ロクにあらくれられもしない
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「ううーむ? なんかこう、ここまでもう少し、出かかっているんですけれどね」
ハリは下唇を揉んでいた左の指を少し離し、位置を下の方、喉元の辺りに移動させている。
「なんだよ、思い出すならさっさとしてくれよ」
いまいち要領を得ない魔法使いの様子に、ルーフが催促の意味を伝えていた、
「まあまあ、カハヅ・ルーフ君、そんなに急かすことも無いだろうよー」
マヤがルーフのことを諭すようにしている。
宝石店の店員である彼が言う通り、とりたてて急ぐ理由などルーフには存在していなかった。
しいて言うならば、自分自身ではなく、ここまで連れてきた……。
「誰って、指名手配のヒトじゃないー」
声が唐突に答えを返してきた。
それはエリーゼの喉元から発せられているものだった。
「しめーてはい?」
とっさに言葉の意味を理解することが出来なかった。
ルーフはエリーゼの言葉を、やまびこのように復唱することしか出来ないでいた。
「そうそう、指名手配。っていうかあ、カハヅ・ルーフ君、キミこそが何よりの当事者じゃない」
エリーゼがそのようなことを言っている。
それだけを聞いた、ルーフはすでに頭の中に一つの答えを導き出していた。
「集団、奴らのことか……!」
右目、元の琥珀色を失い、藍色になるまで燃やし尽くされた。
眼球に刻み込まれた呪いの痕跡が、ズクリ、と痛みを覚えた、ような気がした。
「集団ハルモニアの主、ルーフが保有している名前の一つが、確かそれと同じようなカンジだったハズよねー」
エリーゼが語っている。
その間で、ルーフは自分の身に起きた事件についてを思い出していた。
「それって、最近巷を騒がせている、怪しい人たちのことなんやろ?」
ミナモが自らが知っている情報を言葉にしている。
「主に怪物を勝手に捕まえて、自動的に人を襲うようにしているとか。なんかやばいんよ」
ミナモの様子からは、どこか遠い場所に起きている災害のことを語っているかのような、そんな余所余所しさがあった。
彼女の様子に、エリーゼが呆れるような視線を送ってみせていた。
「ミナモのアネゴォ、ことはそんなに生易しいものじゃないんですってー。現状、ウチの機関が直面している最大の問題が、その集団が関係しているんですよー?」
古城に関係する魔術師である彼女が語る内容に、ルーフは少なからず驚愕を抱かずにはいられないでいた。
「マジかよ、怪物を使って人を襲わせて、それでどうしようっていうんだよ?」
ルーフが疑問を抱いている。
それに対して、エリーゼが唇を少し尖らせて返事をしている。
「んーんん……あまり詳しいことを言うと機密事項に触れちゃうんだけど……でも、まあカハヅ・ルーフ君にならイイかー。エミル先輩も許してくれそうだよねーうんうん」
なにやら、エリーゼの中だけで勝手に事が進もうとしているらしい。
ルーフはそのスピードに小さくおののきそうになった。
だが、魔法使いの少年は若い女魔術師の言葉の続きを大人しく、黙って待つことにしていた。
今は情報を集めることの方を優先すべきであった。
「集団……通称ハルモニアと呼ばれる彼らは、どうやら魔力を集めたがっているらしいのよー」
「魔力」
ルーフは再びエリーゼの言葉を復唱している。
今度は意味をしっかりと理解している、つもりだった。
もしかしたら本当は、女魔術師の言う内容のほんの表面しか認知していないのかもしれない
だが現状、それで満足するしかない。
ルーフは諦念を一粒こしらえている。
「そうそう、魔力」
魔法少年が一定の理解を示している。
そのことを視覚の中に確認した、エリーゼは機密事項の一滴を会話の中に垂らしている。
「魔力を大量に集めて、秘密の魔術式を作動させようとしているらしい、のよー」
「秘密、その秘密ってどういうものなんだよ?」
ルーフが考え得る限りの単純な疑問を口にしている。
「それはー? 教えるワケないじゃないー」
ルーフからの質問は、エリーゼにとって予測できた範囲であったらしい。
女魔術師はテストであらかじめ勉強してきた内容が登場してきたかのような、そんな明快さで受け答えをしている。
「機密事項よ、教えたら罰が待っているんだからー」
どれだけ本気にしているかさえ、ルーフはエリーゼの様子から測れないままでいる。
「まあまあ、カハヅ・ルーフくん」
エリーゼの様子に納得が行かないルーフの様子を見た、マヤが宥めるようにしていた。
「気になることは多いかもしれないけど、いまは自分のことだけ心配しておけばいいんじゃないかなー?」
宝石店の店員である彼が語るように、ルーフは今、自分の体さえ自由に動かせない状況であった。
「ああクソ……これもあの集団に、奴らにやられたままなんだっての……こんちくしょう」
ルーフは歯噛みするようにしている。
魔法使いの少年の様子から、マヤは彼と集団との間に何が起きたのか、好奇心の気配を肌の上に滲ませていた。
しかしここは大人らしい態度を演出する。
マヤは魔法少年に詳しくは事情を聞かないことにした。
聞くまでもなく、少年自身が何よりも、誰よりも事を理解しているはずだったからだ。




