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夢を見ているならば今すぐに覚めないといけない

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

本日二回目の更新になります。

 キンシはメイの指を抵抗をしなかった。

 それほどまでには、この魔法使いの少女は魔女である彼女に心を許せるようになっているらしかった。


 メイは魔女としての好奇心のおもむくままに、まずはキンシの頭部を触っている。


「今日もかわいいお耳ね」


「そうですかね?」


 メイの指先が触れている。

 子猫のようなに可愛らしく整った三角形の聴覚器官。

 黒く柔らかい体毛に包まれている耳の内側は、灰を被ったように色素が薄くなっている。


「この髪の毛の銀色も、呪いのエイキョーなのかしら?」


 メイは前々から気になっていることを、この喫茶店の落ち着いた空間の中で再確認しようとしている。

 メイの白色の羽毛が微かに生えている指先。

 鳥の獣人族特有の身体的特徴として、伸びるのが早い爪がキンシの頭部に生えている()()のような一筋をすくいとっている。


 キンシの頭髪。

 雨に濡れた黒猫のように、一点の混じり気もないように見える髪の毛は、キンシ本人によって丸みを帯びたショートカットに整えられている。

 その黒色の中に一筋、銀色に輝く別の色が異物混入のように存在していた。


「これは、その……」


 メイから指摘をされた。

 キンシは少し恥ずかしそうに、白色の羽毛を生やした魔女からの追及に対応をしようとしている。


「そのですね……ちょっとした事故……事件? の影響で、髪の毛のメラニンが変容してしまった、らしいですよ?」


「へえ、そうなの」


 メイはキンシの返答に相槌を打っている。

 しかして同時に、メイは魔法使いの少女がいくらかの嘘をついている事に気付いていた。


「じゃあ、この左目もその事故か事件にカンケイしているのかしら?」


「え……えっと」


 白色の魔女からさらなる問いを投げつけられた。

 キンシは両側のまぶたをパチクリと、困惑しきった様子でまばたかせている。


 まぶたの色素の薄い肉が上下する。

 そうしていると、キンシの右目の虹彩がせわしなく伸縮しているのが視認することができた。


 魔法少女の右目。

 春の終わりに芽吹く新緑のように鮮やかな緑色。

 して、左側の眼窩(がんか)にも同じように健康的な色彩が共通しているのか。

 そう問いかけられれば、誰よりもまずキンシ本人がそれを否定するしかなかった。


 魔法少女の左目。

 正確にはその場所に肉や水分をともなった視覚器官は存在していなかった。


「目玉をひとつ喪失する事故やら事件なんて、もうそれだけでかなり重大で重体な状態だと思うけどね」


 モアがそのように表現している。

 古城の主である彼女が、見目麗しい青い瞳で見つめる。

 

 キンシの左目に埋めこまれている、赤い琥珀の義眼が緊張感に内容物を少し渦巻かせていた。


「ここからさらに、呪いのヤケドがずっとつづいていくわ」


 メイの指先。 

 伸び気味の白くとがった爪が、キンシの左頬をかるくこすっている。


 白色の魔女が触れている。

 キンシの左頬には涙に濡れるかのような、黒水晶の透き通る異質が刻みつけられている。


 実際に触るとケロイドのようにプニプニと柔らかい。

 辛うじてその触感が、水晶の輝きが肉体の一部分であることを主張していた。


「そのまま首までつづいて、そして左のおてて」


 メイの指先、爪の先端がキンシの皮膚を圧迫する。

 首を下がり、身に着けているワイシャツの布までいたっている。


 分厚い布の上着。

 雨水をはじくための簡単な魔術式が組み込まれている。

 布の素材の下には、ノースリーブの白いワイシャツが身に着けられていた。


 少し雨に濡れている布の外側、肩の辺りにメイの爪が食い込む。


「う」


 メイの爪に少しの痛みを感じた。

 キンシが小さくうめき声を唇からこぼしている。


 白色の魔女があばこうとしている、魔法少女の左肩にはすでに呪いの気配がありありと現れていた。


「ちょっと脱いじゃいましょう」

 

 まるでこれから秘密の撮影会でも始まるかのように、メイはキンシに肌を露わにすることを提案していた。


「え、ええ……っ?!」


 どうして今ここで、そのような提案をしてきたのだろうか?

 キンシにはまるで理解が出来なかった。


「な、なにゆえ……っ?!」


 メイからの要求にキンシはためらいを覚えている。


 躊躇(ちゅうちょ)を主張するために、キンシは助け舟をトゥーイに求めようとした。


 魔法少女の視線の先。

 そこでは。


「どうですお客さん?」


 まずもってトユンと言う名前の、若い男性の喫茶店の店員がトゥーイに語りかけている。


「ウチのコーヒー、なかなかの味だろ?」


 トユンは自信たっぷりとした様子で、清潔に洗われている自らの鹿のツノのような器官を指先に撫でている。


「自慢は喉の奥に感じる酸味なんだよね」


 自分の属している職場の商品を宣伝している。


 宣伝文を受け取った。


「…………」


 トゥーイは相も変わらず無表情のまま。

 ではあるが、しかしながら話を聞きながらすでに唇はコーヒーカップの二口目へと至らんとしていた。


 ゴクリ。

 トゥーイが美味しそうにコーヒーの熱い雫を喉の奥に受け入れている。


「ああ……」


 その様子を見た、キンシは助け舟が難破した末に沈没したことを悟ってしまっていた。

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