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生放送を待機する空腹感と劣等感の生徒

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「うわわ……! あっちこっち動き回って、全然狙いが定まりません……!」


 キンシが大きな「水」の塊、魔力の集合体を抱えながら困惑をしている。


 魔法使いの少女が見つめる先。

 そこにて、恐ろしき人喰い怪物が盛大に暴れ狂っているのが見えていた。


「 ああ  ああ  ああ  ああ  ああ  ああ   あああ  ああ   あああ  ああ  ああ」


 自らの魔力、獲物を焦がそうとした魔法のビーム。

 放たれようとしたエネルギーの塊は、しかしてメイがとっさに作成した魔法の骨組みによって内側に押し留められてしまっていた。


 粉々に破壊された、怪物の偽物の頭部のかけらが周囲に撒き散らされている。


「うわああ……!」


 トユンが不快感を露わにしているのは、彼の右肩に怪物の赤いかけらが一つ、ベットリと落ちて付着してきているからであった。


「キモッ! 超絶キモッ!」


 しっとりをはるかに通り越して、じっとりジュクジュクとしている。

 怪物のかけらは、まだ新鮮な血液の気配をたっぷりと残存させていた。


 トユンが肩の汚れを振り払っている。

 その右隣にて、モアが地面から三十センチほど浮いたところで、遠目にて怪物の様子を観察していた。


「ふむ、疑似的な保護が自発的に破壊された。あれは一種の自傷行為とみて差し支えないのだろうか?」


 モアはぷるぷると緩やかに回転するプロペラを、雨傘のように操作している。

 実際、その簡素な飛行用魔術機構は雨傘としての役割も担っているようだった。


 モア一人分だけの領域、限定された空間からプロペラによって雨水が排除されている。

 安全な空間の少し外側にて、トユンの右の頬がプロペラから吐き出される雨の雫をもろに食らっていた。


「いや……ンなこと、オレにきかれてもなあ……」


 古城の主である少女の手前、トユンはかされた質問内容を安易に無視することも出来ないでいる。


「でも、だけども、顔が無くなったのなら、魔法使いの奴らにもちょっと優位になるんじゃないのか?」


 トユンが素人目からの予想をたてている。


「いや、それはどうかな?」


 だがモアのほうは彼の意見を簡単に否定しようとしていた。


「所詮は偽物、イミテーションが壊れたに過ぎない。ああ、ほら、みたまえ。すぐに、本物の口が開かれようとしている」


 モアがそう表現している。

 

 彼女の言う通り、怪物の腹部から大きな口が開かれようとしていた。


 くっぱりと開かれた、縦長の口にはびっしりと細長い歯が密集している。


「ああ、もはや懐かしささえおぼえますね」


 キンシがどこか謎なまでに穏やかそうな声音でそう呟いている。

 自分自身が取り込まれたばかりの、口の中を懐かしげに眺めている。


 魔法使いの少女の視線の先で、怪物は本物の口をウゴウゴと蠢かせている。

 

 偽物ではない、本物の捕食器官。

 栄養を摂取するためのその部分は、尽きることのない空腹感に悶え、苦しみ抜いているようにも見える。


「そんなに食べたいのなら、ちょっとだけ……! さーびすしちゃいますよ!」


 キンシが怪物に向けてそう叫びかけている。

 槍の先に掲げた、大量の魔力の一部分から一筋の流れが怪物の捕食器官めがけて放出されていた。


「  あがぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ  」


 魔力の流れを食らった。

 食べる、怪物がそれを実に美味しそうに咀嚼しようとしている。


「 あむぐぐぐぐ あむぐぐぐぐ  あむぐぐぐぐ あむぐぐぐっぐ  あむぐぐぐぐ  」


 空腹な腹の中に温かく濃厚なコーンクリームスープを流し込むかのように、怪物は得られた魔力を肉体の底、心の底から喜んでいるようだった。


 喜びはすなわち、心の余裕、油断そのものでもあった。


「……………!」


 魔法使いの青年は、生まれたばかりのそれを見逃さなかった。

 赤ん坊のように柔らかな歓喜、トゥーイは緩んだ怪物の肉体めがけて鎖の先端を投げつけている。


 魔法の武器である鎖の先端は、持ち主の青年の意向に従い、怪物の胴体へグルングルンと巻きつけられていた。


「先生!」


 電子的な音声が、機械によって拡張された音がキンシの元へと届けられる。


「承知、しました!」


 言葉を受け取った。

 短いやり取り。

 だが魔法使いたちにとっては、たったそれだけの言葉で充分だった。


 キンシが槍を振りかざす。

 溜められた多量の魔力が、怪物めがけて投げつけられる。


「   ?  ?  ?  」


 多量の魔力に包み込まれた、怪物は瞬間的に何が起きたのか理解できていないようだった。

 だがすぐに、その全身は自らに起きた異常事態に拒絶反応を示している。


「  がぽ@お@ぽぽぽぽぽぽぽ   がぽぽぽっぽっぽぽぽぽぽぽ があああおっぽぽぽぽぽぽ 」


 肉声は「水」に遮られて聞こえることは無かった。

 その代わりとして、(あぶく)が多量に吐き出される音が空間を震動させている。


 怪物の腹部であり、同時に本物の捕食器官である部分。

 そこから、その肉体におおよそ相応しいと言えるであろう、大量の空気が排出されている。


 それは怪物の生命の証でもあった。

 人外として、この世界において以上とされる存在。

 神にも等しい扱いを受けていながらも、しかしてその生命は人間と同様、呼吸行為を基本としたものでしかない。


 怪物が苦しむ。

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