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辿り着いてくれた綿雪たち

ご覧になってくださり、ありがとうございます。


ブックマークやポイント評価、ご感想、心より感謝いたします!

 少々めんどくさいが、しかしながら自分でまいた種であった。


「冗談」


「ほう?」


 怪しみ、(いぶか)るような視線を送っているエリーゼ。

 若い女魔術師の方を、ルーフはできる限り直線を描くことを意識して見つめようとした。


「ちょっとした冗談だっての。どうだ? 面白かったか?」


「うーん……」


 エリーゼは少しだけ考える素振りを作ってみせている。

 というのも、女魔術師の頭の中ではすでに、とっくに答えは出尽くしているらしかった。


「ゴミ! ゴミ以下! っちゅーかゴミに失礼!」


 見事なまでの酷評であった。


「この先長々と君の、カハヅ・ルーフ君の言葉が延々と続く可能性があること。そのことを思い浮かべるだけで、まるで夏休み初日の宿題を目の前にしたような気分になるわー」


「俺学校言ってねえから、その例えはよく分かんねえっての」


 ちなみに勉強については祖父から基本的な事を一通り教わった。

 一般常識に関しては、依然として不安要素が強すぎているのは、個人的に秘するべき悩みであった。


「なんだかアタシ、ますます君のことが嫌いになっちゃいそうよー」


 しかしながら、ルーフの事情などエリーゼにはなんの意味も為さないようであった。


「これじゃあ、まだまだしばらくは、フルネーム予備を止めずに済みそうねー」


 最初から最後まで、少なくともこの場面が終わるまでには、独自のルールと組み分けを止めるつもりなど無かったのだろう。

 ルーフはそう思い、実際に言葉にしようと試みた。


「…………」


 だが生まれかけた言葉を、ルーフは奥歯の当たりで静かに噛み潰している。

 実体のない言葉たちが卵の中の雛のようにまぶたを閉じている。

 薄い肉は実体も意味も持たない。

 少し甘い味がしたのは、ただの唾液の性分か、気のせいだったのか。

 どちらなのかは、ルーフには判別できないことだった。


 諦めることにした。

 気を取りなおして、ルーフはアトリエ内における取引に注目をしようとした。


「もう一つ、もう一個だけ、イイ感じの石があるとエエんやけど」


 ミナモは相変わらず作業机の上に身を預けたままにしている。

 ただ、数分前にルーフが見たときとは、いくらか足の位置だとか腕の配置などが変えられていた。


「なんか、ブワワーっとしてて渋めな感じのが欲しいみたいなんよ」


 かなりアバウトな条件であった。


「なるほどー」


 だがマヤは、ミナモの言葉をすんなりとした態度で受け止めている。


「と、なるとこちらの商品なんかはいかがでしょうかー?」


 そう言いながら、マヤは人差し指でモノクルをこまこまといじくっている。

 小さな歯車がしつらえられている、小豆(あずき)ほどに小さい歯をマヤは右の爪の先端でクルクルと回転させる。

 歯車が動くと、モノクルのレンズに少し光が明滅したような気がした。

 かすかな光、匂いを確かめられないので確信は持てないが、ルーフはそれを魔力の気配であると予想する。


 宝石店の店員であるマヤの操作から、モノクルがアトリエ内の備品を移動させている。


 じゃらじゃら。

 また金属が擦れ合う音が聞こえ、保存液が波打つたぷぷんとした気配が頭上から降り注いできていた。


 どうやらマヤの右目に装着している、歯車付きの古ぼけたモノクルが、このアトリエ内の備品を管理するための一つのツールであるらしかった。


 マヤの操作に合わせて、アトリエの天井に吊り下げられているガラス瓶が三つほど降下してきていた。

 鎖に繋がれている、それらは中身の魔力鉱物が放つ光によって、まるで前衛的なデザインのランプのように思われる。


 中身の鉱物たちを守るための保存液は、作業机の周りにあるものよりもかなり古そうな物だった。

 透明度からわずかに茶色を帯びている。


 ルーフはいつの日だったか、故郷の実家の自宅で祖父が舐めていたウイスキーの(しずく)を思い出していた。

 まるで琥珀を粉々に砕いて、滑らかな粉にして、何ものにも汚されていない冷たい水に溶かし込んだかのような。

 そんな美しさ。


 琥珀色の液体に浮かんでいる。

 魔力鉱物たちは操作される鎖の動きに合わせてゆらり、ゆらりと強く限定された内部をたゆたっている。


「ずいぶんと古そうだな」


 ルーフが呟く。


「保存液の色が変わるぐらいに、古い鉱物もあるんだな」


 今度のそれは独り言というよりかは、きちんと他人を対象に意思した質問文であった。


「当店の貯蔵は、他の販売元とは比べ物にならない程の層を保持しているんだよー」


 魔法少年からの追及に対して、マヤは自身に満ちあふれた様子で事情を語る。

 質問に答えながら、宝石店の店員である彼は用意した宝石入りガラス瓶たちをモノクル越しに見やっている。


「さーて、さてさて、ミナモの姉御のお眼鏡にかなうものはあるかなー?」


 マヤが客人の答えを待機している。

 彼の視界のなか、作業机を挟んだ向こう側にて、マヤは現れた商品たちに視線を向けていた。


「うーん?」


 少し考えた後に、ミナモは速やかさを失わない範囲内にて、自分の目的に沿うであろう魔力鉱物を見出している。


「まあ、これぐらいがちょうどエエかなー?」


 マヤが、ミナモの選んだ魔力鉱物を見る。

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