何なのだろうかこのさすがに弱すぎるトメさんは
ご覧になってくださり、ありがとうございます。
「災害ユートピアについての話は、もうしたっけ」
モアがキンシに問いかけている。
「ああ、しました、しましたよモアさん」
キンシは飽き飽きとした様子で、銀色の大きな万年筆で「リンゴ」の文字を速記術にて記し続けている。
作業の最中にて、モアはキンシの反応を半ば無視する勢いで語りを再開させていた。
「この世界は特に、他人に対する差別意識、拒絶、否認の意識が大きく欠落しているんだよ」
「それで、なにか困ることがあるんですか?」
キンシに問いかけられた、モアは考えるまでもないままにすぐさま答えを返している。
「いいや? 全然困らないね。むしろ、あたしの立場ならば、このままずっとみんながみんな、仲良しこよしのぬるま湯に浸かっていればいいと思うんだけどね」
モアがそれなりにハッキリとした意見を表明している。
「だったら、そんなに深く考えることでも無いのでは?」
キンシは文字を書いている途中にて、モアの言葉と動作に疑問を抱いている。
そんな魔法少女に、モアはすぐさま反論の意を柔らかく返していた。
「いやいや、これについての議題はこの先の、遠い未来の魔力社会に大きな影響をもたらすんだよ」
「と、いいますと?」
キンシは最初の瞬間、その問いかけが自分の下から発せられたものだと、そう思い込みそうになった。
だがそれは違った。
声は魔法少女の喉元から発せられたものではなかった。
声のする方、若い男性の声が聞こえてき方角を少女たちが見やる。
視線を動かした、その先には喫茶店の店員であるトユンの姿を確認することができた。
「どんどん宝石が出来上がっていくけれどさ、とりあえずキミたちが開けたばかりの穴の中に保存しておこうか?」
トユンが、とりあえずキンシに向けてそう提案をしている。
「あ、え、えと……」
トユンの右の指が自らの頭部に生えているツノ、鹿のツノのような器官の根元の辺りをコリコリと掻いている。
その姿を見た、キンシが大きな万年筆を動かす手をひと時止めている。
「そ、そそ、そうですね。確かに雨ざらしになるよりかは、屋根の中に安全に保管する方がよろしいと思います」
キンシはトユンからの提案を受け入れている。
魔法少女の返事を受け取った、トユンは右の指をツノの根元から離している。
「それじゃ、出来上がったやつはうちのお店に運んでいくから」
トユンは何やら、遠慮をするような口調になっている。
「なんだか、お怒りはすっかり落ち着いてしまったようですね」
キンシは今しがた自分自身も、古城の主である彼女に怒りを覚えていることを失念しているようだった。
「そりゃあ、もちろん」
魔法少女が不思議そうにしているのにたいして、メイが冷静そうな意見を付けくわえている。
「武器をもった魔法使いをめのまえに、ヘタにテイコーしようっていうひとは、たぶん「普通」とはちょっとちがうヒトだとおもうの」
「そう……なんでしょうかねえ?」
白色の羽毛を持つ魔女の意見を聞いた、キンシは子猫のような聴覚器官を少し平たくしている。
「普通」の人間に対して疑問を抱いている。
キンシの腕の中には大きな万年筆、と同時に時として銀色の鋭い槍となる魔法の武器が、しっかりと少女の手の平に握りしめられているのであった。
「でも、リンゴを安置できる場所が確保できたのは、予想外の収穫ですよメイお嬢さん」
「私たちにたいするアンチは、よりいっそう深まったかもしれないわね、キンシちゃん」
キンシとメイがそのようなやり取りを交わしている。
そこにモアが介入をしてきていた。
「彼がもしも、ものすごいブルジョワジーでもない限りは、一度にこんな多量のリンゴ型魔力鉱物を見る機会なんてそうそう無いだろうしね」
モアは、やはりというべきなのだろうか? 古城の主としての、この世界における一般常識に基づいた意見をあげている。
「高級品がこんなにもたくさん」
メイが積まれていくリンゴの山を眺めている。
「レイセーになってみると、なんだかすごい場面にでくわしているような気がするわ」
メイは静かに驚愕を胸の内に灯らせている。
肉の気配をほとんど感じさせない、未発達で未熟な胸のあたりに手をそえる。
白色の魔女の動作を視界の右側に、キンシは引き続き作業に集中することにしていた。
「作業をしながらでかまわないが、もう少しあたしの話に付き合ってくれないかな?」
ペン先を走らせている、キンシにモアが声を投げかけている。
「なんにせよ、この先のどん詰まりな世界観をどうにかするためには、もっと個人の魔法を強化しなくてはならないと思うんだよ」
「個人の魔法を強化?」
ずいぶんと大それたことを言っているような気がする。
モアの話を聞いている、キンシは古城の主である少女に疑いのようなものを抱いていた。
「みんなが仲悪くなることで、魔法の力が上がったりするんですか?」
にわかに信じ難い理論に、魔法使いの少女は未知なるオカルトを見つけたしまったかのような、得も言われぬ恐怖心を抱いていた。




