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エリトア家のお嬢様

幻の卒業パーティー 他

作者:

エマ=エリトアの紹介文でも書こうかな~と思いついて書き始めたが……


何じゃこれ!?( ゜д゜ )状態に……(笑)


軽く読み流せる方のみお読みください。

エマ=エリトア

エリトア侯爵家の末子であり唯一の女の子。

尚且つ、一番上の子供との年の差は15歳。

(ちなみに長男との差15歳、次男との差13歳、三男との差10歳である)

兄たちが年の離れた妹を可愛がらないわけがなかった。


ましてやエリトア家が初代国王から侯爵の爵位と領地を賜ってから女子が誕生したことは一度もない。

常に男子しか生まれないため一族は『男しか生まれないのはわが一族に掛けられた呪いか!?』と思っていたほどである。

その為、一族及び領民全員がエマを可愛がった。



蝶よ花よと可愛がられたエマはさぞかし高慢で我儘に育ったんだろうと誰もが思っていた。

だが……


「ルーク兄様!また、勝手に剣を購入しましたね!先月あれだけ大量購入したのを忘れたのですか!?全部使っているのですか?倉庫に仕舞って終わりにしてませんよね?今度、国境警備隊相手に模擬戦をしてもらいますわよ!もちろん今まで購入した武器を使って模擬戦をしていただきますからね。すべての武器を扱えないようでしたら今まで購入したモノは全て国境警備隊に寄付します!」

「エ、エマ~!?」


結果:ルークも一応王立騎士団所属でかなり優秀な方だがすべての武器が扱えるわけではない。ちなみに一番得意なのは弓である。

ただ武器の魅力に取りつかれ、無意識に買い込んでいたのであった。

ルークのコレクションは一部(ルークの最後の悪あがきでこれだけわ!と父と妹に土下座して死守したモノ+観賞用に作られたモノ)を除き国境警備隊(エリトア侯爵領地にある王立騎士団の部署の一つ)に寄付されそれぞれの現場で活躍している。

国境警備隊に引き渡す時、エマがルークからの贈り物だと述べた為、国境警備隊員のルークへの好感度及び忠誠心が飛躍的に上がったのであった。




「カール兄様!先日、婚約者であるリリア義姉様へ贈る誕生日プレゼントちゃんと最終確認しましたか!?なんで当初の予定よりもランクの低い石を使った装飾品になっているんですの!?先日、セバス(我が家の執事)がお店に確認してくれたからわかったのですわよ!すぐにランクが高いモノ(宝石)に変更しておきましたからね!危うくリリア義姉様に恥をかかせるところだったんですよ!それでも熱烈な求婚をしてやっと婚約まで漕ぎつけた相手にする行為ですか!婚約したら雑に扱ってもいいと思っているのですか!?そんなんじゃあっという間に婚約破棄されますわよ!リリア義姉様は兄様と婚約した後も求婚者が後を絶たないとリリア義姉様のお父様である伯爵様が愚痴っているほどなのですからね!つまり、兄様からリリア義姉様を奪おうと思っている方が大勢いるってこと分かっていますの!?そんな人たちに隙を与えるつもりなんですか!?それとプレゼント代と称して持ち出した代金の差額はどうなさったのですか!?ぼったくられてないでしょうね!?」

「エ、エマちゃん……」


結果:もし、セバスが最終確認せずにいたら即刻婚約破棄されていただろう。リリアの父親によって。

なぜならエマ+執事が気づく前までのプレゼントはカールが選んだものとは違う名ばかりのイミテーションジュエリー(宝石に似せて作られたガラス玉)にすり替えられていたからだ。

