すまない。説得に時間が掛かってしまってな……あれは一体?」

「一度入口が崩れてな。怪我人はいないから安心してくれ。……で?後ろの彼らが?」

「あぁ、Cランクパーティの『獣達の行進』だ」


Cランク。

冒険者にはそれぞれランクが付けられており、上はAから下はGまでの7段階ほどに分かれている。

実力や評判によってランクが変わっていくため、Cランクである彼らはそれなりの腕もあり評判も良いパーティなのだろう。

そんな事を考えていると、冒険者の中から軽鎧を着た緑色の短髪の男が前へと出てきた。


「紹介に預かった『獣達の行進』のリーダー、カリヤだ。初めから私らがギルドにいればもう少し早く来れたのだが……待たせてしまったようだ。申し訳ない」

「いや、問題ないさ。幸い誰も怪我なんかはしてねぇからな」

「そう言ってくれると助かる。さて、早速ダンジョンに……と言いたいところだが、詳しい話を聞きたい。誰か実際に件のモンスターを見た、もしくは対峙した者はいるか?」


その言葉に俺とティクルが手を挙げた。


「俺が一番最初に奴らを見つけた。攻略してる奴らを集めて知らせたのも俺だ。聞いているとは思うが……奴らは人間を取り込んでやがった。見た目は人型の影にしか見えなかったな」

「俺の方は攻略中に遭遇した。このダンジョンのボス部屋にモンスターハウスみたく集まってるのも確認した。手は出さなかったが……まぁまぁ嫌な予感はしたな。ただ、声を出しても反応されることはなかった。俺がそこのおっさんから話を聞いた限り、敵対行動をとらない限り襲ってこないタイプじゃないか?」

「成程……ありがとう」


ティクルと俺の話を聞いたカリヤは短く礼を言った後、パーティメンバーと共に作戦会議のようなものを始めた。

漏れ聞こえる会話の中に、『増援』、『聖職者』などの単語が混ざっていることから、あいつらを彼らだけで討伐しようとは考えていないようだ。


「……よし、この場は我々『獣達の行進』が預かることにする。トレジャーハンター諸君はギルド経由で事の詳細を伝えてくれ。今回の仕事に関する補填が入るだろう。ただ……」

「ただ?」

「今から書く報告書を、各ギルド及び教会に届けてほしい。話を聞く限り我々だけで討伐を行うには人数が足りなさすぎる。私達冒険者からの増援要請となれば、少なくとも冒険者ギルドの方は仕事として認識してくれるだろうさ」


そういって、彼はパーティメンバーの1人……魔術師のような姿をした女性に対し指示を出し、報告書のようなものを書かせ始めた。

魔術か何かを使っているようで、空中に複数の羊皮紙と羽ペンが浮きながら文を書いているように見えた。


「それと、恥ずかしいことに我々は一度もこのダンジョンに挑んだことがない。出来れば中に詳しい者が案内としてついてくれるとありがたいのだが……」


カリヤはそう言いながら、俺の方を見てくる。

言葉には出さないものの、ほぼほぼ指名しているようなものだ。

当然だろう、先程の話を聞けば俺が中に詳しいことくらいは分かる。


『どうするのだ主人様。第一、第二目標は達しているのだろう?断っても構わないのではないか?』

(確かにな。……だが)


この場合、俺には選択肢は1つしかなかった。


「分かった。その役目は俺が引き受けよう。案内だけでいいんだな?」

『なっ?!主人様?!』

「ありがたい。……名前は?」

「カナタ。カナタ=リステッドだ。よろしく頼む」


俺が名乗ると、カリヤは少し驚いたように目を見開いた。

どうやら俺の名前をどこかで聞いた事があったらしい。


「カナタ……トレジャーハンターのカナタと言えば、ギルドマスターの一番弟子では?とんだ大物がいたものだな……。よろしく頼む、カナタ殿」

「世辞はいらないさ。名前だけが独り歩きして随分と期待されてるだけの普通のトレジャーハンターだよ。それと、殿なんて付けないでくれ。只のカナタでいい」

「分かった。こちらもカリヤでいい」

「おう、よろしく」


苦笑いを浮かべながら、差し出された手を握り軽く握手をする。

それと同時に、頭の中に語り掛けてきている鎧の相手をしていく。


『どういう事だ?主人様が引き受けるということは何かしらの理由があるんだろう?』

(まぁな。こういう所で繋がりが出来た方が、お前の素性を調べる手助けになるかもしれない。……ギルマスの腕を信じてないわけじゃないが、手は多い方がいい)

『……成程な。中に入ったら障壁や索敵は?』

(障壁は俺が危なくなったら。索敵はするな。もし気付かれたら面倒な事になる)

『あい分かった』


うちのギルマスとは違う繋がりを持つ冒険者と知り合う事が出来るいい機会だ。

それを逃すわけにはいかなかった。


メアリーの素性を探りこいつの目的を達成するまで、俺は教会の聖堂騎士にビクビクしながら過ごさないといけない日々を送ることになるのだから。

そんな事を考えていると、1人更に声をあげた者がいた。


「すまない、僕も残っていいだろうか?案内は出来ないが……多少は魔術の覚えはある。役には立てると思う」

「君は?」

「レン=クロサキ。新人だが、元々魔術師として活動していた」

「……おい、ヤーマ!レン=クロサキって知ってるか?!」


カリヤは先程から報告書を魔術で書いている女性へと話を振る。

するとヤーマと呼ばれたその女性は考え込むように首を捻ったあとに、「あっ」と何かを思い出したように声をあげた。


「確か王都の方で神童って言われてた魔術師の名前がそれだったような……。最近魔術師を辞めたって話だけど、もしかしてその子が?」

「らしい。実力は?」

「申し分なし。というか私以上だね。トレジャーハンターというよりは私ら寄りのはずだよ。……そっか、通りで話を聞かないわけだ」


……面倒な事になったか?

魔術師の方はあまり興味がなかったため、最低限しか情報を集めてなかったものの……その中でも有名な奴があのレンだとは全くもって知らなかった。


「よし……レン殿。こちらからも同行をお願いしたい。君の魔術の腕は私のパーティメンバーが保証するほどだ。頼りにするぞ」

「はは……頼られるのは慣れていないから、お手柔らかに頼む。それから僕もそっちのカナタさんと同じように殿はいらない」


こうして、俺は再びダンジョンへと潜ることになった。

メンバーは『獣達の行進』の内、入口での警戒役の2人を引いた4人に加え、あのレンを加えた総勢6人+鎧という不安の残るものになってしまったが。


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