ふわふわさまよう色めく町と酔えない男たち
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「魔法という表現方法の一つ、人間の持つ行為の一つ。それらが個人の意識に強く密接をしていることは、すでに君自身が他の誰よりも知っている事実だと思うんだが。
そこんところ、どうなのかな? ナナキ・キンシ君」
「えーっと……?」
今度こそきちんとした、自分の意識にのっとった返答を行おうとした。
だが魔法使いの少女が口を開こうとした、それよりも先にモアは自分勝手に話をし続けていた。
「敵がいればこそ、人間はその血液の内に含んでいる魔力を効率よく運用する力を得られるんだ」
モアは語るなかで、自らの内に必要とされるであろう言葉を選ぼうとしているらしかった。
「力。うん、もっと実際の思考に近しい言い方をするならば、活動力、エネルギーのもとというかんじかな?」
モアは語るなかで話を聞いている相手を、キンシの姿を視界の中に固定、安定させようとしている。
「い、いや……僕に聞かれましても」
問いのようなものを投げかけられた。
キンシははたして、どう答えたものかと解答を上手く導き出せないでいる。
「まあいいや」
しかしながらモアのほうは、すでに最初からキンシからの返答など必要としていないようだった。
もしかすると、モアはどのような相手であっても同じだったのかも知れない。
たとえそれが一国の王子殿下であったとしても、あるいは同じような態度を作ったのかもしれない。
「いいんですか……」
それらのことを想像する。
そうするとキンシはほんの少し、わずか、一ミリよりも小さい安心感を胸の内に転がしているのを感じ取っていた。
モアはさらに語る。
「人間という個体はとりわけ脳を大きく進化させた生き物だ。思考と意識を他の生き物の追従を許さぬほどの高性能にまで進化させた、その結果現在における大繁殖」
「……?」
モアの語り、その内容にキンシが不思議そうにしていた。
「……人類って、そんなに繁栄していましたっけ?」
リンゴ型魔力鉱物を作成する手をひと時止めて、キンシはモアの語る内容に対する違和感を言葉にしようとしている。
「この灰笛以外にも、皆さんが生きている……生きている都市があるんですか?」
まさか、このキンシは冗談でも言っているのだろうか?
「おいおい、面白くない冗談は……──」
モアはほんの一瞬だけ、この灰笛という名前を持つ地方都市に暮らす、魔法使いの少女に微笑みを差し向けようとした。
「……いや、違う」
だがすぐに考えを否定している。
モアは珍しく、いつになく真面目ぶった様子で唇を動かそうとしていた。
「ああ、そうか。ナナキ・キンシ君、君にとってはその状態こそが真実なんだね」
一人納得を深めているモア。
「……?」
キンシの方は相も変わらず、愚かしく、古城の主の真意をうまく読み取れないでいる。
「たしかに、キンシ君、君の言う通りだ」
モアはキンシの名前を呼びながら、先ほどの一瞬とは打って変わって少女の主張した意見に同意を返していた。
「現在この鉄の国……ないし、全世界、この世界に人間が暮らしていける環境はかなり限定されてしまっている」
モアはそう言いながら、身に着けている衣服のあたりを右手でゴソゴソとまさぐっている。
古城の主である彼女の指の動き。
それを追いかけるように、キンシも視線を彼女の指先に固定させ、ひと時の追従しようとしている。
まるでこれから葬式にでも向かうのだろうかと勘繰ってしまいそうな、ゴシック調の暗い色調のワンピース。
腰に巻き付けられているコルセット。
ワンピースの上から胴体をしっかりと巻き付け、がっちりと細く長く固定している。
モアの、もとより細いであろう腰の部分が、コルセットによってさらに作り物めいた美しさを演出している。
器具というべきなのだろうか、キンシは唇の内側で沈黙と呼吸と共に疑問を自らに投げかけている。
息苦しそうで、キンシはそこを見るだけで腹部に圧迫感のようなものを覚えそうになる。
赤いリボンで編み上げるようにしている、コルセットの下の辺りにどうやら小さなポケットがあるらしかった。
モアの指の動きに合わせて、パフスリーブがふんわりと丸みを帯びたシルエットを柔らかく屈折させる。
そしてワンピースの裾、膝よりも一センチ下にあしらわれているフリルは、白色の繊細さによって全体の黒一色をより一層美しく際立たせていた。
「よいしょっと」
モアは小さな掛け声をひとつ、一声。
鈴の音を鳴らすかのように、涼やかに可愛らしく発している。
モアのポケットから取り出された、それは一枚のタブレットのようなものだった。
「それは、水晶情報版ではありませんか!」
キンシが驚いているのに、メイが大きな疑問を転がしていた。
「く、くりすたる……たぶ、たぶ?」
「水晶情報版です、メイお嬢さん」
キンシが若干興奮気味に、モアの取り出した道具についてを語っている。
「現代において最新型と言われている、情報伝達の器具のようなものなんですよ。すごいですよね」
興奮気味に語りながら、キンシはモアの手の中にあるスマートフォンのようなものを凝視する。




