スキルと職業はレベルアップで徐々に鳴らしていきたい
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キンシが語る予想に対して、メイが小首をかしげて不可解そうにしている。
「魔力がウロコにある? それって、どういうことなの? キンシちゃん」
メイの椿の花弁のように美しい瞳に向けて、キンシは自らが証明した内容を主張しようとしている。
「ウロコの色素、あのそれぞれに怪物の魔力……つまりは生命のエネルギーがまんべんなく振り分けられているのですよ」
語る途中にて、キンシは右目に垂れ下がる怪物の唾液を左手でぬぐい取っている。
「体内に実験的侵入を試みまして、その内側に心臓を一切確認することができなかったゆえに、僕はこの仮説を立証することができたのですよ」
「ああ、食べられて、ノドの奥までジッサイにみたのね」
キンシのやたらと格好を着けたがる表現方法に対して、メイがすかさず噛み砕いた表現を見出してしまっている。
「ええ……ええ、驚きました」
より分かりやすい表現方法を易々(やすやす)とえらんでいる。
メイの言葉を借り受けながら、キンシは実際に目にした光景についてを言葉にしようとしている。
「あまりにも広範囲の魔力反応に、僕も怪物の口の中で自分の左目が故障して狂ったのかと思いましたよ」
そう言いながら、キンシは左のまぶたを二回ほどパチクリとさせている。
まぶたの動きに合わせるように、キンシの右眼窩に埋めこまれている義眼がその内容物をゆらめかせている。
「ふむ、その義眼が主張しているということは、かなり信憑性のおける証拠、ということになるね」
モアがふむふむとうなずいている。
キンシが赤い琥珀の義眼がモアのほうを見れば、そのささやかな動きに合わせて内包、密封されている精霊の気配が揺れ動いていた。
「その義眼……魔力鉱物はかなりの高品質かつレアアイテムだ。古城に関連する者としては、もっと丁寧な使用方法を心掛けてほしいところだね」
モアはそういった後に。
「まあ、これも所詮は個人的な意見にすぎないのだが」
と、あくまでも相手の自由度を尊重する形質の締めくくりをしている。
「それで? どうするの? キンシちゃん」
かしげていた首を元の位置にもどしながら、メイがキンシに問いかけている。
「どうやって、あの怪物さんを殺すつもりなの?」
幼い肉体の魔女に問いかけられた。
キンシは三秒ほど間を持たせつつ、すぐさま答えを言葉の上に用意している。
「そうですね、ウロコに付着した魔力を全て、一気に吸収するための媒介を必要とします」
そう言いながら、キンシは空の左手に小さく意識を集中させている。
「すーはー……」
そろそろ慣れ始めた動作、ひとつの呼吸にて、キンシは指先に小さな魔力の塊を作成している。
「それは、さっきの「水」の玉ね」
魔法使いの少女の指先に現れた集合体を、メイが簡単な言葉で表現している。
「水」と表現される魔力の集合体。
液体にとてもよく似た、柔らかで単純なエネルギーの塊。
「さっき、怪物さんのウロコにぶつけたものよね」
「ええ、その通りです。ざっつらいと、ですメイお嬢さん」
キンシはつたない口調で横文字を使用している。
「ぶつけたときに、なんだか、なにかがとけるような、そんな音がしたような気がするのだけれど」
「ご明察です! さすが、メイお嬢さんはお察しが良いですね」
キンシは心の底からメイのことをほめているようだった。
「「水」を使うつもりなの? そんなかんたんな魔法でだいじょうぶなの?」
魔法少女からの褒め言葉もそこそこに、メイは早くことの詳細を知りたがっているようだった。
「単純ですか! 僕にしてみれば、とても難しい魔法なのですけれども……」
幼い魔女の言葉に、キンシはいくばかりかショックを受けたように瞳孔を丸くしていた。
「先ほどの一発を作るだけで、僕はもう……集中力の半分を消費してしまいましたよ」
キンシは情けないほどに……いや、どこか清々しいほどに、自分の無力さをメイに主張している。
「そんな……──」
メイはキンシに向けて、なにか、なにかしらの激励のような言葉を送ろうと、そう画策した。
しかしながら、はかりごとを選ぼうとしている時点で、メイはキンシに対してある程度の失望を抱いていること。
そのことは否めなかった。
もう、どうしようもないほどに。
「──……。えっと、その、キンシちゃんだってちゃんと、がんばっているじゃない」
結局作れたのはあいまいでいい加減で、溶けてしまった冷凍蜜柑のようにどうしようもなく生ぬるい言葉だけだった。
「そうですかね、そうですかね……!?」
幼い肉体の魔女になぐさめられた。
キンシは、今のところは素直に魔女の言葉を受け取っているだけのようであった。
「では、もう少し頑張ってみます……!」
キンシの愚かしい、短絡的な脳では、どうやら魔女のマカロンのように繊細な迷いと心遣いに気付けないようであった。
それはそれで良しとするとして。
キンシは次なるアイディアを考えようとした。
「一人では無理なら、それなら……?」
キンシは左の人差し指で下唇をぷにぷにと小さく揉んでいる。
アイディアは、すぐに浮かび上がりそうであった。




