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赤いリボンは可愛さとめんどくささの象徴

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 集団、目的を共にしている彼らの手によって、ルーフの肉体は以前の形を失ってしまった。

 故郷で安息の日々を過ごしていた、あの時はルーフにとって過去の出来事になってしまっている。


 集団の手によって、ルーフはその肉体に呪いを科せられた。

 呪いによって変身してしまった。

 肉体を抱えながら、ルーフは魔法使いとして生きていく道を選ばざるを得なくなった。


 選択肢は、もしかしたら他にもあったかもしれない。

 しかしながら、ルーフは魔法使いとしての人生を選ぶことにしていた。


「なかなかに、大変そうだったんだねー」


 沈黙の中に身を預けている。

 マヤはルーフの様子を見ながら、分かりやすく受けた呪いの形を再確認している。


 失った右足。

 その空白を埋め合わせるための器具、義足の方に注目をする。


「とりあえず、その義足はウチでしばらく預かることにしてぇー……」


 そう言いながら、マヤはいつのまにやらルーフのすぐ近くに体を移動させている。


「あ、ちょ……!」


 反射的に抵抗をしようとした。

 ルーフの呼び声を無視して、マヤは彼の義足に指を触れ合せている。


「よいしょっとー♪」


 歌うように、気軽そうに、マヤはルーフの義足を根元から外し取ってしまっていた。


 頼りなくとも、支柱にしていたものを奪い取られてしまった。

 ルーフは途端に体のバランスを失ってしまっている。


「おっとっと、危ないです」


 倒れそうになった、ルーフの体を支えているのはハリの腕だった。

 片足を再び失った、魔法少年を気遣うように、ハリは息を吐き出している。


「駄目じゃないですか、マヤさん。義足を外す時は、前もって持ち主さんに許可をちゃんとくださらないと」


 そう言っている。

 ハリの言葉を耳の近くに聞き取りながら、ルーフは肩越しに彼の頭部がある辺りを見上げていた。


「ボクが体を支えていなかったら、いまごろルーフ君の鼻っ柱がアトリエの地面と急接近! の末に鼻血で真っ赤に燃え上がるところでしたよ」


「それはそれで、オモシロそうだけどねー」


 マヤは妖精族特有とも言える意地の悪さを見せている。

 ハリの方はそれに真剣に取り合うことをせずに、慣れ親しんだ様子で宝石店の店員である彼の言葉を受け流していた。


「ともあれ、このままじゃあまりよろしくないですよ」


 もはやルーフは全身のほとんどを支えている。

 ハリは魔法少年の体を抱えるようにしながら、しかしてこの状況にとりたてて拒否感を抱いている訳でもなさそうであった。


「もちろん、このままボクがルーフ君の……王子様の体をだっこし続けるのも、やぶさかではありますが……」


 妖精族の若い男女とは異なり、ハリはあえてルーフのことを気遣うための言葉を用意しているらしい。


 しかして魔法使いの彼の頭部に生えている黒猫のような聴覚器官はペタリ、とイカのヒレのようにたたまれてしまっている。

 それはハリにとっての、彼が属している眠子(ねむこ)という名の種族、猫の獣人にとっての不快感を意味するボディランゲージの一つであった。


 黒猫のような魔法使い、彼にとっての不快感の表れは耳だけに限定されている訳では無かった。

 ハリの身に着けている眼鏡の奥、楕円形のレンズの内側、目に感情がありありと現れている。

 エメラルドの色を持つ虹彩は陰っている。

 そして猫の獣人族特有の縦長な瞳孔は、不安の中で不安定に丸々と拡大されていた。


 耳の形、そして瞳に宿る輝きの減少から、ルーフはこの黒猫のような魔法使いが隠忍(いんにん)していることを察していた。


「冗談じゃねえよ、なんでお前にだっこにおんぶされなくちゃならねェんだっての」


 ルーフはあえて能動的に拒否の意を伝えている。

 魔法少年の拒否を受け取った、ハリは耳をピクリ、と立たせている。


「ほら、王子様もこのように嫌がっていらっしゃいますよ! どうします?」


 耳をまっすぐ立たせながら、ハリは眼鏡の奥の瞳にきらめきを取り戻している。

 黒豆のように拡大されていた瞳孔は収まりを見せ、平常時の縦長に切りこまれた形を取り戻している


 ハリはとても分かりやすく喜んでみせている。

 黒猫の魔法使いの感情の変化は、ルーフだけでなくマヤにも充分が過ぎるほどに察知できてしまえていた。


「そうだなぁ、だったらー……」


 黒猫の魔法使いの意向を言葉の裏側に汲み取った、マヤは思考と同時に体を作業机の奥に移動させている。


 奥にある棚から、マヤは一つの塊を取り出していた。


「これこれ、これを使っておいてちょうだいなー」


 マヤの中にある、それは簡易的な造りの義足であった。

 何の魔導の機構も含まれていない、肉体における単純な作用で動かす、あまり自由の効かなさそうな義足。


「サイズがちょっと合わないかもしれないけど、まあ、そこは松葉杖で適当におぎなってちょうだいよー」


 そう言いながら、マヤはなんのためらいも無くルーフの下半身に手を伸ばしている。


「ちょいとシツレイ、シツレイするよー」


 ハーフパンツの裾をめくり上げる。

 その身のこなしは実にすみやかなるものであった。


 あっという間に、ルーフの右足には簡易的な義足が装着させられていた。

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