この小説はもしかしたら三キロ走った時のカロリーを消費する?
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地面から二メートルほど高く浮遊しながら、怪物に対して疑いを抱いているキンシ。
「…………」
魔法使いの少女に、トゥーイがうかがうような視線を送っている。
「お気づきですか、トゥーイさん」
同じ魔法使いである青年の、アメジストのような色を持った瞳に、キンシが問いかけるような声を投げかけている。
「頭部と思わしき部分を破壊したつもりなんですが……。ですが、あのように」
キンシは魔法によって肉体から重力を大きく削っている。
綿ホコリのように空中をフワフワと漂いながら、キンシは怪物の方を指し示している。
「ああ ああああ あ ああああ ああ あ あ あああああああああああああああ!」
キンシの銀色の槍の穂先が指し示す。
その先にて、頭部を槍によって両断されたばかりの怪物が叫び声を下ている。
「 あ あああ ああああああ ああああああ ああああああああ ああああああああああ!」
怪物の様子は先ほどと変わりない。
つまりは、ロッカーの狭い空間にて安心と安息の眠りについていた、その時分から体力を損なっていないようである。
いや、むしろ、外界の空気に触れあった事によって、個体の生命力は室内にいた時よりもより一層力を増してさえいるようだった。
「むむむ……とりあえず基本のキとして、思考能力の中心部分があると思われる、頭部を破壊してみたんですが……。どうやら、あてが外れてしまったようですね」
空中に漂いながら、キンシは槍の柄を左肩に寄りかからせている。
思案を巡らせている少女に、トゥーイが提案をしていた。
「提案。とりあえず魔力の力の源泉から探してみませんか?」
提出された意見は、ごくごく単純なものでしかなかった。
単純すぎて、首輪のような壊れかけの発声補助装置ですら、容易にある程度正しく意味を伝えられるほどであった。
愚かしい魔法使いには、これが精一杯のアイディアだった。
「なるほど! それは良いアイディアですね」
だが、キンシはトゥーイからの提案をとても喜ばしいものとして扱ってくれていた。
「では、こんどはこれを試してみますか」
キンシは左肩に寄りかからせていた槍を、右側の肩に移している。
そうして左半身を比較的自由にさせた後で、キンシは左の腕を少し前に突き出している。
手の平を開き、柔らかい腹を上に向ける。
雨の雫がぽたり、ぽたりとキンシの手の平に溜まっていく。
灰とその他、多くの不純物を含んだ、決して清潔とは呼べそうにない水分の集合体。
水の質感を意識しながら、それらを媒介にキンシは「水」の玉を手の平に意識する。
「すぅーはぁー……」
呼吸をする。
先ほどの壁を破壊した時のそれとは、いくらか気軽そうな呼吸音。
血液に新鮮な魔力を取り込みつつ、キンシは左の手の平へ「水」の玉を作成しようとした。
色褪せた白色の包帯に包まれている。
呪いの火傷痕が残る左腕に、魔力の気配が温度をともなって集中している。
小さな水の球が最初に生まれ、キンシは生まれたばかりのそれを懸命に意識のなかへ掴み取ろうとする。
「逃げないで……! 逃げないで……!」
いたって単純な魔法であっても、キンシにとっては緊張の走る瞬間であるらしかった。
三十秒ほどの間必要として、キンシはどうにかして「水」の玉を作成し終えている。
「よし、よし……! うまく作れました……!」
ハンドボールほどの大きさがある「水」。
液体にとても類似した、透明な魔力をキンシは左手にて携える。
紙風船のようにぽんぽんと、手のひらの上に数回跳ねさせる。
「よいしょ、よいしょ……っ」
三回ほど跳ねた。
四回目にて、キンシは「水」の玉を雨雲に向けて天高く放り投げている。
ぽーん、と跳ねあがった。
「はい、よいしょー!」
キンシはそれを槍の穂先、刃の腹で思いっきり打ち付けている。
衝撃を受けた、「水」の玉はさながら本物のハンドボールのように、ほぼ直線上を描いて怪物の方に向かっていっている。
やがてぶつかる。
バシャン!
「水」が、怪物の表面に炸裂していた。
「 ??? あ ???? 」
怪物の方は、魔法少女のささいな魔力が衝突したことなど、さして重要にはしていないようだった。
事実、魔法少女にしてみても、それはあくまでも攻撃のための方法ではなかった。
「んむむむ……!」
重要なのは衝突した後のこと。
個人の、個人的な魔力が怪物の表面を柔らかく撫でている。
じゅわじゅわ、じゅわじゅわ。
怪物の表面から気泡が破裂するかのような、音色が発せられている。
怪物の持つ多量の魔力に反応して、キンシの魔力が拒絶の反応を示していた。
反応はどうやら、怪物のウロコに集中しているようだった。
「ほうほう?」
その様子を見た、キンシが考察を深めようとしている。
「なるほど、そういう感じですか」
「ど、どういうことなの? キンシちゃん」
なにやらヒントを得たらしい。
魔法少女の右隣から、メイが疑問の手を伸ばしてきていた。
キンシはメイに答えている。
「ああ、メイお嬢さん、それはですね、それはそれは素敵なアイディアが浮かびそうで、まだ浮かんできていないんです」




