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旅する少女と祠の呪い  作者: kokohuku
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店主の言葉

――いらっしゃい。


ああ、あんたか。


店を閉めていたのはこっちだが、しばらくぶりだな。


で、どうだい、読み終わったかい?


ほう、そうか。


まあ、その顔を見れば大体の予想はつくが……どうだったね、趣味に合うものだったかい?


はは、なにも『つまらないもの』を薦めたつもりはないんだ、言葉なんて選ばず素直に教えてくれたらいいさ。もしそれが『つまらない』と感じた感想であれば、薦めた側の目利きがなってなかっただけさね。


おいおい、どうしてそんな顔をする。悪かったよ、予防線を張ったわけじゃあなかったが、あんたがそう思ったなら言葉選びがまずかった。


それで、どうだった。面白い、そう感じてもらえたかい?


ふむ、やっぱり難しい顔になるんだな。


なに? ……ああ、それはそうさ、良いことなんて立場によって変わるもだ。

それは現実であっても、フィクションの中であっても変わるものじゃない。


世代や性差、言葉や肌の色、そして裕福であるかそうでないか。


例えば、学校という一つのコミュニティーの中でさえ、複数様々な「常識」が形作られ、その常識に合うか合わないかによってまた小さなグループが作られる。そして、そのグループ同士の摩擦が看過できないレベルにまで大きくなると、喧嘩や苛めへと変化していくものだ。


けれど、そのグループ同士の摩擦は、元をたどればどちらが悪いという事のないもの、と言うのがほとんどなのさ。もちろん、社会規範と照らし合わせれば法律が物差しになってどちらの方が『悪』であるというのははっきりするし、言葉を戦わせることもなく相手を害することはやっちゃあいけないなんてみんなが分かってることのはず。

それでもそんな「やっちゃいけない事」が起きるのは、自分の中に「譲れない何か」があるからさ。

それが、他人からしてみればどんなにちっぽけなものであっても、「私にとっては大事なもの」と言うものがあれば、それは戦う理由になるものだからな。


まあ、なんだ。


もしよければ、珈琲でも飲みながら感想でも聞かせてくれると嬉しい。


元号も変わって新しい時代になったんだ。


うちの店にも新しい何かが、必要かもしれないからな。


はは、そうかい。なら、いつもの席で待っていてくれ。


すぐに、珈琲を用意しよう。

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