デビルはなるものではなく自らが望むからこそ
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アトリエ内を管理している、使役種である彼女? もしくは彼? は、このような事情を語っていた。
「現状コホリコ・マヤには全体の半分以下の権限しか与えられていないよっ♪」
どうして何も特別なことなど無いのに、いかにも楽しげな声音ばかりを使用してくるのだろうか。
ルーフは疑問を抱きそうになった。
だがすぐに、決して使役種当人が愉快さにのっとって声音を作成している訳ではないのだろうと、予想を閉じた唇の中で作成していた。
「そういうことだからー」
使役種と呼ばれる人喰い怪物の一種の説明を受け止めながら、事実を受け入れているのはマヤの姿であった。
「だから、お見せできるのはここまで、ってことだなー」
そう言いながら、マヤは開いた冷蔵庫の扉をバタム、と閉じている。
出来ることならもう少し、冷蔵庫の棚に並べられたリンゴの群れを観察したかった。
実際に触れて、自分が今摂取している結晶体と他のそれらと異なっている要素を、直に確認してみたかった。
だがそれは叶わぬ願いであった。
扉はもう閉じられてしまっている、マヤとルーフに許されている権限は、それ以上の観察を許そうとしないのである。
「とりあえずー、速いところちゃっちゃとそのリンゴを食べ尽くしなよー」
「言われなくても、分かってるっつうの」
マヤに催促をされた、ルーフはリンゴのような魔力の結晶体を噛み続けていた。
「いいなあ、美味しそうだなあ」
別の声が聞こえる。
声の舌の方に視線を、左側に向けるとハリが椅子の上のルーフの口元をのぞきこんでいるのが見えた。
「……やらねえぞ?」
黒猫のような魔法使いの視線の熱が、リンゴ型の結晶体に強く、強く注がれているのを見た。
ルーフは黒猫の魔法使いに抑制をするような気配を立ち昇らせていた。
「食べませんよ」
魔法使いの少年の警戒心を、ハリは若干ながら心外そうに受け止めているようだった。
「いくらボクでも、人様が美味しくいただいているリンゴを横取りするような無粋な真似は……」
少し考えると、黒猫のような耳がほんの少しだけ左側に傾いている。
「……うん、本当にものすごく飢えていない限りは、しないと思いますか?」
「なんで疑問形なんだよ」
黒猫の魔法使いが曖昧な言い回しを使っている。
それにルーフは、リンゴ型の結晶体を食べ続けながらツッコミを入れていた。
「さてさて、さーて!」
断絶された会話文を強引に結び直すかのようにして、マヤが作業の展開を取り戻そうとしていた。
「義足の点検だよね、そうだよね。それを行いたい、ンだけどー」
展開を言いかけた所で、マヤは三度思い留まる所があるようであった。
「でも、うちで簡単にご用意できる魔力鉱物じゃあ、カハヅ・ルーフ君の義足をまかなえる素質はクリアできそうにないなあー」
なにやら、ことを勧めるための基準がクリアできないと言った旨のことをぼやいている。
「用意できないって、どういうことだよ?」
ルーフが短絡的な質問文を送っている。
それに受け答えをしている、マヤは事情をもう少し噛み砕いた様子で語っていた。
「見ての通り、今カハヅ・ルーフ君の右義足の先端は、魔力の熱に耐えきれなくなって形状を保つことすら出来ないでいるんだよー」
そう言いながら、マヤは椅子の上に座るルーフの右義足を掴み、周囲にもよく見えるよう上の方に移動させている。
「古城の主人である人が使っていたものだから、やっぱり? それなりに質の高い魔力鉱物が使用されていたはず……。なのに、こんなにもグチャグチャのずるずるに溶けちゃってんだよなー」
マヤは、まるで他の誰かに確かめるように言葉を紡いでいる。
「ねえ、「花子ちゃん」-?」
事実、彼の問いかけは別の存在に向けられたものであるらしかった。
宝石店の店員に問いかけられた、それに答えているのはアトリエの管理を任されている使役種、「花子ちゃん」であった。
「損傷度は重度、このままだと往来を通常歩行することすら危ういかもー♪」
謎に、無駄にウキウキとした様子で、使役種「花子ちゃん」はルーフの右義足の損傷具合を計測している。
何をそんなに楽しむ要素があるというのか、というか、一体どこからどうやってルーフの義足の具合を観測しているというのだろうか。
ルーフは色々と疑問を抱かずにはいられないでいた。
とりあえず最初の疑問、使役種は別にルーフの状況を見て愉快さを形成している訳ではない事、そのことを確認しようとする。
「なあ、マヤさんよ」
「なにー? ルーフ君」
「このは、花……花子……?」
「「花子ちゃん」。さん付けするか君付けするかは個人の解釈におまかせ、だよー」
ルーフは呼び捨てをすることにした。
「「花子ちゃん」、は、この場所に不満を持たないように、……そう設計されているのか?」
「?」
問いかけられた、内容をマヤはすぐには理解できていないようであった。
だが割かしすぐに、魔法少年の言わんとしている事をおおよそ察していた。
「別に感情の抑制をしている訳じゃないよー? もちろん、そう言った作用をする支配の仕方もあるし、それ専用の魔術式も存在しているけどさー」
そう言いながら、マヤは視線を椅子の上にいるルーフから少し、移動させている。




