表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

971/1412

ちょっとここらで一発茶でもしばこうかお嬢さん

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 キンシが記した文字。

 それは。


「リンゴ」


 まずは赤色、宙に浮かぶ文字をモアが読み上げている。

 鈴の()のように涼やかで軽やかな音声を耳に、キンシは記し出した文字を左の目でジッと見つめている。


「んむむむむむー……!」


 キンシは左目、左眼窩(がんか)に埋めこまれている赤琥珀の義眼に意識を集中させている。

 持ち主である魔法使いの少女の意向に従う、赤琥珀の義眼にかすかな光が明滅する。


 赤色の明滅。

 蛍の求愛行為のように怪しく光る、義眼は記し出した文字に更なる意味を付け加えようとしていた。


 魔法少女の義眼に見つめられた、文字がゆらりゆらり、と変化していく。

 「リンゴ」と記された、ほのかに赤みを帯びた黒い文字が球体に変化している。


 さして時間を必要することも無く、「リンゴ」の文字は一つの塊へと変身していた。


 作りだされた、空間に新しく表れた、それは。


「まあ、おいしそうなリンゴ」


 メイが発現したばかりのモノについての感想を口にしている。

 幼い肉体の、白くふーかふーかとした羽毛に包まれている魔女の呟き。


 白色の魔女の言葉もまた、なんの抽象も慣用句もふくまれてなどいなかった。

 魔女はあくまでも、現れた対象をそのままの意味で表現しているにすぎなかった。


「よしよし、ようし……。イイ感じ、いー感じに作れましたよ。まずは一つめです」


 キンシが自らを励ますような言葉を唇に(つむ)いでいる。

 自らの武器。

 恐ろしき人喰い怪物を相手にする際に使う銀色の槍。

 それは今、この場面において大きな万年筆としての役割を担っている。

 

 大きな万年筆に記し出された、リンゴはペン先の辺りを少しのあいだだけ浮遊している。


 ふわふわと漂う、不思議なリンゴは少し重力に逆らった後。


「ん、ぐぐぅ……」


 やがてキンシの緊張感が力尽きた後に、地面の上にゴトリ、と落ちていた。


「あらら」


 脱力してしまったキンシの代わりとして、メイが落ちたリンゴ……のような「何か」を拾い上げている。


 メイが膝を地面につけている。

 小さくたおやかな肢体の動きに合わせて、彼女の身に着けている白色のワンピースのフリルが揺らめき、ポンチョ型の透明な雨合羽が雨の雫をはじいている。


 メイの指先が地面に触れ合う。

 冬の朝に生まれる小さなつららのように細く儚げで、しかして確かな芯を感じさせる指先。

 少し伸び気味の爪は、朝に手入れを行うことを失念していたために、映画に登場する恐竜を想起させる鋭さをかもしだしている。


 白い爪の先端。

 雪の結晶のように繊細そうな硬さが、灰笛(はいふえ)という名前を持つ土地の地面に触れ合っている。

 

 雨に濡れたアスファルトを、メイの爪の先端が軽くひっかく。


 落ちたリンゴを拾い上げる。

 メイの手の平に大きくあまる、リンゴのようなものはしっとりとした重さを有していた。


 拾い上げたそれを、メイは両の手のひらにちいさく持ち上げている。

 メイの小さな両手には、リンゴをひとつ持ち上げるだけで充分に満たされていた。


 メイは手の平の中にあるリンゴ……。

 ()()()()()()()()()を凝視する。

 

 リンゴの形によく似ている、それはひとつの宝石の塊であるらしかった。


 赤色に輝く宝石。

 透き通る表面は、内に大量の魔力を含んでいる。

 魔力というのはつまり、「水」と呼ばれる液体によく類似した存在だった。


「このなかみにつめこまれているのは、キンシちゃんの作った、お「水」の檻とおなじものなのかしら?」


「ええ、そうですよ、メイお嬢さん」


 白色の魔女の予想に、キンシがまず簡単な同意を返している。


「厳密には僕の作った魔法の檻とは異なるモノですけれどね」


 そしてその後に、もっと詳しい情報を付け加えている。


「これはまだ、まだまだ、怪物さんの魔力のほんの一部分でしかないのです」


 キンシはそう言いながら、もう一度空中に文字を書き記している。


「さあ、どんどん作っていきましょう」


 キンシはそう意気込み、雨に濡れる空気の中に次々と文字を書き記していく。


「短縮版でいきますよー!」


「タンシュクバン?」


 なんのことを言っているのだろうか。

 メイが首をかしげていると、その視線の先にてキンシは文字……のような線を滑るように書いていた。


「んん? それは文字なのかしら?」


 メイが疑問を抱いている。

 見たところでは、少しだけ歪みのある直線のようにしか見えなかった。


「ほう、速記術というヤツだね」


 謎の直線を見やった、モアが記された文字の意味合いを言葉の上に説明している。


「ソッキ」


 聞いたことはある。

 メイは自らの内にある記憶から、情報を速やかに検索している。


「議会などで使われる、情報を急速に、記録する。そのために、使われる、記述の、様式ね」


 メイは言葉を慎重に、一粒ずつ丁寧に丁寧に、稲作用の稲を選ぶように選んでいる。


 白色の魔女が言葉の上に説明をした。


 そうしている間に、キンシは一気に三つの魔法の「文字」を記し終えていた。

 

 記した先から次々とリンゴが実る。


 ぽこぽこと落ちていくリンゴたち。

 それは赤色だったり、青色だったり、あるいは緑色などを有していた。


「わあ、たくさん」


 メイが驚いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