代金もぼったくられていたが、きっちり『お話し合い』をして正規の値段を支払っている。

店主曰く、宝石とガラス玉の見分けがつかない方が悪いと店頭で喚いたため、宝石のすり替え事件が多数発生していたことが露見。

店主は逮捕、すり替えに関わった者達もそれなりの事情聴取を受け精神的苦痛を味わったようだ。

その後その店は当然のごとく倒産への道を進むことになる。


この国ではイミテーションジュエリーは小さな子供におもちゃとして与えるもので間違っても恋人に贈る物ではないというのが暗黙のルールとして存在している。

イミテーションジュエリーを恋人に贈るのは『別れたい』という男性からの意思表示だとされている。

今回はカールからリリアを奪おうとしたとある貴族子息の依頼という事で報酬をたんまりもらっていたらしい。

依頼した貴族子息とその家族をその後、社交の場で見かけた者はいなかったという。


ちなみにエマが選んだ宝石はリリアの誕生石であり尚且つ精霊の加護がついた最高級品、それを贈られた女性は一生涯の幸せを保証されるという謂れのあるものだった。



「エンディ兄様!恋文の返信くらいご自分で書いてください!侍従のジャンは代筆屋ではありませんのよ!いくら、ジャンが文才に長けているからと全部丸投げしないでください。自分の言葉でお断りの文を書かないなんて、なんて不誠実な事をしているんですか!一生懸命乙女が認めた恋文をなんだと思っているのですか!今度、またジャンに代筆させたらエンディ兄様の大本命のクララ様にあることないこと吹き込みますからね!せっかく自然に話せるようになったのにまた以前のように話しかけても無視され続けるようになってもいいのですね!?」

「や、それは……」


結果:エンディは恋文だけではなく、社交の場で群がる女性陣を器用にさばけるようになり、大本命のクララ嬢(辺境伯爵の跡取り令嬢)とも良い『友人関係』を築くことが出来ている。『友人』から『恋人』へのクラスチェンジにはまだまだ程遠いが、男性嫌いで有名な(視界にすら入れたくないと公言している)クララと親しげに話せる唯一の異性という事でエンディは男性陣から尊敬と嫉妬の眼差しを向けられているのであった。



「お父様!いつまでグダグダしているんですの?仕事に遅れますわよ」

「えーだって」

「だってじゃありません!お仕事を蔑ろにするお父様なんて大っ嫌いです」

「エ、エマちゃ~ん」

「お母様だってかっこよくお仕事しているお父様の姿を見たいですよね?」

「え?ええ……旦那様。お仕事がんばってくださいね。今日は、午後にエマちゃんと一緒に見学に伺いますわ」

「よし、わかった!騎士団に着いたら必ず俺のところに連絡を。エマちゃん、父様の働く姿をしっかり見てくれよな!じゃあ、行ってくる」

にっこり笑顔の妻と娘に見送られながら颯爽と仕事場に向かう単j……父親の姿があった。


結果:無遅刻無欠席の記録を更新中。

国王や大臣達からの信頼も篤く、デキル男性としてモテるが妻一筋、家族大事人間と認識されている。

また、騎士団の部下からは尊敬の眼差しを一身に浴びている。



とまあ、父親と兄たちを陰ながら『表舞台では立派な人達』に見えるように教育(?)をしているという。

そのおかげでエリトア家の三兄弟は貴族の令嬢からは優良物件と見なされている。

(すでに上二人は婚姻・婚約済み、三男も意中の女性にアピール中ではあるが)

