視聴者側に秘密をつくるのは致命的
こんにちは。
ご覧になってくださり、ありがとうございます。
「ほら、いきなり詳しいところから離そうとするから、どんどん難しくなるんですよルーフ君」
云々(うんぬん)と頭を悩ませている。
ルーフに対して、ハリがアドバイスのようなものを送っていた。
「とりあえず! 分類をしてみるんです。できますか?」
「分類……?」
ルーフは首を傾げそうになって、それを寸前のところで堪えている。
まだ、安心して癖を全てさらけ出せるほどには、ルーフは目の前にいる魔法使いのことを信頼しきれないでいた。
「ほら、どんなことでもいいので、情報を一つずつ拾い集めていくんですよ」
ハリはそのようなことを言っている。
彼の黒猫のような聴覚器官を見上げながら、ルーフはとりあえず、現状でき得る行動を舌の上に用意している。
「えっと、とりあえず……声は大人の男だったな」
「ほうほう?」
ぽつりぽつりと語る、ルーフの言葉にマヤは耳をかたむけている。
「して、はたして、その彼はルーフ君にどのような言葉を向けていたのかなー?」
「どうって、……言われてもな」
マヤからの質問は単純なものでしかなかった。
しかし、それに対してルーフは明確なる答えを返せないでいる。
「なんて言っていたのか、俺にもよく分からねえんだよ」
それはまるで夢のように、朝食のコーヒーと共に喉の奥、無意識の隙間に沈んで見えなくなってしまう。
要するに、ルーフはすでに白昼夢にて語りかけてきた男の言葉を忘れつつあった。
「うんん、何ひとつとして具体的なことが分からないままですね……」
要領を得ないルーフの様子に、ハリは単純な困惑だけを唇に呟いていた。
ハリは頭部に生えている黒猫のような聴覚器官をピクピク、と動かしている。
「あ、そうだ」
魔法使いの少年からはこれ以上具体的な、明確なる情報を獲得できそうにない。
そう判断したハリは、もっと利便性のある情報源を求めて視線を動かしていた。
「帳簿、帳簿を見ましょう。そっちの方が、早く事がすみますよ」
「あ、ああ、そうだな……」
どうしてそこを失念していたのだろうか。
ルーフは自分自身に問いかけたくなる。
しかし今は自問自答をしている場合ではない。
実行できる行動が用意されている内が幸いであると、ルーフは縁を頼るように帳簿の頁を探っている。
読み取ろうとして。
「えーっと? なんて書いてあるんだこれ……」
解読することが出来なかった。
帳簿の頁は最初に見たもの、最新の項目と比べてみても、あからさまに記述者の癖が色濃く残っていた。
「あーこの辺は時代的にィ、先々代の筆跡によるものだねー」
魔法使いの少年が困惑していると、マヤが手の中にある帳簿についての情報を推察していた。
「先々代……ってことは、お前ら的に所謂ところの……」
「そうそう、おじいちゃんの時代だねー」
ルーフの言葉に重ね合せるように、マヤが帳簿の記述についての情報を開示している。
宝石店の店員である彼からの情報を聞いた。
ルーフは再び帳簿の記述に目を移してみる。
たしかに最新の方のページに比べてみても、あからさまに筆跡が異なっているようだった。
「その……ずいぶんと、文字の書き方に……特徴……が、ある人なんだな」
「あーそんな、ケンソンじみたことを言わなくてもいいんだって」
見るからに分かりやすく言葉を選んでいる。
ルーフの下手くそかつお粗末な表現方法。
それに対してマヤは呆れ半分、もう半分は本心からなるアドバイスをひと匙加えていた。
「ウチのおじいちゃん、昔っから字だけはとにかく下手くそで、誰もかれもが注意しても全然直そうともしなかったからなー」
個人の家庭の事情を話している。
そうして口を動かしている間に、マヤはルーフが触れた魔力のかけらに指を触れ合せている。
「どれどれ……?」
マヤは何かを期待しているようだった。
それが、もしかするとルーフが見た、体験した白昼夢を期待しているものであること。
そのことにルーフが気付いたころには、マヤはすでに指をかけらから離してしまっていた。
「うーん、やっぱりオレにはなにも、なんにも見えないなー」
もしかするとルーフと同じ白昼夢を期待していたのだろうか。
マヤはそれなりに残念そうな気配を緑がかった肌ににじませる。
しかしながら、それよりもと、理性はすでに優先すべき事項を選んでいる。
「さーてさてさて、実験的行為のあとは、お客様の望む情報を要しなくては、だね」
帳簿に記された筆跡を視線の中に、マヤは祖父の記した内容を音読している。
「えっと、えーっと? と、と、トーヤ……? トーヤって人の魔力だそうだよ、これは」
名前を聞いた。
「へえ……」
何か決定的な変化が訪れるのか。
例えば魔力に触れた時のように、その時点と同じような、新たなイメージが現れるのではないか。
ルーフはそう期待した。
「…………」
しかし魔法少年の期待は叶えられなかった。
名前はあくまでも名前でしかない。
「なんだか、ちょっとかっこいい名前ですね」
「そ、そうか……?」
ハリの感想にルーフは賛成しかねていた。




