十二話 『 忸怩たる悔恨 』
カルネたちが調べた伝承や文献に、二ペソ村という集落は登場しない。二ペソという山があり、そこには財たる金色が眠るという文言があるだけ。それは二ペソ村が比較的に若い村だからということもあるが、カルネたちが手にした文献や目にした伝承がとても古いものであり、それこそ山に神が宿ることが一般常識として認知されるような時代の物だからだ。
そんな伝承や文献を紐解き、書いてある暗号の様な文章を現代の言葉や考え方に置き換えて読み解いた結果、二ペソの川には砂金が沈殿しているのでは? という答えに行き着いた。
それは各地に息づく財宝の夢物語の一つに過ぎない。
しかしカルネはそれを信じ、藁にも縋る思いで手を伸ばしてここまで来た。
そうでなければ故郷がなくなってしまう。とても小さな村で、誰に村の名を告げても知る人のないところであっても、そこは確かにカルネの故郷で、自分の家族も暮らしている。
母はもう『五年掛かり』によって亡くなっている。父はまだ存命だがやはり病に侵されていて、あと二年もないうちにこの世を去ることは確実だ。それに何より、カルネの心を苛んでいるのは、幼い妹が後たった半年で死んでしまうこと。五年掛かりのせいで故郷も家族もボロボロにされ、このまま故郷に帰っても出迎えてくれる人間さえ苦しみの中で見送らなければいけないなんて、カルネには我慢できない事だった。
だから、カルネは旅に出た。故郷を救うために。父と、かわいい妹を、母のように見殺さないために。
だから、カルネは――。
ベッドの上で目を覚まし、まず目に入ったのは自分の腕につながれた点滴だった。
視線を巡らせてあたりを確認すれば、ここが小さな部屋だということがわかる。着ていた服は簡素な寝間着になっていて、部屋のテーブルには紙袋が乗り、窓から外を見れば陽は少し西に傾いていた。
どれくらい眠っていたのかは分からない。そもそも自分が一体いつ倒れたのかがわからない。
覚えているのはマメとキノコに対する申し訳なさと、体にまとわりつく水の重たさ。死に対する恐怖より、自分のせいで目的を果たせない不甲斐無さやら悔しさやら。結局、自分が今ここにいる、ベッドの上で点滴を受けているということは、誰かに助けられて命を守られたということにほかならない。
奥歯が痛々しく鳴り響いた。歪む表情に鋭くなる目元。点滴が繋がっていない腕を持ち上げて顔を隠すのは、睨む自分の愚かさに、流れる感情を止められそうになかったから。
(自分一人の命すら誰かに守られていて何が故郷だ……ちくしょう。――ちくしょう)
肌も髪も唇も、何もかもがボロボロで。つるはしを何度も振るっていた両掌はマメになるどころか皮膚が剥がれ、今は包帯が巻かれている。
こんな状態で、故郷を助けるなんて出来るはずがない。砂金を集め、それを換金し、薬を買う。薬を手に入れたら故郷へと長い道のりを引き返し、村人が全員病に負ける前に救わなければならない。自分の肉体が先に参っていたのでは笑い話にもならないというのに。
(砂金を手に入れなければ買うこともできない薬っていう高価さからも、自分がやろうとしていることの無謀さは初めから理解していたつもりだよ。でも……それでも! 家族を、故郷を助けるために必死になって頑張ってきたんだ。伝承を、文献を、漁りに漁って努力してきたんだ! なのに……アタイは……っ!)
顔を隠す手に自然と力が入っていく。握りしめたこぶしがブルブルと震え、その力が臨界に達して無意識にベッドを殴りつけようとした――ちょうどその時。
コンコンッ、と。
部屋の扉が叩かれた。
次回 「 古ダヌキは食べられない 」




