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放り出すホーリーダンスを狙い続けろ

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 トゥーイに動きを制止させられた。

 キンシはそれに逆らうように、青年の右手に掴まれている方を振り払おうとしている。


「メイお嬢さんが心配です、見るからに体調がわるそうです……!」


 抑制を否定するために、キンシはトゥーイに向けて理由を語っている。


 魔法使いの少女がそう主張している。

 その通りに、メイという名前の魔女は見るからに顔色を悪くしているようだった。


「うう」


 元々色素をほとんど感じさせない、純白の絹糸のようになめらかな肌。

 春に散る桜吹雪のように鮮やかな桃色の頬が、今は青痣のように冷たく青ざめてしまっていた。


 体調を崩している、キンシの推察はほとんど正解と呼べるものだった。


 だがキンシの不安とは別に、メイの肉体は他者の援助を全く必要とはしてい無いようだった。


「んぐぐ、はあぁぁぁ」


 メイはもう一度空気を飲み込む。

 動作のさなかにて、彼女は口の中をだらしなく満たす唾液を強引に、無理矢理に飲み下している。

 まるでよだれを垂らしていた自身の失態を心のそこのそこから恥じるようにしている。


 羞恥心はしかして同時に、彼女の瞳を鮮やかに彩る(あか)い瞳に闘志のようなものをみなぎらせている。


「はあぁぁぁー!」


 メイが気合の一声をあげる。

 それと同時に、彼女の腰のあたりに魔法の翼が展開されていた。


 それはメイの属している種族の一つ、春日(かすか)と呼称される鳥類の獣人族が保有する、ある種の特殊技能(スキル)のようなものだった。

 

 腰に植わっている寛骨(かんこつ)の辺りから、体全体を包み込むほどに大きい魔法の翼が発現している。

 左右両側、まるで本物の鳥が飛行のための器官である翼を大きく広げたかのような、美しさと雄大さが両立しようとしている。


 だが。


「わあ、小さい羽」


 トユンがそう評している。

 彼にしてみれば大人の持つ翼と比較してみて、メイのそれはだいぶ小さいもののように思われていた。


 せいぜいメイの小さな肉体を包み込むほどの幅しかない。

 翼に向けて、メイは右の手をまっすぐ伸ばしていた。


「んんと」


 メイは上体を右側にひねりながら、自らの翼の内側をサワサワと探っている。

 彼女の上半身の動きに合わせて、純白の羽根の毛先が雪の結晶のように繊細にふるえていた。


「よいしょっと」


 自らの翼から、メイは一振りの羽根をちぎりとっていた。


「わあ……きれいです……!」


 キンシは自然な様子でメイのもとに近寄っている。

 その時点ですでにキンシの拘束は解かれいた。

 だが、しかしながら愚鈍なる魔法少女はその事実をすっかり失念しているようだった。


「さ、ささ……触ってみてもいいですか?」


 キンシは好奇心のおもむくままに、指を白い羽根へと伸ばそうとしている。


「だめよ」


 しかしキンシの指をメイがぴしり、と払っている。


「まだ魔術が完成していないの」


 そう言いながら、メイは取り出したばかりの羽根、その根元の辺りを両側の指でそっと握りしめるようにしている。


 長さは三十センチを超えるであろう、そのぐらいの長さを持つ白い羽根。

 己の肉体の一部であった、ひとひらの一部分。


 メイはそれを見る。

 自分の肉体の一部分であったはずのそれを見て、またひとつ呼吸をする。


 すると羽根にポゥ……と、紅色の透き通った光が灯りはじめた。


「さて、こうしてかたくてほそい芯に、私の魔力をたっぷりと注ぎいれて、っと」


 メイはまるでレシピ本で少しだけ豪勢な料理をつくかのような要領で、魔法の針を作成し終えていた。


「うえの部分はいらないから、それっ」


 最後のひと仕上げとして、メイは羽根の根元を残して上の柔らかい部分を軽快にもぎ取っていた。


「はい、ほしいかしら?」


 根元に視線を集中させながら、メイは流し目でキンシの方を見ている。


「え」


 メイから提示されたものを、キンシは最初の瞬間だけ上手く理解することが出来てい無いようだった。


「え、ええー……! 良いんですかあー! やったやったあー!」


 どう見ても魔術の余り物でしかないものを、キンシは単純な様子で喜んでいた。


「いえーい、いえいえーい! 見てください、羽根が綺麗で魔力が綺麗ですよー」


 羽根のかけらを振り回しながら、キンシは逸楽(いつらく)にひたひたに浸りきっていた。


「見てくださいトゥーイさん」


 キンシはまず最初にトゥーイに自慢をしようとしていた。


「メイさんの、美しい魔力の結晶がこんなにも! はっきりとした形状で表れていますよ!」


 どうやらキンシは、メイと言う魔女の魔力の形状、形質に強く関心を示しているらしかった。


「…………」


 トゥーイが表面上は特に動かすことは無かった。

 しかして頭部に生えている白い柴犬のような聴覚器官はピン、と真っ直ぐ立っている。

 キンシの言葉を収集し続けている。

 

 そんな魔法使いの青年の右隣から、モアがソロリソロリと近寄ってきていた。


「わあ、楽しそうにしているね、恋人さん」


 「恋人」と言う呼称で表現されていることなど露知らず。


「…………」


 トゥーイはモアの魔法少女に対する表現方法を、とりたてて否定しようとはしなかった。


 それはそれとして、トゥーイの目はキンシより幾らかマシな分、先の展開を見据えていた。

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