もっとも親しい友人たちには残念な部分はモロバレだ。

加えて三兄弟が末っ子に甘く、弱いという事も。

もちろん、公式の場でこのようなやりとは行われていない。

もっぱら行われるのは侯爵家内だけである。

知っているのは親族と使用人のみである。

使用人には外部には一切口外しないよう雇用契約時に誓約をさせているのであった。



「それから、お母様」

「なにかしら?エマちゃん」

「私が作った化粧品を勝手に使わないでください!あれはまだ実験段階なんです。お母様(の肌)にもしもの事があったら(お父様が面倒なことになるから)……」

「ご、ごめんなさい。エマちゃんが作ったものはすっごく肌に合うからつい……」

「それでも、私がいいというモノ以外は使わないでください。薬(化粧品含む)と毒は紙一重なんですから」

「ええ、わかったわ。これからはエマちゃんから貰ったものだけを使うわ」

ウルウルと瞳を潤ませながら母親を見上げる姿はそれはそれは可愛らしいモノである。

そしてそのウルウル攻撃に母親は撃沈したのであった。



エマ=エリトア本人は自分をごくごく普通の貴族令嬢だと思っている。

だが、彼女は普通ではない。

まず、彼女は幼い頃から妖精と仲が良い。

この世界で妖精を見る事は出来ても言葉を交わすことができないのが一般的。

だが、エマは妖精と言葉を交わすことが出来る。

妖精とはいわば自然の分身と言われているものだ。

妖精にはそれぞれ属性があり、妖精に気に入られた者は魔法が扱える。

たとえば火の妖精に気に入られた者は炎系魔法が、水の妖精に気に入られた者は水系魔法が使える。

妖精=精霊であるのだが、妖精は人の形をしたもの。精霊は姿なき者と分類される。

妖精の言葉を借りると『自分たちは人の姿をとることが出来て一人前。さらに姿をとれる者の中でもランクがあり、ランクが高いほど人との区別がつかない姿で生活している』という。

エマは全属性の妖精に気に入られ、尚且つ妖精の長、つまり妖精王にも気に入られている。


妖精から魔法が使えると聞いたエマの行動は早かった。

両親に泣き脅しをかけて通常5歳から始める教育を3歳から始めた。

エマは乾いた大地に水が吸収するように様々な知識を吸収していった。

国立魔術学園の初等部に入学する頃には高等部の勉強まで進んでいたが本人は気づいていない。

これは家庭教師たちが勉強に意欲的なエマに刺激されあれこれ教えた結果に過ぎない。

通常、貴族令嬢は社交マナーが中心で歴史、文化、他国情勢(政治を含む)などの勉強はほとんどしないというかさせない。

女は男に黙って従い、子を産み育て次代に繋げるだけの存在。という男尊女卑の風習が根強く蔓延っているための考えともとらえられる。

しかし、エマはありとあらゆるものに興味を持ち「あれは?」「これは?」と家庭教師に矢のように質問をしていたのだった。

家庭教師たちもエマの好奇心に刺激され、教科書には載っていないことを質問され、答えられないのは悔しいという思いからかいろいろと調べその道を極めていったのだがそれに気づいたのはずっと後の事である。


本来ならエマが高等部に入学する15歳までの雇用契約だったがエマが初等部3年(9歳)時に全員が『もう教えることはありません』と自ら雇用解約を申し出る結果になったが家庭教師たちは満足していた。

