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プリンは不安にぐちゃぐちゃ押し潰された

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「いいいいッ?!」


 驚いているのはトユンの姿であった。


「こ、古城の主?! 古城って、あの古城だよね?!」


 彼が驚いているのは、魔法使いの一行についてきたモアの正体についてであった。


「ああ、そういえば、自己紹介もまだろくにしていなかったね」


 驚愕するトユンに、モアは微笑みのなかで穏やかそうに、自分についての情報を開示していた。


「あらためまして、はじめまして。あたしの名前はモア、アゲハ・モアといいます」


 青い瞳の少女の名前を聞いた。


「ひ、ひええ……ッ!」


 トユンはいよいよ驚愕の気配を濃密かつ濃厚なものにしようとしていた。


()()()って言ったら、アレだよ、アレだよね、高名な魔術師の一族としてこの(てつ)の国でも有数の実力と権力をもっているっていう……」


「へえ! そうなんですか?」


 トユンが語っている内容に、キンシが瞳孔を丸くして驚いていた。


「モアさんって、そんなすごい人だったんですか」


 純粋な驚きを胸の内に転がしている。

 そんなキンシに対して、トユンが呆れたような視線を送っていた。


「ええ……キミ、魔法使いのくせに知らなかったの?」

 

 トユンはコイン投入口のように横長の瞳孔に、キンシに対する不信感をにじませていた。


「ごめんなさいね」


 ポカンとしているキンシの右側にて、メイがトユンのことを申し訳なさそうに見上げていた。


「キョーイクブソクよね、もうしわけないわ」


 メイはトユンに、魔法使いの少女に対する教育不足についてを、つたない発声で謝罪していた。


「い、いや……何もキミが謝らなくても……」


 トユンはさらに困惑しきっている。


 横長の瞳孔が困り果ててしまっている。


 彼が戸惑うのも、まあ、それなりに納得の行くものではあった。

 なんといっても、彼にしてみればメイは、小鳥のようにふわふわの羽毛に包まれた、庇護欲があふれんばかりの見た目でしかなかったからだ。


 世間知らずの魔法使いに、やたらと年増(としま)な雰囲気をもつ幼女。

 トユンは今さらながらに、この一行に喫茶店の怪物退治を依頼した、自分自身の判断に後悔らしきものを抱き始めていた。


「まあ、ともかく……こっちに来てくれよ」


 しかし一度決めてしまった事を覆すのも、トユンには選べそうになかった。

 日常に暮らしているなかで、こんなにも都合よく手頃に暇そうな魔法使いに出会える機会など、そうそうあるものでも無いのである。


 喫茶店の店員であるトユンに誘われた。

 そこは喫茶店の従業員以外立ち入り禁止の一室であった。


「わあ、関係者以外立ち入り禁止ですね」


 キンシは子供っぽく、未知なる空間に単純な好奇心を見せている。


「ワクワクしますよー」


「楽しそうにしているところ悪いけど、仕事はきちんとしてもらうからね」


 実際、トユンから見ればキンシの方も、それなりに年下の子供としか認識できないでいる。


「ふむ、ふうむ?」


 興奮の芽を発芽させようとしているキンシ。

 その右隣のあたりにて、モアが空間に対する考察を行っていた。


「空気中の灰が(よど)んでいるね」


「灰……魔力のことね」


 モアが使用している単語について、メイが自分なりに理解しやすい表現方法に噛み砕いていた。


「そう、力の流れがとどこおっている気配がするね」


「ああ、確かに……そんな感じがします」


 キンシもモアに同意をしている。

 両側のまぶたをぱちくり、とまばたかせている。


「すうぅぅー……はあぁぁー……」


 深呼吸をする。

 口の中、気管支を通過して肺胞に酸素が取り込まれる。

 呼吸と言う行為のなかで、キンシはその場所に含まれる灰を肉体の内側に取り込んでいる。


 すると、魔法使いの少女の左目に、赤い光がポウ……と瞬いていた。

 水に溶けた血液のような、透き通った赤色。

 それはキンシの肉体、血液中に含まれる魔力が動き、反応した証だった。


 赤色の光を放つ、「それ」はキンシの左眼窩(がんか)に埋めこまれていた。

 

 昔に失われてしまった、左の眼球の空白を埋める、「それ」は赤い琥珀のような存在だった。

 内に精霊の力を宿す、赤い琥珀は魔力鉱物と同様に魔力を有している。


 赤い宝石の義眼が、この場所に滞る魔力に反応、……と言うよりかは拒絶反応のようなものを持ち主の肉体に示している。


「い、痛たたた……」


 何本もの針に刺されたかのような、するどい痛みが左眼窩を中心に、キンシの全身を硬直させている。

 それはこの空間、喫茶店の裏側に喜ばしくない灰、すなわち魔力が漂っている。

 その証明であった。


「うわわ、大丈夫?」


 苦しみはじめている、キンシをトユンが心配していた。

 彼にしてみれば、いきなり魔法使いが苦痛に身をよじっているのである。

 心配は前程でしかない。

 本心を言ってしまえばキンシの姿は不気味なものでしかなかった。

 道端で轢死(れきし)したカエルの死体を見つけてしまったかのような、そんな不快感がトユンの意識を揺らしている。


「ふむ、どうやらかなり濃厚な悪性の魔力がこの場所に溜まってしまっているようです」


 喫茶店の店員である彼の反応など知らず、キンシはあくまでも自分の検索結果に強く集中力を働かせていた。

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