アドバルーンがおねぃちゃんの処女を殺した
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シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーンンンン ンンンンンンンンンーーーーーーー!
多量の空気が吸い込まれる。
鯉のぼりが化けて出てきてしまったかのような、そんな造形を持つ恐ろしき人喰い怪物。
捕食器官とは異なる、疑似的な頭部と口から魔力の反応が凝縮されている。
ぽっかりと開けられた、口から太く長い光線……光線が発せられていた。
ビーイィィィィィィィィィィィンンンンンンンンン!!!!!!
焼けたフライパンのような、暴力的な熱をもつ光の束。
空中にぶら下がっていた、トゥーイは咄嗟に身を大きくひるがえしている。
トゥーイが避ける、その後に怪物のビームが空間を焦がしていた
トゥーイが避けた後に残された、虚空を怪物のビームが貫く。
雨の雫が熱によって焼かれ、ジュウジュウと音をたてて蒸発していく。
とてつもなく強力かと思われた。
怪物のビームはしかして限りなく自然現象に近しい魔術、魔力の雨に溶かされていく。
尻すぼみのように消えていった。
ビームはしかして、人間約一名に致命的な火傷を負わせるのに十分な効力を有していた。
「 ああ ああ ああ ああ ああ ああ」
怪物が疑似的な頭部を探るように動かしている。
狙おうとしている、獲物はトゥーイの肉体であった。
生きている、新鮮な人間の魔力を渇望する。
怪物は再び深く、深く息を吸い込む。
灰と雨を含んだ空気を燃料として、怪物は再びビームを吐き出そうとしている。
「…………?」
と、そこでトゥーイは一つの事実に気付いている。
「…………!」
怪物のウロコ。
金平糖の詰め合わせのように色鮮やかな、魔力の結晶体が少し色褪せていたのだ。
「先生!」
トゥーイはキンシに向けて叫びかけている。
首元に巻き付けた、首輪のような発声補助装置から音声を発している。
「発見!! あなたのおめでとうございます、仮説はほぼ確認されました!!」
何ごとかを叫んでいる。
トゥーイの言葉を聞いた、トユンはそれを理解することができなかった。
「えっと?! 彼は何のことを言ってやがるんだ?!」
職場の大事な壁を壊されてしまった。
その恨みつらみがあるのか、トユンは魔法使いの青年に対する言葉遣いを少し荒げている。
喫茶店の従業員に問いかけられた。
しかして、キンシはまともに答えを返そうともしなかった。
「そうと為れば!! あとは魔法をキめるのみ!! です!!」
キンシが高く、高く槍を掲げる。
…………。
掲げた穂先に魔力の気配が集まる。
周辺にいる人間からある程度、常識的な範囲……と思われる量まで集めた魔力。
キンシはそれによって、大きな「水」の玉をこしらえようとした。
「すうぅぅぅーーーはあぁぁぁーーー!」
深く、深く息を吸い込み、吐き出す。
キンシの体内に含まれている魔力が、手に携えられている銀色の槍へ魔法のための命令文を伝達させている。
じゃぶじゃぶ、じゃぶじゃぶ。
魔力が集まり、液体のような存在となって現実の空間に発現する。
一気に大きくなる。
ハンドボールからアドバルーン、気球ほどのサイズまで拡大されていく。
キンシは現れたそれを重たそうに掲げている。
「せーのっ!!」
槍を振りかざす。
確実に「水」の内側に怪物を捕らえるために、キンシは自らの体を怪物めがけて接近させていた。
魔力が作動する。
重力を削り落とされた、キンシの体がふわり、と怪物めがけて近付いていく。
魔法使いの少女が大きな、大きな「水」の玉を携えながらやってくる。
その姿を見た、トゥーイが怪物の意識を努めてこちら側に集中させるための工夫を画策していた。
「…………!」
トゥーイが見つめるさきにて、怪物が再び偽物の口の中から光線を吐き出そうとしている。
獲物を捕らえるための手段。
生命のある人間。
その魔力をこんがりと焼くためのビーム。
炎としての枠割りを高く、するどく、熱く主張しようとしていた。
「あぶない!」
メイがさけぶ。
さけびながら、幼い魔女はするどく息を吐き出しながら手を前にかざす。
魔力の形を意識する。
メイの視線のさき、怪物のぽっかりと開かれた口の周り。
そこに透明な針が発現していた。
鳥人族が持つ魔法の翼、その骨組みとよく似ている。
細く長く、弓のように緩やかにしなる針。
それはまさに、メイの持つ魔法の翼の骨組みと同様の意味あいをもっていた。
「えーい!」
メイが腕を前に降ろす。
幼い魔女の放った魔力が、実体をともなって怪物の口を縫い止めてしまっていた。
まるで巾着の布を待ち針で留めてしまうかのように、怪物の口はメイの魔法によって密封されている。
「 あぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ 」
吐き出すべきものを封じられてしまった。
密封された内側に怪物の、偽物の頭部が内部から破裂していた。
ッッッ パアァァァァァァァンンン!!!!!!
風船の中身へためらいなく一気に空気を注入したかのように、怪物の偽の頭部が盛大なる破裂音と共に破壊された。
それは遠回しの自傷行為でもあった。
自らの肉体を傷つけてしまった。
だが、それでも人喰い怪物はまだ、獲物を喰らうことを諦めてはいないようであった。




