幕間
――いらっしゃい。
おや、あんたか。
どうしたね、もう読み終わったのか。
違う……?
ほう、何となく足が向いた、か。
店を構えた人間としてありがたい言葉だが、さては、趣味に合わなかったか。
……ふん、そんなに慌てることはないだろう。
小説というものはどんなものでも娯楽のためにある。
楽しめないなら違うものに手を出すなんて当り前だろう。
って、おいおい。冗談だ。鞄から本を取り出して見せつけなくていい。
しおりが挟まっているのもちゃんと見えている。
まあ、気まぐれにでも店に来たんだ、ゆっくりしていくと良い。
もし飲むなら珈琲を入れてやろう。必要なら椅子も用意する。
なに、めったに客もこない小さな店だ。コーヒーを飲みながら呆けるには最適だよ。
毎日を呆けて過ごしている店の人間が言うのだから、間違いなんてあるはずがない。
どうするね、少し休んでいくかい?
そうかい。
なら、まずは椅子を用意しよう。それから珈琲だ。
ほら、あの窓の前。小さなスペースが開いているだろう?
あそこで待ってな。陽の出た今日みたいな日は、ちょうどよく手元を照らしてくれる最高の場所だ。
しかし――あんたも珍しいな。こんな小さくて特段綺麗でもない店に顔を出すなんて。
それともあんた……いや、思い過ごしか。
じゃあ、少しばかり待ってな。すぐに用意する。
ああ、味なんて期待しないでくれよ。
俺は、バリスタじゃあないんでね。
次回 第二章 一話 「 小さくなあれ☆アウアウヒー! 」