彼らはエマの柔軟な発想に驚きつつも、研究者としての魂に火を付けてしまったからである。

彼らは揃いも揃って雇用契約が終わるとすぐさまそれぞれ得意分野の研究所の門を叩き、様々な成果を上げているらしい。

彼らの口癖は『チャンスをくださったエマお嬢様のおかげ。彼女の為にも、もっともっと更なる研究を』だという。

同僚が詳しいことを聞き出そうとするが「エマお嬢様は素晴らしい人だ。彼女のためにこの研究を~」と闘志を燃やすばかりで詳細を聞き出せないという。

彼らのそれぞれの研究の結果、周辺国より文明が少し遅れていたサングリア国が飛躍的に発展するきっかけになった。

後世彼らは教科書にその名を載せることになるのだが、彼らがあずかり知らぬことであった。




***


「……で?いつまで茶番が続くのでしょうか」

扇の陰でため息をつくエマに親しい友人たちも苦笑い。

彼女達より少し離れた場所では物語によくある『婚約破棄騒動もどき』が起きているからである。


エマが国立魔術学園の中等部最終学年に進級した時、一人の少女が転入してきた。

エマが通うのは国立の学校であり、貴族だけではなく平民も通うことが出来る。

もっとも、入学基準は魔力を持っていることが第一に挙げられる。

入学試験時に魔力検査を行い一定以上保有している者のみが入学できる国立魔術学園である。

魔力が少ない者や多くの平民は各所に点在している民間の学校に通うのが一般的である。


平民であるその転入生はピンクの髪、青い瞳と人々の目を惹きつけていたが、彼女に注目が集まったのは他に理由があった。


サングリア王国の上位貴族の子息を転入してからわずか1カ月で侍らせているからであった。


サングリア王国第二王子、副宰相の次男、国防長官の四男、宮廷魔導士の愛弟子の4人を筆頭に数多の男性を常に侍らせているのである。

王子以外には親が決めた婚約者がいるが、それも破断寸前だという。


婚約者である令嬢たちは早く破棄して新しい相手を見つけたいというのに転入生の取り巻きに成り下がった子息たちの家が渋っているのが現状である。


転入生の名前はラライア。

平民だが魔力があることが分かったことから、魔術を学べるこの国立魔術学園へ転入してきたのである。

それまでは地方にある民間の学校に通っていたという。

後見人は彼女が暮らしていた領地の領主の弟君のツヴァイ男爵。

男爵は温厚で争いごとを嫌い、出世欲もない。

王都にある小さな屋敷で家族とつつましく暮らせていければいいという人だ。

もっとも出世欲はなくても彼の経理能力は国内随一。

宰相が『ぜひ、財務省に入ってください』と男爵に頭を下げてスカウトした人材である。

爵位が低いことから大臣職は辞退しているものの、財務省内ではトップ官僚の一人と言われている。

「妻や子供たちとの時間を削られるのは不本意ですのでフザケタ書類を提出した部署は問答無用で経費を削っていきますからね」と財務省次官に就任した時に宣言したという。

爵位で言えば最下位。

子爵以上の爵位を持つ者達は彼の宣言を鼻で笑って無視をしたが、数か月後。


「なぜ!うちの部署の経費が削られているんだ!」

「書類不備が多数、期限切れが多数、それに国に長きにわたって保管される書類の裏にクダラナイ落書き多数。ルールを守れない部署に経費を回すだけ無駄です」

「なんだと!?」

「それに私は宣言しましたよね?フザケタ書類を提出した部署は問答無用で経費を削ると」

「………………」

「私の言葉は秘書官が明記し、各部署に文書化して張り出してあったはずです。国王陛下の国璽と宰相様のサイン入りで。もはや見ていないという言い訳は聞きませんよ?」

にっこりと微笑みながらもその瞳の奥は笑っていない。

いつまで無駄な時間を過ごさせるつもりだと無言で語っていた。

このやり取りをたまたま見させられた官僚たちは背筋に悪寒が走ったという。

この人だけは絶対に敵に回してはならないと。

その後、財務省に提出される書類はきちっとしたモノばかりが回されるようになったという。

ただし、一度削られた経費は戻らず、彼の逆鱗に触れた部署は以前の華やかさ(浪費)が消え、質素倹約に勤めているという。

おかげで国庫が潤ってきていると財務大臣は驚きを隠せないのであった。



そんなツヴァイ男爵が後見人を務めているのだからと被後見人も彼から教育を受けてさぞ素晴らしい令嬢になっているだろうと誰もが思っていた。

だが、学園に入学した途端、彼女は男爵から受けた教育を全て放り出し、自由奔放に過ごしている。

最低限のマナーは守らない。

授業には平気で遅れる、サボる。

授業中もうわの空で指名しても答えない。

