二話 『 ソダチ 』
マメとキノコ。そんな二人のやり取りを後ろに聞いて、アニールとマルコは互いの顔を見合わせた。アニールは自分が言ったことで心配を加速させたのではと少し気まずそうな、マルコはそんなことないですと言うように勇気づけるような表情で。
マルコは足を止めずに気持ちを告げる。
「キノコさんもマメさんも、心配ですよね。一緒に旅してきた人が急にいなくなったら、当然そう思うはずです。僕だって、アニールさんが突然に姿をくらましたら、心配でたまらなくなりますし。それはきっと、アニールさんも同じだと思います」
「そうだね、私も大切な人が……マルコがいなくなったらって思うと、心配で仕方なくなると思う」
「それに、一緒に旅をするって、きっと村から出たことない僕には分からない、大きくて掛け替えのない何かが、お互いの心に生まれると思うんです。同じ目的のために寝食を共にして、同じ苦労を乗り越えていくんですから」
って言っても、村に何もないって言っているわけではないですけどね、とマルコは笑った。
その笑いに含まれた気遣いがマメとキノコの気持ちを和らげる一助となったのか、池に行く道を後から続く二人も、互いの顔を見合わせて肩をすくめたり口角を持ち上げたり。さっきよりも気が楽になっているのは確かなことだった。
マメは感心したように口を開く。
「二人とも、あっし達より若いってぇのに、ずいぶんできたお人だ。なあ、キノコ」
「ああ。だからこうして、口の悪い姉御の事でも心配してくれて、一緒に探しにも来てくれるのさ。しかも、お二方がいなければ姉御を探しに出ることもできなかったんだぞ? ありがたいことだよなあ」
「そうさ、全くその通りさ。二人とも本当に、ありがとうございますぜ」
ほめちぎるように言われて、マルコは背中がむずがゆくなった。進むマルコの後ろでアニールは自慢げに頬を緩める。
「いえいえ、そんな事は。それに、そのお礼はまだ受け取れませんよ」
「そんな! あっしらは本当に感謝してるんですぜぃ!」
「ああ、違います、違います! 勘違いさせたなら謝ります。けど、本当にまだ、お礼をされるようなことはしてませんよ、僕たちは」
「そ、そうなんですかぃ?」
マルコは後ろのマメに頷き微笑んでから足を止めずに言う。
「例えば、ミルクを買いに来たお客さんにミルクを渡せなかったら、いくら渡したい気持ちがあっても『ありがとう』の言葉を受け取れないように。捜索を手伝うと決めた僕たちは、カルネさんを見つける前に『ありがとう』を受け取るわけにはいかないですよ。それを受け取れるのは、カルネさんを見つけたとき。そして――三人がカルネさんの故郷を救った後でないと。そうですよね、アニールさん」
「うん、マルコの言う通りだよ。まずはこの迷路みたいな道を進んで、池に到着しなくちゃ。マメさんもキノコさんも、心配はそのあとで!」
「それに、カルネさんは二ペソの地図を持っていなくなっているんですよね。だったら、信じましょう。この道の先、お池にカルネさんはいるって」
言われた言葉に、マメもキノコも互いを見合わせて頭を振っていた。呆れたような笑みまで浮かぶ。けれど馬鹿にしているわけではなく、あまりにも真っ直ぐな言葉だったから少しばかり唖然としているのだ。言葉遣いそれだけを見てその人を判断することはいけないことだが、マメもキノコもそれ相応の場数を踏んでいるから今のような口の利き方になっていて、マルコやアニールのさっきの言葉が今の行動と一緒に出てくることに驚いていいやら呆れていいやら。そんな気分にさせるのだ――。
次回 「 走り出す 」




