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アルファベットじゃわからない魔法の武器の製造元

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 しかしながら、何はともあれ優先すべき事項が目の前に、あまりにも多く存在しているのだった。


「あの、モアさん」


「ん? 何だいキンシ君」


 キンシがモアに、いくばかりか申し訳なさそうに要求をしている。


「せめて、お話は作業をしながら、あるいは全てをあらかた終わらせてから、それにしませんか?」


 用意した二択の内、キンシとしては、本心では後者の方を選びたかった。

 もっと言ってしまえば、怪物の死体をキレイさっぱり回収し終えるまで、キンシはその行為そのものにおおよそ、大部分の集中力を()きたかった。


 だから、この二択はキンシにしてみれば、モアに対する現状精一杯の気遣い、のつもりだった。


「じゃあ楽しく、楽しく! お喋りしながら怪物の死体をバラしちゃおう」


「……はあ」


 だからこそ、キンシはモアからの返答に対して、なかば溜め息じみたリアクションをしてしまっていた。


「おや? あんまり乗り気じゃないみたいだね」


「い、いい、いいえっ?! そのようなことは、決してございませんよっ?!」


 キンシが真っ向から精一杯、全力を以て否定をしている。

 頑張ろうとすればするほどに、キンシ本人の意向から実態が離れていってしまっている。

 その事実、現実にこの愚かしい魔法使いの少女が気付くか、気付かないか。

 その頃合いには、モアはすでに次の行動を身体に起こしていた。


「さて、まずは最も重要とされるであろう作業から取りかかるとするか」


 モアはそう言いながら、視線をキンシがたたずむ方角へと定めている。

 

 恐ろしき人喰い怪物との戦闘が終わった。

 緊張感から解放された、キンシの肉体は緊張感を損ない、ぬるい満足感に鈍く眠気を覚えようとしていた。


 そんな状態のキンシに、モアが強く視線を注目させている。


 青空のように鮮やかで、一点の曇りもない青色の瞳。

 この世界にうまれてこのかた、晴天など両側の指十本で数えられるほどしか見ていないキンシ。


「えーっと……」


 魔法使いの少女は、古城の主である彼女に見つめられると、どうにもソワソワと落ち着かない気分になるのであった。


「と、とと、とりあえず……この「オーデュボン」に集めた魔力を結晶化としてまとめなくてはなりませんね」


「へえ、その巨大な万年筆みたいな槍、「オーデュボン」って言うんだ」


 モアは少し、ほんの僅かだけ思考を巡らせるような素振りを作っている。


「オーデュボン……。一般的にはこの(てつ)の国とは異なる、外海の人名や地名に使用される名称だが。しかして。

 ……。……二つの意味。

 二つ……──」


「も、モアさん……?」


 いきなり思案に耽っている、モアのことをキンシが(いぶか)しむようにしている。


「ああ、いや。なんでもないよ、ちょっとだけ、気になる事項があっただけさ」


「そ、そうですか……?」


 それらしい理由を語っているモア。

 しかしながら具体的なもの、正体と(おぼ)しきものを一切こちら側に見せようとしない。

 古城の主の言葉遣いにキンシはより一層疑わしさと、それに基づく得も言われぬ恐怖心のようなものを抱きそうになっている。


 しかしながら恐れを抱いたところで、それはそれとして、作業は作業で実直かつ確実、着実に進めなくてはならないのであった。


「さて、少し前を空けてもらいますよ」


 キンシは少しばかり重たそうに槍を構えている。

 銀色に鋭く輝く先端、穂先を腹の辺りより下の空間に差し向けている。


 万年筆におけるペン体、ハート穴にあたる部分を空に向けている。


 よく磨きこまれた表面は、さながら森林の奥に眠る清流のような清らかさと涼やかさがある。

 刃にはいく筋もの細やかな刻印が、丁寧にきざみ込まれている。

 どこかの国の、知らない文字列のようなもの。

 それらはおそらく、この銀色に輝く槍を製造した組織の型番であるらしかった。


「ほう? かなり古い型の武器みたいだね」


 槍、あるいは巨大な万年筆のペン体を見た。

 刻印の内容を確認した、モアが微笑みのなかにいくらかの驚きのようなものを覚えているようだった。


「こんなアンティーク、いまじゃプレミアものだよ」


「そ、そうなんですか?」


 モアが語ろうとしている内容に、キンシは耳をかたむけずにはいられないようだった。


「と、言いますか、この槍の模様って型番……文字とか数字だったんですか?」


 キンシは単純な驚きを抱いている。

 それはどちらかというと、サンタクロースや山姥(やまんば)の存在の有無を疑うかのような、そんな感覚であるらしかった。


「僕には……ただの模様にしか見えないのですけれど」


 キンシにしてみれば、またしてもモアが自分のことをおちょくっているのかと、そう思おうとしていた。


「あ、いや……そうだね」


 魔法少女が疑っている。

 モアは少女の方を見て、子猫のような黒色の柔らかな体毛の毛先を見やっている。


「そうだよね、この世界では……アレなんだよね、アレアレ、あれれ……」


 そんな事を言いながら、モアは「やれやれ」といった様子で首を横に小さく振っている。


「あの……作業を開始してもよろしいでしょうか?」


 正体を掴めない。

 キンシはやがて諦めたように、次の行動を優先させることにしていた。

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