よし、食べていいぞ
ご覧になってくださり、ありがとうございます。
所が、場面が変わる。
今のところは、同じ灰笛の土地に存在している。
長々と続けてきたが、そろそろ場所を魔法使いの少年から、魔法少女のことについて語りたくなってきた。
「ところで、カハヅ・メイさんと言ったかな?」
「メイでいいわよ」
モアと言う名前の少女にフルネームを呼ばれた。
メイはとりあえずやんわりとした様子を意識しながら、モアに自分のことをフルネームで呼ぶのをやめさせようとしている。
「じゃあ、メイ。メイは、SNSは利用しているかしら?」
「えすえぬ、えす……?」
瞬間的に言葉を理解することが出来なかった。
メイはその白く細い首を、たおやかな動作でこくりと、かたむけている。
「ソーシャルネットワーキングサービス。他者とのつながりを必要とする、電子上のやり取りの一つだね」
「あ、ぼ、僕、それ知ってます」
彼女たちの会話に参入してきたのはキンシの声音であった。
黒い体毛の、子猫のような聴覚器官をピン、と上に立たせている。
「毎日、ほぼ匿名で色々な人間が、日々言葉のぶつけ合いを繰り広げる、現代におけるコロッセウムてき場所、なんですよね」
「うーん? その言い方だとかなり殺伐とした語弊を招きそうだね」
子猫のような魔法使いが好奇心に瞳を輝かせている。
それに対して、モアはあくまでも落ち着きはらった様子を保持させるだけであった。
「まあ、でも間違っていないか」
「そうです。あ、たしかトゥーイさんもご利用をしているんですよね?」
モアと語る途中にて、キンシは視線を左側、後ろにくるりと移動させている。
焼きたてのビスケットのように円形をおびた眼鏡のレンズ。
薄い板の奥にはキンシの右目が眼窩、肉の中に正しく埋まっている。
新緑のように鮮やかな緑色をした、虹彩が好奇心によって刻々と変化しているのが見えた。
「…………」
子猫のような、魔法使いの少女に問いかけられた。
トゥーイの方は、いつものように唇を閉じたままにしている。
一拍ほど沈黙を許した、その後に。
「同意。そのとおりです」
それな肉声によるものではなかった。
トゥーイは声を発せられない代わりに、首元に首輪のように巻き付けた発声補助装置(壊れかけ)で会話を行っているのであった。
「そうですよね」
トゥーイからの返答、声を当たり前のものとして受け止めている。
「トゥーイさんは、かなり初期のころからそのサービスを使っている、とのことです」
言いながら思考を働かせる。
キンシはトゥーイの状況を表すための言葉、可能な限り正確に伝えらえるための言葉を検索しようとしていた。
「なんでも、サービスが始まった当初から登録のようなものを行っていました」
「なんと!」
キンシがトゥーイについてを語っているなかで、モアが感心の方向をこちら側に寄せてきているのが見えた。
「あらあら、古参の方、黎明期にご活躍した人とは。もしかしたら先輩、と呼ぶかもしれないね」
魔法使いたちのやり取りを聞いた、モアがおどけるような素振りを作ってみせていた。
キンシは平然とした様子を継続させたままで、視線を再び前に、モアがいる方向に戻している。
「モアさんは? なにか、なにかしらの……えすえぬえす、をご利用になっておられるのでしょうか?」
使いなれない言葉をぎこちなく使おうとしている。
「ええ、そうだよ」
他人と会話するときには、キンシはどうしてもいつも謎に緊張気味な気配を匂わせてしまう。
それに対して、モアのほうは脳天から爪先にいたるまで優雅に、リラックスの形状を保っているようだった。
「古城の主として、この灰笛を管理する中で、ネットの情報は常に事細かにチェックしないといけないからね」
「ほへぇ、すごいですね」
キンシが感心を抱こうとした。
だが魔法少女が感情を固定するよりも先に、モアは微笑みを唇ににじませている。
「なんちゃって。実際は、ほとんど趣味みたいなもので、まあ、のんびりと楽しませてもらってるって感じ」
そこまで語った所で、モアは再びメイの方に視線を戻している。
「っていうわけで、どうかな? メイはなにかSNSを利用してみようとは思わないかい?」
モアの、晴れた青空のような色を持つ瞳がメイの姿を捉えている。
メイは、彼女の瞳から故郷の村でいつも見上げていた、晴天の美しさを小さく思い出していた。
「いきなりそんなこといわれても……ね」
ある程度話を聞いたところで、メイは青い瞳の少女の唐突さに戸惑いを覚えていた。
「というより、いまは、もっとべつの話題をするべきじゃないかしら?」
謎の方向性に進もうとしていた、話題をメイは静かに軌道修正している。
「ねえ、トユンさん」
「んー?」
メイに問いかけられた、トユンという名の若い男性が相槌らしきものを打っている。
「いやべつにー? オレとしてはこの先の問題さえ解決してくれれば、何を話しても問題は無いんだけど」
トユンの様子に嘘いつわりは、とりあえず含まれていそうになかった。
「そう」
メイはそのことにまず安心をする。
そしてすぐに、別の不安を胸の内に灯していた。




