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旅する少女と祠の呪い  作者: kokohuku
34/62

幕間

――いらっしゃい。


ああ、何だ、またあんたか。


足が近くなったな。


いやいや、なんてことはない。

このまま常連になってくれたらいい、そう思っただけさ。


それで、今日はどういったご用件で?


まさか、珈琲を啜りに来たのか。


言っちゃあ何だが、もっと他に良い場所はある。

最近なら、近くにできたパン屋が珈琲も出してくれるはずだ。

こんな辺鄙な場所じゃあ、くつろぐことも出来んだろうに。

いやまあ、気に入ってくれたのなら文句なんてないんだがね。


しかし、参ったな。


……ん?


ああ、豆を切らしていてね。


明日にでも買いに行こうと思っていたんだが……。


なら、手元のカップはなんだ――って、これは自分で飲むように番茶を炒ったものだ。

一般的にほうじ茶って言われるもんだよ。


おおっと、ならそれで良い、なんて言ってくれるなよ?


なにせ、今飲んでいるこれも最後の最後に残ったものなんでな。

残りなんてあるはずがない。


とは言うものの……せっかく来てくれたお前さんに、茶の一杯も出さず追い返すわけにはいかない。


こんな店に来てくれる奇特な人間、そうそう居ないからな。


と言うわけで――お前さん、少し店番をしていてくれないか。


なあに、客なんて来やしない。

お前さんは窓の前のスペースにある椅子に腰かけて、本でも読んでいてくれればそれでいいさ。


不用心だって?


ほう、お前さんは用心しなきゃならないやつなのかい――。


ふん、そうでないなら……ほら、小さいやつだがテーブルと照明を用意してやろう。


今日は曇りだ。暗い手元で読むのは目に悪い。

それに、物語の色も変えちまうもんだ。


そうさな、三十分程度で戻ってくるつもりだが、万が一、客が来たならこう言ってくれ。


『店主なら豆を買いに行った』


ここに来る客なら大方そう言えば分かってくれる。


じゃあ、留守番頼んだよ――――帰ってきたら珈琲を入れてやろう。

次回 第三章 一話 「 もやもやルチル 」

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