十一話 『 到着 』
ビキ、バキ……ビキビキビキビキビキッッッッ! という、不吉を還元したような音と一緒に、池の周囲に放射状のひびが走った。
それとほぼ同時に、マルコ達は池に到着した。その一団にミイ姉さんがいるのは、どうしてなのか。飼い主のマルコにも分からなかった。
「これは一体、何が起きてるんでしょうね……」
あたりを見渡しながらマルコが言い、アニールがそれに反応を返す。
「私には、分からない、けど――」
何か大変なことが起きていることだけは、場の空気で伝わってくる。池の中央から放射状に広がる地割れに、そこかしこから動物たちが山の上を目指して駆けていれば、どんなに察しの悪い人間だって何か良くないことが起こることを感じ取れるというものだった。
そんななか、カルネを探して辺りを見ているマメがキノコに言う。
「まさか姉さん、何かしでかしたんじゃあねぇかなあ……?」
「おいおい、マメよぉ。何かって何だい。こんな地割れみたいなこと、いくら姉御が気の強い人だからって、出来やしねぇだろう。山の神様がしこでも踏んだんじゃぁあるめえし」
「いや、だけどよ、キノコ。もし、もしも、だぜぇ。もし万が一、マルコの旦那が話してくれた祟りってやつのせいだとすればよぉ……」
「ハッ、何だマメ、そんなこと信じているのかい? そんな祟りなんて――」
『それが、あるのよねぇ』
このとき、キノコの言葉を遮るように、ミイ姉さんがひと鳴きした。話がしたかったわけではない、驚くのは良いけど足を止めないでと合図を送るためだ。
ホルスタイン種とは思えないほど体の大きいミイ姉さんに背後から鳴かれて、その大きさに慣れないマメとキノコはびくと肩をすくめて、地鳴りと地割が広がる池の方へと足を出す。続くようにマルコとアニールも歩きだした。
そして、歩き出せばすぐに目に入るカルネの姿。
けれど、カルネを見つけて「ああ、よかった無事だった」と胸をなでおろす者は、誰一人いなかった。
「カルネ、さん……?」
詰まるようにその名前を口にするマルコ。
十メートル前後の距離をあけて立っているカルネの手には猟銃が握られていて、さらにその数メートル先、カルネの視線の先には大きな猪と、その猪に覆いかぶさるオーバーオールを着た真っ白なヤクの子牛がいる。妙なのは、オーバーオールを着た白い子牛の至る所に、真っ赤な汚れの様なものついていることだ。
「――ッ!」
マルコは走っていた。まるで胸の中に腕を突っ込んで、心臓を直接握られでもしたような痛みと苦しさがマルコを襲っていた。でもそんな事なんてどうでもよかった。まさか、という思いを一秒でも早く晴らしてしまいたかった。そしてそれはあとから続くアニールたちにも言えることで、一番後ろを行くミイ姉さんにも、同じ胸の痛みと焦りが襲い掛かっていた。
大きな猪に覆いかぶさる格好のルチルに駆け寄り、マルコはその体を見る。
「大丈夫かい! 怪我したのかい!」
声をかけながら赤く汚れた場所を注意深く観察し、怪我がないか一つ一つ見ていく。
その途中でルチルの頭がふと持ち上がった。
ルチルはその場に集まってくれた全員を確かめるように視線を動かすと、一つの所でピタリと止めてその顔をクシャリとゆがめた。
『ミルク姉さん……山ヌシ様がぁ……』
ミイ姉さんはルチルの不細工な顔を向けられて、わずか息を止めて目をつむり、自分を落ち着けるように呼吸をしてから、歩み寄った。鼻先でルチルの頭を撫でるようにこすって聞く。
『ルチル……何があったの。教えてちょうだい』
ルチルは山ヌシとカルネの間で視線を往復させてからたどたどしく話し始めたのだった。
次回 「 決裂 」




