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ストリートスナップのようにキメよう

ご覧になってくださり、ありがとうございます!

「さてさて、そろそろこの場所からも移動しなくちゃならないねー」


 戸惑っている魔法使いを放置するように、マヤは場所の移動を希望し始めていた。


「うーん、今日はなかなかに、刺激的な出来事ばかりの一日だったなあ」


 マヤはそう言いながら、両の腕を上に真っ直ぐのばし、簡易的なストレッチをしていた。


「なに、夏休みの日記みたいなこと()-とるん?」


 宝石店の店員である彼の声を聞いた、ミナモが話題の変換にそれとなく気付いていた。 


「あ、お話し終わった感じ?」


「いや、いいや? なにも終わってねえよ?」 


 小瓶を片手に、魔法使いの内の一人であるルーフは、動揺せずにはいられないでいた。


「なんか知らねえけど、犯罪者の痕跡を押し付けられて、それで話が終わりってワケ?」


 承諾しかねる状況に困り果てている。

 ルーフはせめてもの(よすが)として、納得のできる理由を探し求めていた。


「だからーさっきも言ったじゃんー? 適応力がすごい高いから、そのへんの情報も、ぜひとも集めておきたいんだってー」


「それが、一体どんなふうに得になるんだよ?」


「そうだねー……魔力が記憶、つまりは脳神経、海馬(かいば)に直接影響をもたらしたからー。記憶領域に繋がる、魔力の回路を解明したいんだよねー」


「あー……えっと、なんだって?」


 油断していたところに専門的な領域の会話が、さながら闘技場に登場する剣闘士よろしくぞろぞろと現れてきた。


「ようするにぃ、カハヅ・ルーフ君とトーヤ氏の魔力は互いに、他に類を見ない、ヒジョーにめずらしい反応を見せ合ってるんだってー。だからぁ、せっかくだからその情報も記録して保存しておきたいんだよー。 ほら? ほらほら? もしかするとだよ、義足の制作になにか、なにかしら役に立つかもしれないじゃんー?」


 マヤは鼻の穴をふくふくと膨らませながら、興奮気味に自らが保有するところの理由を語っている。


「…………」


 そうなのか。

 と、一言で終わらせることも、ルーフにとっそれは決して不可能なことではなかった。

 なにせ、この愚かなる魔法少年には、宝石店の店員が語るところの理由の詳細など、ほとんど理解できそうになかったのであった。


「そこんところ、どうですミナモのアネゴ……っ」


 ルーフが黙ってしまっている間に、マヤはミナモに意見を求めようとしていた。


「っとと、この呼びかたはあまりよろしくないんだったねー」


 ほとんど呼び終えてしまっているというのに、マヤは特に悪びれるのでもなく、再びミナモのことを呼び直している。


「ミナモさん、今回の取引はこれにて終了、ということでよろしいかなー?」


 宝石店の店員である彼に問いかけられた。


「そやねえ」


 ミナモは(たぬき)のような聴覚器官をピクリ、と動かしながら、彼の語るところへ軽やかに同意を返している。


「最後にもう一度だけ、ルーフ君の義足の材料になる? かもしれない? 魔力鉱物をよく、ようく見せてくれへんかしらね?」


「いいですよ、いいですよー。しっかりと観察なさってくださいー」


 ミナモからの要求に対して、マヤは快諾(かいだく)のようなものを返している。


 言いながら、マヤは作業机の上に安置させていた宝石のひと塊を水面に見えやすい位置、机の中心の辺りに移動させている。


「ふむふむ?」


 見えやすい位置に移動した、ミナモは魔力鉱物と呼ばれる、鉱物にとてもよく似た存在を手の中に確かめている。


「たしか柘榴石(ざくろいし)……ガーネットに類するものやったっけ?」


「そうそう、そうですよー」


 ミナモが語る内容について、マヤは興奮を継続させたままで宝石に関する情報を開示してきている。


「ガーネット……に、類する性質をもっている。赤みのある透明度は、クロームの質感をとてもよく、ようく模倣しておりますよー」


 マヤは重ねてその魔力鉱物が、あくまでも本物の鉱物、宝石と呼ばれる価値のある存在とは異なるもの、別のモノであることを主張していた。


「ほうほう? はたして、その性質(たち)はどのようなモノなんやろうね?」


 ミナモからの質問にマヤが答える。


「よくぞ、よくぞ聞いてくれましたー」


 まるで素敵な作りのワンピースでも宣伝するかのような、そんな軽やかさで、マヤは魔力鉱物に監視手を語る。

 怪物の死体から削り取られる、死肉の結晶体について語る、宝石店の店員である彼の瞳は好奇心にキラキラときらめいていた。


「その性質は例えるならば……冬かな? クロームによる鮮やかな赤色の要素は、まさに生きている、命を継続させている人喰いのプリプリとした鮮度たっぷりの血肉、溢れんばかりの魔力の奔流(ほんりゅう)を想起させるねー」


 鼻腔は充分に広がっている。

 語っている様子を眺めていた、ルーフはマヤの緑がかった皮膚に興奮、そしてみなぎる好奇心の気配を嗅ぎ取っていた。


「身に着ければ、身体の存在価値を増幅させることが期待できるだろうねー」


「マジかよ」


 マヤが語る存じない事実に対して、ルーフは素直な驚きと同時に疑いの針をチクリと刺していた。


「また、テキトーなこと言ってんじゃねえだろうな?」


「いえいえ、いーえ! そんなことは決してございませんよー」


 そう言いながら、マヤは具体的な例を腕の中に用意しようとしていた。

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