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私の心のプロジェクターは壊れっぱなし

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 そこにはハリが、ハリと言う名前の男の魔法使いがいた。

 ハリは黒猫のような聴覚器官をピクリ、と動かしながら、ルーフについての予想を語っている。


「たくさんの怪物と戦ってきて、よくそれだけ元気に過ごすことができましたねえ」


 皮肉だとか嫌味などがまったくの無関係であること。

 そのことにルーフがすぐに気付くことができたのは、ハリの瞳が強い好奇心にきらめいているのを視界のなかに認めていたからであった。


「どうです? ここで過ごして、怪物と戦って……楽しかったですか?」


 それは確認の言葉であった。

 他に考えようもなく、言葉のはいたって単純なものでしかない。


「…………?」


 だからこそ、ルーフはハリの言葉の意味を深読みせずにはいられないでいる。

 質問文に含まれている、意図をルーフはどうにかして読み取ろうとした。

 この黒猫のような魔法使いが、一体どのような意味で問いかけをしてきているのか。


「……楽しいかどうか、って言われたら……」


 考えを巡らせながら、沈黙が産まれないように懸命なる、秘密の努力をフル稼働させていた。


「まあ、結構楽しかったかもしれないな」


 嘘をつく必要性も感じなかった。

 ルーフはレンゲ一杯分の素直さの中で、自らの内側に生成されている感想文を音声にすることにしている。


「……故郷で暮らしていたとき、噂話にしか聞いたことのなかった魔法とか魔術とかを、こうして実際に使えるのは……刺激的ってやつだな」


「なるほど」


 ルーフの感想に、ハリは同意と同調と思わしき相槌をうっている。


 ルーフは引き続き語る。


「魔力を使うのが、こんなにも疲れることだとは思いもよらなかったぜ」


 ルーフは右の手の平を顔の前に移動させる。

 薄暗い視界のなかで手の平を握ったり、開放したりを二回ほど繰り返す。

 紛れもなく自分の、本物とされるであろう意識の中で自由に動かすことができる。

 肉体の一部は、その中身に血液を、そこに多く含まれているであろう魔力の形をルーフに自覚させていた。


 消費した魔力を、リンゴの型に固めた魔力鉱物の結晶体を食べることによって回復させた。

 疲労感ににじみ、霞んでいた視界はいくらか透明度を取り戻している、ような気がしていた。


「そうなんですよ、魔法って大変なんです」


 ルーフの感想を聞いた、ハリは少年の感想に相乗するような言葉を唇に用意している。


「魔法使いになって、ルーフ君も少しは世間のことを理解できるようになりました。って感じですかね?」


 例えば魔術などの、他の使い方の話を用意していないのはハリの意図か、あるいは無意識の差別化のようなものなのか。

 どちらにしても、ハリは皿の上の豆を菜箸(さいばし)で摘まむように、ルーフのことを丁寧に気遣おうとしているようだった。


「それはなにより。知っていると知らないとでは、脳みその機能以上に、……なんといいますか、心の在り方のようなものが大きく変わってきますからね」


 ハリが感慨深そうにしている。


「別に……だから、そんな大層なものでもないと思うんだが……?」


 感動めいたものをまっすぐ向けられた。

 ルーフは、思春期の少年にお決まりな天邪鬼(あまのじゃく)な部分を舌の上に転がしている。


「……」


「…………」


 互いにそれぞれ、元々会話を好む気質ではなかった。


 ほぼ必然的に訪れた沈黙。

 それは決して無音という訳ではなかった。

 何もこの空間にルーフとハリの二人だけが存在しているのではない。

 日の光を受け付けない、薄暗いアトリエの内部には他にもいくつかの人間がそれぞれに行動をしている。


「うーん?」


 ミナモはバイクの後部座席からガラス瓶を降ろそうとしている。


「えーと、どないしよ?」


 中身から宝石を抜き取った後。

 ガラス瓶はルーフの魔力によってその形を変形させられたまま、動くこともなく存在し続けていた。


「もう元の通りには使えなさそうですねー」


 ミナモが少し重たそうに持ち上げている。

 ガラス瓶について、状態を予想しているのはエリーゼの声だった。


「こんなにグニャグニャにしちゃうなんて、なんともかんとも、末恐ろしいってやつかもー」


 ルーフに対する評価を口にしながら、エリーゼは少しだけ力を込める呼吸音を発している。

 若い女魔術師は魔法使いの少年に対するある種の恐怖心を、しかしてあくまでも明朗な様子を崩さないままで表現しようとしていた。


「これは、「古城」への報告が楽しみになってきちゃったってカンジー?」


 そこでルーフはあらためてあの若い女魔術師が自分を監視するために、それを目的の一つとして追跡してきたことを思い返していた。

 

「とりあえずコレは、アタシが上に報告するための材料として、持ち帰ってもイイかしら。ねえ、マヤくーん!」


 感想めいたものを口にする、そのついでと言った様子で、エリーゼはマヤに確認の言葉を投げかけていた。


「どうかしらー?」


「勝手にすればー?」


 エリーゼに確認の手を伸ばされた、マヤはしかしてさしたる関心を持たないままでいるようだった。


「オレは今忙しいんだってのー」


 マヤがそう語っている。

 彼の表現方法は半分は嘘で、しかしながらもう半分は本当の意味を持っているようだった。

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