幕間
――いらっしゃい。
ああ、何だ、またあんたか。
足が近くなったな。
いやいや、なんてことはない。
このまま常連になってくれたらいい、そう思っただけさ。
それで、今日はどういったご用件で?
まさか、珈琲を啜りに来たのか。
言っちゃあ何だが、もっと他に良い場所はある。
最近なら、近くにできたパン屋が珈琲も出してくれるはずだ。
こんな辺鄙な場所じゃあ、くつろぐことも出来んだろうに。
いやまあ、気に入ってくれたのなら文句なんてないんだがね。
しかし、参ったな。
……ん?
ああ、豆を切らしていてね。
明日にでも買いに行こうと思っていたんだが……。
なら、手元のカップはなんだ――って、これは自分で飲むように番茶を炒ったものだ。
一般的にほうじ茶って言われるもんだよ。
おおっと、ならそれで良い、なんて言ってくれるなよ?
なにせ、今飲んでいるこれも最後の最後に残ったものなんでな。
残りなんてあるはずがない。
とは言うものの……せっかく来てくれたお前さんに、茶の一杯も出さず追い返すわけにはいかない。
こんな店に来てくれる奇特な人間、そうそう居ないからな。
と言うわけで――お前さん、少し店番をしていてくれないか。
なあに、客なんて来やしない。
お前さんは窓の前のスペースにある椅子に腰かけて、本でも読んでいてくれればそれでいいさ。
不用心だって?
ほう、お前さんは用心しなきゃならないやつなのかい――。
ふん、そうでないなら……ほら、小さいやつだがテーブルと照明を用意してやろう。
今日は曇りだ。暗い手元で読むのは目に悪い。
それに、物語の色も変えちまうもんだ。
そうさな、三十分程度で戻ってくるつもりだが、万が一、客が来たならこう言ってくれ。
『店主なら豆を買いに行った』
ここに来る客なら大方そう言えば分かってくれる。
じゃあ、留守番頼んだよ――――帰ってきたら珈琲を入れてやろう。
次回 第三章 一話 「 もやもやルチル 」