唯一まともに受ける授業が男女混合授業、ダンスの授業の時だけ。

昼休みも本来なら彼女が立ち入ることが禁止されている王族の専用席に平気に座る。

女生徒たちの交流はほぼ皆無。

彼女は女生徒たちの言葉には耳を傾けず、お気に入りの男子生徒の言葉のみ聞いている状態だ。


この状況にツヴァイ男爵とその家族は卒倒したという。

なぜなら、学園に転入する1年前からマナーを叩き込み、学園がどういう場所なのかを夫婦そろって昏々と説明していたからである。

男爵の子供達も自分達が卒業した学園のこと、社交界のことをわかりやすく教えていた。

転入前のお披露目の宴では立派な淑女の姿を披露していたから余計に学園から届く報告書に頭を悩ませていた。

表面上は理解しているように見せかけて、その実は何も身に付けていなかったという事実に打ちのめされていたのだから。

ツヴァイ男爵は幾度となくラライアに態度を改めるように忠告するが彼女は男爵の言葉に耳を傾けることはなかった。

転入から半年後、男爵は国王に彼女の後見人から外してくれるよう懇願しているという。


最終的な切り札(財務省を辞職して隣国に移住する)をちらつかせながら。



***


「せっかくの卒業パーティーが台無しですわね」

エマの呟きは思いのほか会場に響いた。


ギャイギャイ騒いでいたラライアの取り巻き達が一斉にエマの方に振り向いた。


視線に気づいたエマは優雅に微笑むとすっと一歩前に出た。

「発言をお許しください」

第二王子に頭を下げ発言の許可を得るエマに第二王子は大きく頷き許可を出した。


「殿下。この騒ぎの終着点はどこですの?」

扇で口元を隠しながら問いかけるエマに第二王子は一瞬怯んだが、エマと向き合うと胸を反らして

「ラライアが俺の妃になればすべてが収まる」

「では、なぜ他のご子息たちがこぞって婚約破棄を叫んでおられるのですか?ラライア様が殿下の婚約者に収まるのなら殿下の側近候補の方達たちが婚約破棄する理由がわかりませんわ」

「彼女たちはラライアを苛めていたのだ」

うんうんと頷く側近候補たちと胸を張る第二王子に内心エマはため息をついてた。

「その証拠は?ラライア様の証言以外で」

ラライアの証言以外の部分を強調して尋ねるエマに第二王子たちは答えられずにいた。

「なんで?私が苛められたと言えば十分な証拠じゃない」

静まり返る会場に響く甲高い声にエマは眉をひそめた。

「誰の許可を得て発言されておりますの?」

「え?」

「あなたはこの学園で何を学びましたの?それに、マナーに大変厳しいというツヴァイ男爵夫人からマナーの基礎を、この学園で淑女とはどういうモノをかを教えられているはずですが?」

遠回しに礼儀が成っていないと告げるエマだがラライアには通じていない。

「それとも社交界のルールが改変されたのでしょうか?殿下、いつから身分の下の者が許可なく上の者にモノを申せるようになったのですか?私が殿下の許可を得たのは不必要な行為だったのですか?」

にっこり微笑みながらも瞳の奥に侮蔑の色を浮かべるエマに第二王子は背中に冷たい汗をかいていた。

第二王子だけではなくラライアの取り巻きとなっていた男たちも……


いくらかの沈黙の後、エマは盛大なため息をついた。

「いじめ云々に関しては学園に設置してあるカメラの映像を証拠資料とし、調査を依頼したく思います」

エマの宣言に教師たちはバタバタと動き出した。

「カメラ?」

「あら、ご存じありませんの?学園のパンフレットにも書かれていますのに」

冷たい視線をラライアの取り巻きに送るエマ。

「現国王陛下が学生時代に今回と同じような騒動があったことはご存じ?」

小さく首を傾げ、第二王子達に問いかけるエマに誰も答えない。

互いに顔を見合わせるが誰も知らないようだ。

「父と伯父から聞いたのですが、国王陛下も学生時代”身分違いの恋”をなさったそうですわ。陛下には幼い頃からの婚約者がおりましたが、陛下は”身分違いの恋”におぼれ、公務を蔑ろにし、婚約者を邪険に扱い、卒業パーティーで婚約者に冤罪を掛けたそうですわ。もっとも、冤罪はその場で晴らされましたけど」

扇を開き口元を隠し、小さな笑みを浮かべる。

「婚約は解消、陛下も廃嫡は逃れましたが王位継承の順位を下げられましたわ。世間を騒がせた責任だなんだと理由を付けての降格でしたのに、優秀な弟君たちは周辺国から熱望され断れば戦が始まるとの事で各国へ婿入り。結局は陛下が己の行動を顧みて反省し、奉仕活動などをし地道に周りを説得され王位を継承されましたが……遠い異国の言葉にある『蛙の子は蛙』というのはまさに陛下と殿下の事を示しておりますわね」

