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旅する少女と祠の呪い  作者: kokohuku
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十五話 『 そそる香り 』

 立派でも瀟洒でもない普通の家。玄関前に灯篭の様な小さな石塔があることを除けば、診療所からここまでで目に付いた家屋とそう変わらない。なのに、玄関に手が届くところまで近づけないのは、カルネにとっての圧が玄関から染み出ているからか。

(さぁて、なんて言おうかねぇ)

 最初の言葉は決まっているが、そのあとになんと説明したらいいのか。先にマメとキノコが呼ばれているらしいが、主導として立っているのは自分だ。「もう聞いたんだろう?」だけで事が済むとは限らない。

(まあ、洗いざらいしゃべっちまったって、何ら不都合なんてない気はするけどね。探しているものが砂金だからって、それが本当にあるとは限らないし、そもそも川からほど近い村の人間が砂金の取れる川を見逃しているのも妙な話なんだ。伝承や文献を漁ってようやっと二ペソの山って所まで突き止めたのは良いけど、山は広い。正直なところ、村から近いあの場所からしらみつぶしを始めてみたってだけだからねぇ)

 冷静になって考えてみれば、今日溺れたあの場所で、意地になってつるはしを振るい続けることはなかった。自嘲も甚だしい気分で、目覚めてから幾度目かの愚かしさを噛みしめる。

 大きく息を吸って、息を切る。それから玄関の直前まで歩を進めた。

 ノックしようと腕を上げ、けれど躊躇いがでて動きが止まり、それでも動かなければと玄関扉を叩く――数瞬前だ。

 玄関横に開いた窓から、それは聞こえてきた。


『 ―― ありますよ、砂金。僕が思っていることに間違いがないのなら、あの池に ―― 』


 息が止まった。

 なのに、心臓はドクンッ! と脈打って痛いほどだった。

(まさか……!)

 咄嗟に壁に背中を押し付けて、窓に寄っていくカルネ。

 自分がなぜこんなことをしているのか分からない。

 しかし、カルネは息をひそめていた。

 続きが気になる。

 どんな話で「砂金がある」なんて言葉が出てきたのか。

 あるのなら、どこにあるのか。

 カルネは耳をそばだてて、話の全てを聞き逃さないように窓の横に立つ。

 ひどく落ち着かない気分。高揚しているのか、盗み聞きの罪悪感なのか、隠れようとしているのに呼吸は乱れ、胸の鼓動がやけに大きく、家の中まで聞こえているのではないかと思うほど早くなる。本当なら家の中に入ればそれで済むこと。ノックをし、儀礼的な文句を言いあって、改めて今の話を詳しく聞けばいい。

 なのに、カルネはそれをしなかった。

 二十分もない短い時間、窓の横に立ち続けた。

 そして、カルネは――。

 最後の最後まで、玄関を叩くことはなかった。


 玉ねぎやニンジンといった野菜の甘い匂いと一緒に、胡椒の食欲を誘う刺激的な香りが充満していた。

「お帰り。もう少し遅いかと思っていたんでな。まだスープは出来ておらんよ」

「……、なんだい。本当にスープの用意をしてくれていたのかい」

「医者は時に嘘つきだが、患者との信頼関係を築くために、手作りスープだって振舞うこともあるんだよ」

「ふん、それで治療費をふんだくる気なんだろう」

「ほっほ。お前さんが商業都市ナナチカに豪邸を構えているならそれも選択肢の一つかもしれんが、そういう人間ならあの川でおぼれたりせんと思うからのう」

 コルトンは鍋をゆっくりとかき混ぜながら笑った。

 カルネは肩をすくめる。

「そう言えば、戻ってくるのはお前さんだけか。あの二人はどうした」

「ああ……あの二人なら、そろそろ戻ってくるんじゃないかい?」

「なんだ、一緒にいたのと違うのか」

「まあね。村長の家に着く前に息が上がって、そこらで休んで戻ってきちまったのさ」

「ふうむ、そうか。ならば仕方ないのう」

 鍋をかき回すコルトンの背中を眺めるでもなく眺めるカルネは、無意識のうちに頭を振った。

(……アタイは、やるしかないんだ)

 鍋から上がる食欲を誘う暖かな湯気で満たされた部屋に、背を向けるカルネ。自分が寝かされていた部屋のドアノブを握って、コルトンに言った。

「スープ、ありがとう、先生。でも、アタイは少し横にならせてもらうよ。出来上がったら声をかけとくれな」

 そして、返事を待たずにカルネは部屋へ引っ込んだ。

 コルトンはそれを背中で見ながらゆっくりと、鍋をかき回した。


次回 幕間

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