頼りなさ過ぎる確信の上に私は立っている
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マヤという名前の、宝石店の店員である彼は、鼻孔をフクフクと膨らませながら語り続けている。
「カハヅ・ルーフ君、君の肉体が持つ魔力の量と質は、常人のそれとは大きく異なっているんだよー」
「……人より貧弱で、かすっかすの味噌っかすだとか、そういうことか?」
自虐的な展開に持っていきたかった。
理由は今のところよく分からないが、ルーフは相手に褒められることにどうにも、どうしようもなく苦手意識を抱かずにはいられないでいた。
「いえいえ、いーえ、違う、違うよー」
魔法使いの少年の意図を知ってか知らずか。
……いや、仮に知っていたとしても、おそらくこのマヤにとってはさしたる重要性など得られなかったのだろう。
そう、少年に自覚させる程度には、マヤは単純なる驚きだけを顔の表情、ボディランゲージの上にきちんと表現していた。
「むしろすごすぎるんだよー、ルーフ君、キミの魔力はとんでもないレベル、レベチなんだって」
「レベル違い」のことを簡単に略している。
マヤはそのままの軽やかさの中で、魔法少年が身に着けている義足に生じた変化についてを語っていた。
「この純度100パーセント、ほとんどの素材を天然の宝石から削り出している義足には、ルーフ君の魔力量はちょっと暴力的すぎたんだよねー」
語るなかで、マヤは例の視線をルーフの方に向けている。
「いやはや、だよー。いやね? 店に入ってきた時からいわゆるフツーの子とは違うんじゃなかって、そんな予感はしてたんだよー、ホントだよー?」
そうだっただろうか?
店先であった時は、あくまでもその辺のクソガキを見つけてしまったかのような、その程度の対応しかされていなかったはずだが。
ルーフが疑問を抱こうとしている。
気だるい視線の中で、マヤは目の前にしている状況について早口に、熱く語り続けていた。
「N型のヒトは純度の高い魔力を持っているとは、風のウワサで聞いたことがあるけれど、でも、こんなにも顕著なのに出会えるなんて。
いやー、この仕事、続けておいて良かったよー」
「それは……──」何か、何かしらの皮肉のようなものをルーフは作ろうとした。
だが、望んだ行動の無意味さに、まぶたの瞬きよりも早くに気付いていた。
「……それは、良かったな」
結局のところは平々凡々、凡庸な相槌しか打てないでいる。
ルーフのそんな、コミュニケーション上における不自由さを、しかしてマヤはまったくもって意に介していないようであった。
「ともあれ、ルーフ君、キミの絶大なる魔力量は、どうやらこの義足にはいささか容量が足りなかったみたいなんだよー」
もはやほとんど遠慮をすることも無いままに、当たり前のように、マヤはルーフの右義足の爪先に指を触れ合せている。
マヤの、見た目の印象とはあまり想像できない、皮膚の硬い骨ばった無骨な雰囲気のある指が、溶けた爪先を深く確かめるようにしている。
「いやね? 決して許容範囲外ってわけじゃなかったんだよ? もしそうだったら、あんな所で強引に魔法陣を作成することなんてアナウンスしなかったからさー」
ルーフの琥珀色をした左目が疑いに染まる。
「そのわりには、ノリノリな感じで魔術式を使えって言ってきた感じがするんだが……?」
「あれー、そうだったかなー?」
一瞬マヤが口を開いたものだと、ルーフは何故かそう思い込みそうになった。
しかし声の形、音質、そもそも男か女かの違いさえあまりにも、あまりにも明確なものでしかなかった。
ルーフは椅子の上でゆっくりと、少しだけ首を動かしている。
右側に傾ければ、そこにはエリーゼが口元に笑みを浮かべて佇んでいるのが確認できた。
「でも、結果的には敵性生物の駆除に成功するための分の効果が得られたんだから、それこそ結果オーライ、ってヤツじゃないかしらー?」
エリーゼはいかにも楽観主義的な主張を行っている。
彼女にしてみれば、許容範囲外までルーフに不安を主張させたくない部分もあったのだろう。
もしかしたら、彼女自身の自由時間がそろそろ有効期限を過ぎようとしていたのかもしれない。
であれば、早々に話題を切り替えて、結論に進ませたいという彼女の気持ちも、分からなくはなかった。
「とりあえず、このままだとまともに歩けねえな……」
しばらく椅子の上で大人しく、妖精族たちの話を聞いていた。
体を休ませた効果が現れたのか、ルーフは幾らか明瞭な思考でものを言えるようになってきていた。
「てっとり早く、義足を使えるようになおしてくれないか?」
ルーフが提案をしている。
だが魔法使いの少年の提案を、マヤは素直には受け入れようとはしなかった。
「悪いけどー、その状態で事を強引に進ませるのはおススメしないなー」
マヤに否定された。
思ってもみなかった対応に、ルーフは気だるさの中で反論を起こさずにはいられないでいた。
「なんでだよ?」
だが、魔法少年の問いかけにマヤは答えようとはしなかった。
その代わりと言わんばかりに、宝石店の店員である彼は作業机の辺りをごそごそ、とまさぐっている。