ふふっと笑うエマに誰も声を出せずにいる。

「当時、陛下の”身分違いの恋人”が訴えていた苛めなどは彼女の自作自演であることが後に判明しました。そこで、当時の学園長は先代国王陛下に完成したばかりの『カメラ』の設置を願い出たのです。学園長の申請はすぐに通り、陛下達が卒業した翌年には、お手洗い、更衣室、シャワー室、教員の仮眠室、養護室以外のありとあらゆる場所に『カメラ』が設置され、地下室に設置された管理室で毎日膨大な量の映像が保管されております。この『カメラ』設置のおかげで、今まであった身分を笠に着るいじめは鳴りを潜めたのですわ。あと、さぼりの常習犯も減ったそうですわ」

淡々と説明をするエマにラライアとその取り巻き以外の人たちはうんうんと頷いている。


現国王のスキャンダルは秘匿することなく公式に王室から発表されていたことだし、学園に『カメラ』が設置されていることも周知されている。

生徒またはその親から申請があれば『カメラ』の映像を閲覧することも可能としている。

貴族の子達は国王のこのスキャンダルを反面教師にして『貴族』とはどういうことかを教育されてきていたのである。


「さて、お話を戻しましょう」

パンと扇を閉じ、まっすぐとラライアとその取り巻き達を見つめるエマ。

「ラライア様を王子妃にという事に関しては私共は特に反対は致しません。殿下には国が決めた婚約者もおりませんし」

エマの言葉に第二王子とラライアは驚きの表情を浮かべる。

「私共には王子妃の選定については口出しできません。殿下が、どうしてもラライア様を妃に迎えたいというのならば国に申請すればいいのです。その後、ラライア様が妃教育を逃げ出さずにやり遂げればいいだけの話ですもの」

笑顔から真顔になるエマに周囲からざわめきが起きる。

「それから、殿下の側近候補の方々」

つっと視線を第二王子とラライアの後ろに控えている取り巻き達に向けると一斉にビクリと肩を震わせた。

「なぜ、貴方方に婚約者がいるのかをよーっくご家族とお話してくださいね」

王子の側近候補であるラライアの取り巻き達は顔を真っ青にさせて会場内を見回している。

「あ、そうそう。貴方方の婚約者様たちはこの会場に居りませんわ。このパーティーには参加せずに領地にお帰りになるそうですわ」

卒業式の式典を終えたあと、側近の婚約者たちは友人たちが引き止めるのを笑顔一つで躱してさっさと学園を後にしたのだった。


「それにしても、面白いものを見せて頂きましたわ」


再び扇を開き、口元を隠すエマ。

「断罪しようとした者達がこぞってこの場にいないのにあたかもいるように振る舞っていた貴方方の姿は失礼ながらまるで喜劇を見ているようでしたわ」

「な!?」

「でも、レベルは初等部の学芸会並でしたけどね。あら、この発言は不敬罪になるのかしら」

クスクスと笑うエマに次第に周りの者達も肩を震わせて笑いを堪えている。

ラライアとその取り巻き達は顔を真っ赤のさせているが反論できずにいた。

いつもならば第二王子が『不敬罪だ!牢屋に放り込め!』と喚くのだが、顔を真っ赤にさせて震えるばかりで反論すらない。


「さて、苛め云々の結果は早ければ明日の午後にでも判明するでしょう。結果を楽しみにしておりますわ」

一気に興味が覚めたと言わんばかりにエマは美しいカーテシーをして会場を後にした。

エマに続くかのようにほとんどの令嬢が会場を後にすると、令息たちも会場を出ていく。

そして、自宅に帰ると家族に今日の出来事を報告し、今後の各家での方針が定まっていくのだった。


最後まで会場に残っていたのはラライアとその取り巻き達だけであった。



後年、この年の中等部の卒業パーティーは開催されなかったことになる。

が、映像が残っているために国が滅びるその時まで映像を治めた魔具は『幻の卒業パーティー』とラベルを貼られ保管されることになるのであった。



***




エマちゃんはごくごく普通の女の子です。

ええ、精霊の加護持ちとか錬金術に傾倒しているとか魔法をバンバン使えるとか諸々を差し引けば(笑)


後半部分は、今後書くかもしれないお話の序章的な感じのものになるかと……

(ただし、エマが主役とは限らない。まだ漠然とした構想しかないので……書けるかも不透明…ヾ(--;)ぉぃ)


お読みいただきありがとうございます<(_ _)>


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