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Episode 8


その変化に最初に気が付いたのは、索敵を広げていた鎧だった。

数瞬遅れて俺も気付く。

空気が変わった。否、今までは感じなかった僅かな殺気を足を進めている方向から感じ始めたのだ。


『主人様』

「分かってる……正解だったみたいだな」

『まさか本当に当たるとはな……』


殺気を感じる。

トレジャーハンターが攻略中に感じる殺気は大きく分けて3つある。


1つ目は、狩り残されたモンスターからの殺気。

これはただ単に縄張りに入ってきた人間を殺そうとしている、もしくは餌として見ているだけであって分かりやすいものだ。


2つ目は、同じ攻略中のトレジャーハンターからの殺気。

こちらは宝物庫の中の宝を独り占めしたい者らが発するもので、どこか浮ついたものを感じる。


そして最後に、


「居たぞ、守護者だ」

『あれが……』


宝物庫の前の扉を守る守護者と呼ばれる特別なモンスターからの殺気だ。

恐らく、トレジャーハンターとして活動している歴が長ければ長いほど……守護者からの殺気を感じる回数も多くなるだろう。

実際、カナタも片手で数えられる程度ではあるが守護者と戦い、時には逃げつつもその特有の刺すような殺気を感じとってきた。


……歴戦のトレジャーハンターが宝物庫の位置が大体分かるのはこの守護者の存在が大きいのかもしれないな。

そんな事を考えつつも、最悪の場合に備え装備を点検していく。


「メア、相手の姿……いや、形だけでもいい。把握できるか?」

『形?少し待て……よし。人型のようなのがこちらへと顔らしきものを向けているな。私が索敵を伸ばしたのにも気づいてるようだ。動く様子は全くないが』

「そりゃそうだろうな。しっかし人型か……こりゃ厄ネタ踏んじまったみたいだな」


守護者といえどモンスター。

その形状は様々で、首が2つある狼のような時もあれば血を目から流し続けるゴブリンキングのようなモノの時もある。

その中でも要注意とされているモノがいくつかあり、人型もその中の1つに含まれていた。


『何故人型が厄ネタ?と?』

「守護者で人型っていうのはな、大抵考える頭を持ってやがるんだよ。知性があるって言えばいいか?兎に角、話し合いで済めばいいが戦闘になったらそこらのボスより面倒な戦いにはなるだろうさ」

『なるほど、知性を……まるで私みたいだな!』

「お前は全く違うものだけどな」


そこらのモンスターとは違い特殊な能力を持ち、それでいて考えられるだけの知性を持つ。

これだけでも厄介さが跳ねあがるだろう。

ただ、それは戦闘をする上での話ではあるのだが。


「まぁ、ただ中には非好戦的な守護者も居たりはする。今回は殺気飛ばしてきてるからそうじゃねぇのは分かり切ってるがな」

『成程……ちなみに主人様はその類の守護者に会ったことはあるのか?』

「あるにはあるが……ありゃダメだ。参考にならん」


過去に一度だけではあるが、出会ったことはある。

が、しかし。アレについては考えても仕方がない。

非好戦的、といっても俺はアレに殺されかけたのだから。


そう言う意味では、噂に聞くきちんと対話が成り立つ守護者とはあったことがないのかもしれない。

今回の守護者もそうだが、次にいつ人型の守護者と出会えるかも分からないし、一生出くわさないトレジャーハンターもいるくらいだ。

そんなに気にすることでもないのだろう。

それに、そんな話が出来る守護者なんて攻略しがいのないモノはこちらから願い下げだ。


「……っと。この辺、変に罠が少ねぇな」

『……こちら的には、先ほどよりも空気中の魔力の濃度が上がったが?』

「となると、だ」


鎧と話しながら殺気が濃い方向へと進んで行く。

辿り着いたのは1つの大部屋。先ほどまで入口に集まっていた俺以外のトレジャーハンター全員が派手に戦闘をしても問題ない程度には広いそこには1つの扉と1人の少年が居た。


「相手は後衛に近い何かだろうな」


ローブを被った少年に見えるソレは、俺が入ったのを確認するや否や巨大な炎を空中に幾つも生み出し射出してくる。

1つ1つに濃密な魔力が込められており、下手に喰らえば消し炭すら残らないだろう。

それぞれに当たらないよう注意しながらも、腰に下げていた短剣を手に取り守護者と思われる少年へと前進する。


守護者は強い。

これまでも厄介な点をこれでもかと挙げてきたし、実際の経験的にもその攻略難度は高い。

それが人型となればまた別次元となる……が。

所詮は守護者は『守護者』なのだ。


「守護者が強い、厄介と言ってもだ」

『お、おい主人様!?』

「戦闘経験がほぼ無ければ、いくらでも隙をつける」


そうして避けつつも素早く守護者の前へと移動した俺は、そのままの勢いで短剣を恐らく首がある辺りへと突きつける。が、その刃は相手に届く前に半透明の薄い壁のようなモノに止められてしまう。

しかしそれも予想通り。魔術らしきものを使ってきた時点で何かしらの魔術的防御は持っていると考えていたからだ。


一瞬だが俺の動きが止まる。勢いが完全に失われ、守護者の前で無防備な姿を晒してしまっている。

それを見た守護者は、急速に魔力を練り……俺を焼き殺さんと先ほどまで撃ってきていた炎よりも更に一回り大きいものを頭上に作り出しそのまま俺へと向かって射出した。

……普通ならここで終わり。だが今回は……。


人1人くらいならば簡単に呑み込めるほどの大きさの炎が目の前まで迫ってくるが、俺は気にせずに半透明の壁に突き刺さっている短剣を押し込んでいく。

その姿を嘲笑するように守護者は肩を震わせるが、次の瞬間。


『全く、いくら私が居るからと言って無茶をしすぎではないか?』

「ハッ。良いから防具としての役割をこなしやがれ」

『言われなくとも』


鎧が展開した魔力障壁に炎がぶつかり、完全に俺への被害をゼロに抑え込んだ。

今回は鎧が居る。それによって取れる選択肢の幅が広がっているのだ。

一見捨て身の様に見える特攻も、鎧の防御支援によって攻防一体の戦法に代わる。


信じていないとできない戦法?

いいや、違う。

信じてないからこそできる戦法だ。


今回の守護者が使ってきている炎を射出する魔術。

コレを喰らえば俺はひとたまりもないだろう。当然だ、普通の人間に耐火素質なんてものはない。

では鎧は?……結論から言えば、鎧も無事ではすまないだろう。

鉄の鎧という身体を持つ以上、熱を過度に加えられれば変形もするし俺1人を呑み込むほど大きな炎に包まれれば最悪溶けてしまう可能性もある。


だからこそ。

だからこそ、こいつは自分を身に着けている俺が炎に呑まれそうになったら自分の為に(・・・・・)障壁を展開するしかないのだ。


俺はそれに少し笑いつつ。未だ半透明の薄い壁に刺さっている短剣を押し込みつつも、更に新たな短剣を取り出し突き立てていく。

一本でダメならば二本。二本でダメならば三本と、数を増やし壁が割れるまでそれを繰り返していく。


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