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旅する少女と祠の呪い  作者: kokohuku
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四話 『 覚悟――前編 』

 自分はいったい何をやっているのだろう? という思いが、一切ないことはなかった。

 だが、それでもカルネは、今ここに自分がここに立っていることが間違っているとは、考えなかった。

 ずっと一緒に旅をしてきたマメとキノコに黙って一人勝手な行動に出たことだって、カルネにはカルネなりの理由がある。それが例えどんなに下らない理由――たった数日の休養を我慢できなかったという、それだけのものであっても、カルネにとってそれはとても価値のある行動だったのだ。故郷を守る、家族を――妹を守るためには、たくさんのお金と、それを用意し薬に変えて故郷へと持っていくだけの時間が必要だ。それに、無理に理由を増やそうと思えば、文献にあった呪いやら祟りやらから二人を守るためだと、自分を正当化するための言い訳だってあった。

(……それに、あいつらを連れてくれば、万が一にもアタイを止めることがないからね)

 カルネは池の中を泳ぎながら、自嘲気味に口角を持ち上げた。

 手に持つのは麻の袋。潜った先の池の底には、特徴的な形の白い石が目印として置いてある。透明度が高く、陽の光がそのまま底まで照らしていて、見渡すまでもなくのっぺりとした池の底が俯瞰できる水の中には、一本の石柱の様なものが中央に立っていた。その石柱に向かう形で、池の淵かららせん状に底を浚うカルネは、もうすでに幾度体を水に浸しただろうか。手足の指だけじゃない、体の先端から水にふやけ、皮膚が厚く水分を吸いこんで、煮崩れる寸前の芋の様なありさまは、自分で見ても気味が悪くなってしまうほど。

 それでもカルネの手足は動き、肺は空気を蓄え、池の底で金を含んだ泥を麻袋に詰め込んでいく。何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も――――何度も。

 つい先日に体が動かなくなったことも忘れて、たった数十センチの川で溺れた恐怖なんて綺麗さっぱり記憶から追い出して、メートル単位の水深で取りつかれたような執念を燃やすカルネの表情は、どこか狂気じみた色が見え隠れしていた。

 繰り返される単純作業。ただただ池の底を浚い、岸に引き返しては泥と金とを分けていく。そして分けられた金は、それが砂金だという事を考慮しても、人ひとりがしばらくの間遊んで暮らせる程度の量が集められていた。

 しかしカルネは体を休める様子を見せない。大量の砂金を見ていても、満足そうな顔を作ることもない。

「――これじゃあ、この程度じゃダメなんだ……まだ、まだ、必要なんだ……っ!」

 カルネは池の底から浚った泥を水に溶かしながら、血でも吐くように言う。ぎらつく目を池に向ければ、それは池の中心に手が届きそうな場所を睨み付けていて、もうその辺りまで池を浚ったという、もう残り少ない範囲にしか金がないという事を、改めて確認するものだった。

 二ペソ村の診療所を抜け出して一日以上の時間が経ち、集めた金は個人の財布に収まることのない金額になることは分かっている。だが、故郷の病を全て完治させるだけの、高額の薬を買い揃えるにはまだ足りないのだ。

「一回薬を飲めば元気になるものなら、今の量だって助けられるかもしれない。けど、神様ってやつはそう簡単に試練を終わりにしちゃくれないからねぇ……本当に、くそったれだよ、世の中ってやつは!」

 最低でも七日。様子を見てもう二日。一日に二度の薬を飲まなければ『五年掛かり』は完治しない。だというのに、それは一回分で一財産を売り払うレベルの高額さ。それは、カルネでなくても神を呪う言葉を吐きたくなることだろう。

 カルネは奥歯を噛みしめて作業を続ける。

 ふやけた手足を水につけ、一つの村を、そこに住む命を全て救うという傲慢を成し遂げるために、決意する。


次回 「 決意――後編 」

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