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手慰みに芸術へと逃げよう

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、心より感謝いたします!

 しかし妖精族の若い男女二人は、ハリの言葉をサラリと聞き流していた。


「うーん? ウチのお爺ちゃんはどっちかっていうと、常に頑張りに頑張りまくって生きていた人ってカンジだったわねー」


 エリーゼが語っている内容を、彼女にとって親戚にあたるマヤがさらに補足をするようにしている。


「そうそう! 年寄りにも関わらず、常に最新の形式(モード)を求め続けているって感じのヒトだったよー」


 一つの要素を思い出すと、次々と続けて記憶が芋づる式に蘇って来ているらしい。

 マヤは自らに関連する身内に関する情報を、与太話的に語っている。


「ウチの店が天然石以外にも、人造宝石を受け入れようって一族のみんなに提案したのも、そう言えばおじいちゃんが最初だったかもなー」


 人造宝石とはつまり、人喰い怪物の肉体に含まれている魔力から精製する、魔力を含んだ鉱物のような存在のことである。


「戦後のあれやこれや混乱した中で、とにもかくにも魔力が不足している状況が、おじいちゃんにとっては苦しい思い出として残ってたみたいでねー」


「そうなのか……」


 知らない情報を聞いた。

 と、思いかけた所で、ルーフは情報の形に既視感を覚えている。


 ……確か、自分の祖父もここで語られる「戦争」を経験した人物であったはずだった。

 太陽の光が降り注ぐ土地、故郷で暮らしていた時、近隣の人々からはよく戦時中生まれであることを驚かれたものだった。

 祖父は、実に若々しい人だった。


「…………」


 ルーフが密かに過去のことを想い返している。

 そうしている間に、宝石店の店員であるマヤは次の話題に移っているようであった。


「何にしても、たぶんおじいちゃんだってきっと、燃料をムダにするなって言ったはずだよー」


 どうやら彼はまだ、「水」の玉を解除して怪物の群れを開放するという、ハリの脅し文句について怯えを抱いているらしかった。


「だから何卒(なにとぞ)! 彼らの群れは大人しく古城の魔術師さんに預けるってハナシでっ!」


 ハリにしては簡単な冗談でしかなかった。

 だが、マヤにしてみればこのアトリエにこれ以上の危険が及ぶことは、自らの許容範囲に許せぬ事態であるらしかった。


「ダメよー、ダメダメ、マヤくーん」


 エリーゼが宝石店の店員であり、同時に親戚筋にあたる彼に軽く叱責のようなものを送っていた。


「宝石店の店員として、取引相手である魔法使いには、常に強気の姿勢を保たなくちゃ。って、おじいちゃんもよく言っているじゃないー。ほら、この前のメッセージアプリの通話でだって」


 エリーゼの言葉にマヤが返事をする。


「ああ、あれはキツかったよー。レスポンスが止まるに止まらなくなって、まるでネットの大海に常に潜む争いごとのように、今日も今日とて白熱した戦いが繰り広げられたものだよー」


「……ん? あれ……?」


 会話の中で、ルーフは違和感に気付く。

 ……と、言うよりかは、気付かされていた。


「ち、ちょっと待ってくれ、その言い方だと……まるでそのおじいちゃん、……じゃなくて、お爺さんがまだ死んでいないように聞こえるんだが……?」


 ルーフが指摘をしている。

 それに対して、先んじて答えを返しているのはエリーゼの声音であった。


「あら、そうよ。一体どこの誰が、おじいちゃんが死んだって話をしたのかしらー?」


「い、いや、だって……まるですでにお亡くなりになったヤツみたいな話をしてたから……」


 ルーフは主張をしかけたところで、すぐに自らの持論の頼りなさに対峙させられていた。

 そう考えたのは、自分の身内である祖父がもうこの世にいないことに基準しているに過ぎないのだ。


「……いや、違うか、結局は俺の勘違いでしかないよな……」


「おやおやー? イヤに素直なお返事ねー?」


 ルーフが速やかなる訂正文を作成しているのに対して、エリーゼがほんの少しだけ呆れるような素振りを作ってみせていた。


「ダメよー、ダメダメ。魔法使いはおおよそにおいて、自分の持論をそう易々と曲げるべからず」


 エリーゼが通常の口調とは異なる、少しだけ堅苦しさのある語調を使用している。

 自分以外の他の誰かに教えられた言葉を、空読みするようにしている。

 若い女魔術師の、ニュースキャスターじみた語り口。

 そこにルーフは、言葉自体が彼女自身だけに限定されているものではないことを把握させられていた。


「それも、おじいちゃんの言葉ってカンジなのか?」


 ルーフは妖精族である彼らの口調をほんの少しだけ真似ていた。


「そうそう、そんなカンジー」


 エリーゼはルーフの指摘を軽快な様子で受け入れている。


「この前のメッセージアプリでは、こんなことも言っていたわねー」


 そう言いながら、エリーゼは軽快な様子で身に着けているスーツの腰ポケットから、スマートフォンを取り出している。


 エリーゼのスマホには、チョコレートと焼き菓子をモチーフとしたデザインのカバーが装着されている。

 彼女は片手だけで電子画面を操作し、緑色が目立つメッセージアプリを起動させている。


「ほらー、これこれー」


 エリーゼが見せてくる。

 メッセージアプリには、「おじいちゃん」なる人物から送信された、まぎれも無く生きている言葉が貼り付けられている。

 

 ルーフはそれを音読した。

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