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ホールインワン散々

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「……えーっと? 全ての要素は「水」……すなわち魔力に由来する」


 ルーフはスマホの画面の中、メッセージアプリの白い枠に刻印された黒い文字列を読み取っている。


「そうそう、そんなことも言っていたなー」


 ルーフが音読している内容を、マヤは少しだけ懐かしむように聞き入っている。


「実家に寄る時にはいつも、酒の席でおじいちゃんのスピーチが入るんだよ」


「そうそうー!」マヤが語る内容にエリーゼがうなずきを返していた。


「親戚中のオジさんたちがみんな耳を真っ赤に染めて、おじいちゃんのスピーチに同意を返すのよねー」


 エリーゼはいつの日にあった親戚、コホリコ家の血縁者たちの集まりについてを語っている。

 

 個人的な家の事情を聞かされた。


「へぇー……」


 ルーフはそれに対して、どうにも上手く関心を持てないでいた。


「うわー、どうでもイイってカンジねー」


 魔法使いの少年の無関心ぶりを敏感に感じ取った、エリーゼが小突くような追及をしている。


「別に、そういう訳じゃ……」


 心の内、決して他人には見えるはずのない透明な薄い膜の下に隠している。

 本心を少しだけ読み取られただけで、ルーフはどうにもこうにも、身悶えをするような拒絶感を覚えずにはいられないでいる。


 恥ずかしがっているのかもしれない。


「恥ずかしがることないのよー、カハヅ・ルーフくーん」


 そんな魔法使いの少年に対して、エリーゼは花束でもたむけるような、そんな穏やかそうな面持ちで慰めようとしてた。


「もういい加減、このアトリエにいるのも飽き飽きしてきた頃合いなんでしょー?」


 割かし正解に等しいかもしれない、追及をされたルーフが不快感を覚えようとした。


 だが魔法使いの少年が自らの内側に感情を確立する、それよりも先に、妖精族の彼らは次なる行動を起こしていた。


「ともかく、人喰い怪物は退治できたし、カハヅ・ルーフ君の義足の材料も手に入っちゃったし、あとはもう、やるべきことをやるだけだよねー」


 マヤが、とくに名残惜しむわけでも無く、作業机の上にある宝石のひと塊に視線を落としている。

 宝石店の店員である彼の視線を追いかけるように、ルーフもまた、机の上の瑪瑙(メノウ)の塊に視線を向けている。


 彼らが見守っている先にて、人造の宝石は青色の輝き、魔力の気配をあたたかな湯のようにほんのりと立ち昇らせていた。


「それも、怪物の肉から精製した宝石ってことになるのか?」


「そうだよー」


 ルーフからの質問に答えている、マヤは指先で瑪瑙(メノウ)の断面図に指を這わせていた。

 宝石店の店員である、マヤの緑がかった肌が瑪瑙から発せられる青色を帯びた光に怪しく照らされている。


「報酬として受け取ったのは、たぶん……先代のアトリエ管理者だった、かもねー?」


 マヤはまるで他の誰かに確かめるような口調を使っている。

 というのも、彼自身記憶があまり確かではないようであった。


「ダメだなー、あらたまって確認しようとすると、ぜんぜん記憶が出来ていないってカンジー。今度、店の帳簿をあらためてちゃんと、キチンと確認しておかないといけないなー」


 そこまで言ったあとに、マヤは気軽そうな笑みをルーフの方に向けている。


「そうだ、義足の爪先が無事に完成したら、調整し終ったらさー、一緒に帳簿の整理に付き合ってくねー」


「えー、なんでだよ?」


 あまり喜ばしいとは言えそうに無い、誘いに対してルーフが拒絶感を割かし分かりやすく表している。

 だが、魔法使いの少年の態度などお構いなしに、マヤは自らの内に予定をひとつ組み込み終えてしまっていた。


「ヨシ! 決まりだなー。いやー、よかったよかった、帳簿の確認なんて、独りでやる作業なんかじゃねえっての。あんなのを独りで好んでモクモク、モクモクとやる奴なんてとんだ変態かぼっちヤロウってカンジー?」


 唐突に蘇る記憶。

 ……そういえば、ルーフの祖父は宝石店の店員が言っているところの、独りで黙々とこなす作業を強く好んでいた。

 であれば、宝石店の店員である彼が言うところによれば、祖父はかなりの異常者ということになるのか?


 ルーフは頭の中で否定をしようとして、しかしそれすらも上手く出来ないでいる。

 孫である魔法少年自身、祖父の異常性を認めざるを得ないでいた。


「…………」


 魔法少年が沈黙だけを累積させている。

 マヤはそこに同意の気配だけを感じ取ったらしい。

 少しだけ気を良くして、宝石店の店員は瑪瑙(メノウ)の断面図を少年により良く見える位置へと移動させている。


「出来ることなら、可能ならば? この断面図の美しい模様を生かした造形にしたいところだよねー。

 やっぱり? 元々はオレらと同じように、体のなかを「水」……魔力に満たしていた彼らの一部だったんだから。

 その中身に秘められていたものを、生きていた、心臓が動いていた、血が肉の隙間を巡っていたとき以上に、それ以上に、強い可能性を引き出したいってカンジー?」


 熱狂気味に語るなかで、それでもマヤは妖精族特有の軽薄さを保ったままでいる。

 ルーフはそこに、ようやく諦めにも似た信頼感を寄せる準備を整えつつあった。

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