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Ⅲ四人でゴミ袋を被って暴れております

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 紫色に輝く電撃。

 トゥーイの攻撃を喰らった。

 

 怪物が悲鳴をあげる。


「 あああああああああああああああ あ    ああああああああああああ あ   ああ !!!!」


 耳をつんざく悲鳴に、人間たちの鼓膜が嫌悪感を覚える


 肉がジュウジュウ、ジュウジュウと焦げる。

 スライムとしての水分が蒸発し、白く透き通る湯気がホカホカと立ち昇る。


「よし! いい感じですよ、トゥーイさん」


 キンシがトゥーイの魔法に賞賛をおくっている。


「このまま、いい感じに焼けるまで電流を……──」

 

 もとより殺すつもりであった。

 魔法使いとして、この世界に生息する人間として、恐ろしき人喰い怪物は必ず殺さなくてはならない。


 そうしなければ、待っているのは捕食と言うなの死。

 ただそれだけである。


 そのことを理解してる。


 理解した上で、しかしながら魔法使いの少女の言葉を否定する手が伸ばされていた。


「Wait a minute!(ウェイトアミニット!)」


 それはモアの声音であった。


 モアはキンシの体を背後からギュ、と抱き締めている。


「ぬにゃあああああああっ?!」


 モアからの熱い抱擁(ハグ)に、キンシの黒色を中心とした毛髪がブワワ! と膨れ上がっている。


「ちょっと待ってくれないか? カワイイ子猫ちゃん」


 時と場所が相応しければ。

 と言うよりかは、愛の告白をするのならばこの洒落た喫茶店はまさに相応していると言えてしまえるだろう。


 オレンジ色を帯びた魔力鉱物の灯りが照らし出す。

 モアとキンシの影が、いまは重なりあってひとつとなっている。


「あの個体は珍しい。だから、あたしの御家(おうち)に持ち帰ってぜひとも研究したい」


「え」


 古城の主である彼女から要求された。


「えええ?!」


 キンシは困惑しきった様子で、信じがたいもの見るかのような視線をモアに向けようとしている。


「だ、だだ……だって、実際にトユンさんが……善良なる一般市民の方々が、実害に合っているのですよ?!」


 それなのに、危険をみすみす見逃せと言うのだろうか。


「なに、このまま好きに餌……──」


 モアは表現方法の途中にて、自らの言葉に訂正を速やかかつ滑らかに加えている。


「──じゃなくて、大切な灰笛(はいふえ)市民の方々に危害をもたらすのであれば、古城の主、魔術師たちのリーダーとして、しかるべき対応をするつもりだよ?」


 モアの言い分に対して、キンシは包み隠すことも無く疑いの目線を送っている。


「……本当ですか?」


 疑う。

 しかし今は懐疑に議論と言う言葉を累積させている場合などではなかった。


「……」


 キンシは三秒ほど考えた。

 思惟(しい)を巡らす。


 その後に。


「……承知しました。分かりました、分かりましたよ、もう……」


 キンシはまるで面倒くさい顧客でも相手にするかのように、溜め息まじりでモアの要求を受け取っている。


「トゥーイさん!」


 そして仕事の相方でもあるトゥーイに、作戦変更の(むね)を伝えようとしていた。


「…………」


 だがキンシがすべてを言葉として表現するよりも早くに、トゥーイは彼女たちが望んでいる展開をその肉体に受け入れていた。


 トゥーイは吸い込んだ空気を吐き出さずに、強引かつ中途半端に喉の奥へと押しやっている。


 中断された魔力。

 音が途絶える、紫色の電撃がその勢いを減速していった。


「   ???  ???  ???   」


 黒く艶やかな体に真っ白な歯並びを持つ、恐ろしき人喰い怪物が不思議そうにしている。

 自らの肉を焦がす痛み、電流の存在が急に中断された。


 人喰い怪物が自らの生命の安全を自覚しようとする。

 相手が行動を起こす前に、急がなくてはならない。


「路線変更!!!」


 キンシがそう叫ぶ。

 左手に携えている魔法の道具。

 銀色に輝く弁軸を持つ万年筆に、自身の肉体、赤く流れる血液に含まれる魔力を活動させている。


 トゥーイの生ライブように用意していた演出用魔法。

 いまは人喰い怪物の口の中と繋がり合っている。


 釣糸のような要領で使用している。

 キンシは文字列に新たなる意味を伝達しようとしていた。


「……」


 息を吸って吐いて。

 頭の中、心と呼ぶべき秘密の領域にて、キンシは新たなるアイディアを作りだそうとしている。


 さて、どうしようかな?

 キンシは考えを巡らせる。

 それと同時に体の一部分、左の指先はすでに行動を起こそうとしていた。


 釣り針、そうだ、釣り針にしてしまえばいい。


 思いついた。

 キンシは早速生まれたばかりのイメージに重さを付けくわえようとする。


 またたく間に文字列の形が変形していった。


 しゅるるん。

 しゅるるん。

 しゅるるん。


 翡翠(ヒスイ)色の文字の集合、一列がそれぞれのかぎ針を持つ針の一直線へと変形していた。


 どうして針の形を選んだのか。

 理由らしき心当たりは、魔法を使おうとしているキンシのすぐ近くに存在していた。


「まあ! ステキな針」


 メイが思わず感想を呟いている。


 魔女の評価、他人の感想を聞いた。

 キンシはさらに、自らの内に魔法を使う意味を強く見出せる。

 そんな気がしていた。


「指切りげんまん、ハリセンボンを喰らいなさい!」


 キンシは叫ぶ。

 かけ声の後に、緑色に透き通る針の群れが怪物の柔らかな表面、肉体に向けて密集を行おうとしていた。

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