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用意するのは野生の気配

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「びーっ!! びーっ!! びーっ!!」


「わあ?!」


 突然鳴り響いたのは、警告を伝える意味としての音程をもっていた。

 ルーフがビックリと肩を震わせている。

 跳ね上がる心臓の上空にて、脳みそは不思議なまで冷静に音の正体を検索しようとしている。


「警報、刑法に該当するレベルの魔力反応を検知ーっ♪」


 緊急事態を告げようとしているのに、アトリエを管理する使役種は差し迫った状況においても歌うような口ぶりを止めようとしなかった。


 もしかしたら、それがその怪物の一種に課せられた形、型の一つなのかもしれない。

 そう、ルーフが想像を巡らしている。

 瞬間的には、少年は自分が警告の震源地となっている事を上手い具合に把握できないでいた。


「な、何ごとー?」


 使役種からの警告音に心の底から驚いているのは、どうやらマヤひとりだけであるらしかった。


「あー、たぶんあれよねー」


 親戚であり、同時にこの灰笛(はいふえ)に暮らす一般市民である彼。

 彼の動揺に同情した、エリーゼが安心をさせるための解説を加えていた。


「たぶん、カハヅ・ルーフ君の額に刻まれている()()が原因よねー」


 そう言いながら、エリーゼは腕をルーフの顔の方に伸ばしている。

 黒色のスーツに包まれた、彼女の細い腕が、指がルーフの前髪をすり抜け、額の皮膚に直接触れている。


 ルーフの赤みがかった、癖のある前髪をかき上げれば、そこには大きな火傷痕があった。


「わあー……!」


 マヤが思わず感動と感嘆の声を漏らしている。

 モノクルの小さなレンズが彼の魔力の動きに反応して、キラキラとした輝きを放つ。


「すごい呪いの結晶、そんなのを隠していたんだねー」


 宝石店の店員である彼が驚いている。

 彼の言う通り、ルーフの額には大きな呪いの火傷痕があった。


「ちょっとちょっとー。その呪い、オレに鑑定させてくれよー!」


「や、やめてくれ……人をそんな、地下の倉庫に眠っていた骨董品みたいに見るな……」


 宝石店の店員である彼の好奇心をやり過ごそうとしている。

 困惑している、ルーフに助け舟を出すようにしているのはミナモの声であった。


「はいはい、興奮するなら清算を最後まで終わらせてからにしてや」


 まだ商売の、取引の途中であることを、ミナモはマヤに主張している。


 しかしながら、マヤの耳には彼女の声が上手い具合に届いていないようだった。


「ほんの少しだけー触るだけー。ダメですか、カハヅ・ルーフくーん」


 懇願している。

 マヤの様子にルーフはほんの一瞬だけ(ほだ)されそうになる。

 だが落ちようとするその寸前で、魔法使いの少年は何とか踏みとどまっていた。


「……あー……だったら、あれだ、その……わざわざフルネームで呼ぶのをやめてくれないか?」


「うん、分かったよー、ルーフくーん」


「決断(はや)ッ?!」


 散々引っぱってきておいて、この変わり様。

 マヤのあまりにもあっさりとした態度の変化に、ルーフはもはや呆れのようなものしか抱けないでいる。


 しかしながら、宝石店の店員である彼は、魔法使いの少年の額に刻み込まれた「呪い」の痕跡にしか、今はとにかく興味を抱けないでいるらしかった。


「お願いー! ちょっとだけ、ちょっとだけ、先っぽだけ触るだけだからー! それだけで満足だからー!」


 マヤは一応ミナモの、客人の手前であることをしばらく忘却しているらしい。

 右目にモノクルをしたままで、体を作業机の(へり)にグイグイとめり込ませている。

 右の指先をしつこく、懸命にルーフの額の傷痕に向けて伸ばしてきている。


 モノクルの装着部分がゆらゆらと揺れている。

 マヤの持つ妖精族特有の三角にとがる耳の辺りに、モノクルの小さな鎖が強風にあおられる風鈴のように大きな力によってもてあそばれていた。


「あーあー!! しつこい、やめろ! 他人(ひと)の個人情報をむやみやたらと検索すんな!!」


 宝石店の店員である彼からの強引なるアプローチ。

 しつこい要求にルーフがそろそろ辟易とした感情を抱きつつある。


 その様子を見た。


「そっかぁー……。そんなにイヤなら、仕方ないよなぁー……」


 マヤはまるで何か、何かしらの信頼のおける存在に裏切られた、見捨てられてしまったかのような、そんな寂しさを目線の中に演出しようとしている。


「や、やめろっての……そんな、捨てられた子犬みてぇな視線を送ってくるんじゃねえっての……」


 相手の要求の強さに、ルーフはついつい(ほだ)されそうになっている。


「ちょっとちょっと、うち抜きで勝手なことをやってもらったらアカンよ」


 魔法少年の困惑を受け取ったのか、ミナモが助け舟のようなものを送ってみせていた。


「なんやねん、ルーフ君ばっかりずるいわ、うちもマヤ君に呼び方を変えてもらいたいところなのに」


 マヤと、そしてルーフが不思議そうな視線を送ってきている。

 彼らの様子を見ながら、ミナモは自分の要求を唇から発信している。


「とりあえずマヤ君、そのアネキって呼び方を変えてもらいたいんやけど……」

 

「えー!?」


 ミナモからの要求に対して、マヤは大きく拒絶をするような素振りを作ってみせていた。

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