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旅する少女と祠の呪い  作者: kokohuku
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十三話 『 かくて、竜神は吠え猛る 』

 不気味さを感じさせる静かな地鳴りは少しずつ大きくなって、放射状に走る地割れは次第に深く大きくなっていた。

 カルネの言葉をどこまで信じていいのか分からないが、地鳴りに地割れという、山で起きたらその多くが一大事に繋がる出来事が今目の前で起きているのは事実だ。

 そしてそういった物事を知っているのが山村に暮らすマルコとアニールであれば、その行動は早かった。

「マルコ、私、行かなくちゃ」

「ええ、早く村のみんなに伝えましょう」

 マルコはキノコとマメを、申し訳なさそうにうつむく二人を見た。

「お二人は早く山の上へ行ってください。あとの事は僕たちに任せて」

 微笑み言うマルコにアニールも続く。

「私たちは村にこの事を伝えて、後から行きますから」

 マルコとアニールのその対応に、マメとキノコはぐっと息を詰まらせて半秒。

 顔を上げ、決意が込められた表情を向けた。

「いいえ、うちらもご一緒させてください。これはうちらの仲間がしでかしたことです。先にうちらがおめおめと避難できることじゃありませんや。なあ、マメ」

「ああ、そうともさ。仲間がしでかしたことは仲間が後始末しなくちゃならねぇ。それがここまで大きなことになってんなら余計に逃げられませんがね、お二人とも! 何の役に立つかわからねぇが、ええ、このマメだって、村人一人抱えて逃げることくらいならやって見せまさぁ」

 どんっ! と胸を叩いて二人は力強くうなずいた。

 マルコとアニールは目を丸くして、お互いを見やるとクスと笑う。

「なら、お願いします。僕たちの大切な人たちを、守ってください」

「たとえ村が流されたって、みんながいれば何とかなります。ううん、して見せますよ、村長だもん!」

 四人は笑みを作ると行動を始める――その直前で。

『どうやら、話はまとまったようね』

 いつの間にかすぐ近くに居たミイ姉さんがひと鳴きすると、マルコとアニールの服の襟を咥えて勢いよく自分の背中に放った。何かコツでもあるのか、二人ともちょうどまたがる格好になるのだから素晴らしい。

 変わってキノコとマメはと言えば、二人とも尻を突き上げられて、ごそごそした手触りの毛むくじゃらに跨っていた。何だと思って股の間をみてみれば、跨っているのは巨体の猪で、あまりに傷だらけの恐ろしい面貌に二人は降りることも出来ずに固まってしまった。

『俺が気を失っている間、どんな事を言い合っていたのか分からんが、しでかしたのはぬしらの仲間なのだろう。であれば無理にでも付き合ってもらうぞ』

 一般のホルスタインや猪の個体の大きさが『小さい』と言えるほどの二頭の獣に担がれて、マルコとアニールは後の事を察し、キノコとマメは頭の中を真っ白にした。

 そして、そんな巨体を有する二頭の陰から、オーバーオールを着た真っ白なヤクの子牛であるルチルが『死んでなくてよかったよー、ふえぇええん』と泣きながら姿を現す。ミイ姉さんが呆れたように笑う。

『ほおら、ルチル。もう泣かないの。山ヌシ様が生きていて嬉しいのは分かるけど、今から村のひと達を助けに行くんだから、ね?』

『ぶへぇ、分かってます。分かってますけどぉ……ぐしゅぅ』

 ルチルの涙は止まらない。あのとき、カルネから見れば巨大な猪を撃っただけだったが、ルチルの眼には巨漢であっても人の姿の生き物が散弾銃で撃たれたように見えているのだから、そのショックは計り知れないものになっている。

 だが、撃たれた当人である山ヌシは、樹木への全力の体当たりによる昏倒から目を覚ましてみれば、散弾銃に撃たれたことなど気にする様子など微塵もなく、また傷が増えたな程度の事としていた。

 だからルチルへの対応もそっけない。というより冷たい。

『ルチルとやら、泣き止め。そんな事ではまともに走れん。村人を殺す気か』

『そんなつもりはありません!』

 ぷうと頬を膨らませてルチルはミイ姉さんの横に並んだ。

 それを合図と取ったのか、ミイ姉さんは『じゃあ、急ぎましょうか』とルチルと山ヌシに声をかけて走り出した。

 最初は背中の二人が落ちないように、次第に速度を上げて、最後には跳ね飛ぶように山を下っていくミイ姉さんと山ヌシ。ルチルはついて行くのがやっとといった様子だったが、二人に比べて圧倒的に体が小さいことを利用すればなんとか置いて行かれることはなかった。


 そして、一行が人間には絶対に真似できないだろう速度で山を下り始めてから、五分ほどが経ったその時。

 それは起こった。

 ひときわ強い揺れが二ペソの山を真下から突き上げるように発生した次の瞬間、さっきまで居た池の直径を遥かに超える太さの水柱が、天高くまで噴き上がったのだ。

 まるで――――池の底で眠っていた竜神が、吠え猛る姿のように。


次回 「 形のない恐怖 」

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