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拙者はちゃっきりとした侍でござる

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 魔法使いは嘘をついている。

 そのことだけを、ルーフは察していた。

 口でこそ人喰い怪物を、その存在を思いやる台詞をぬかしている。

 だが、その心内に潜む欲望を、ルーフはよく知っているつもりだった。


 ハリとよく似ている、同じ猫の亜人である魔法少女に出会った時から、ルーフはその欲望について考え込むことが時々あった。

 怪物を殺すことで喜びを得る、それは魔法使いの本能に等しいものだった。

 して、その感情はどこから由来しているモノなのだろうか?

 「呪い」と呼ばれる症状から来るものか、確かに「呪い」は人体の構成を変えるほどの影響力をもたらす。

 思考の在り方、脳の神経の伝達をひん曲げることも可能なのだろう。


 あるいは、社会的な立場。

 「魔法使い」と呼称される存在が、それを人々認識される時点で抱かれる先入観。

 恐ろしき人喰い怪物を殺すための役割を与えられた、職業の一つ。

 それがあの魔法使い、魔法少女に怪物を殺すための理由を附属させているのだろうか?


 ……いや、それは違う。

 理由を考えるよりも先に、ルーフは直感的に自らの想像を一粒確立させていた。


 小難しい理由など無いのだ。

 まだ分からない事を不安がるように考えても仕方がない。

 彼らは楽しんでいる。

 楽しんで、怪物と戦っている。

 楽しんで、怪物を殺している。

 血を流して戦うこと、皮膚を裂いて肉を切り刻む。

 骨を砕いて心臓を破る、行為に恍惚とした興奮を覚える。


 それがルーフの知っている魔法使いの性分であった。

 性格と言っても差し支えない。

 ルーフはこの世界の全ての魔法使いがそのような性格を持っていない事を、切に願うより他はなかった。


 みんなが殺すことを楽しんでしまえば、いずれこの世界からは怪物が絶滅してしまうのだろう。

 それを好ましいと思うか否かは、今のところのルーフには難しい判断基準であった。


 いずれにしても、今は個人的な嗜好について議論、追及している場合では無いようだった。


「こんなに小さい怪物だと、一匹一匹から採れる石はかなり限定されちゃいそうだなー」


 目測を語っているのはマヤの声であった。

 かすむ目でルーフが見やると、「水」の玉にマヤが恐る恐る触れようとしている姿が確認できた。


 マヤは「水」に捕らえられた怪物から採取できるであろう、魔力鉱物のことを心配している。


「これだと、わざわざ祈りの炎を用意する方が、資源を無駄に消費しちゃうぜー?」


 自分自身に確認をするように、マヤは状況から消費される燃料のことを気にかけている。

 マヤが心配しているのは、怪物の死体を処理する際に使用する魔術の炎のことであるらしかった。


「っていうか、まだ殺してもいない怪物に、炎って通用するっけー?」


 マヤが疑問を投げかけている。

 それに受け答えをしているのはエリーゼの声であった。


「うん、生きているモノに炎はあまり使うべきじゃないわねー。だいいち、燃えている途中であっちこっち逃げまくって、すんごく危ないものー」


 マヤとエリーゼが、それぞれに承知の事実を確かめ合っている。

 生きたまま焼くことを選ばなかった、であれば、次に何を行動すべきか。

 

「どうするー?」


「どうしようかしらー?」


 妖精族の若い男女が、次なる行動に頭を悩ませている。


「ひとつ提案があるのですが」


 彼らに言葉を投げかけていたのは、ハリの唇であった。


「このまま彼らを、生け捕りにしてしまうのはどうでしょう?」


 ハリは、頭に生えている黒猫のような聴覚器官をまっすぐ立たせている。


「生け捕り」


 黒猫のような魔法使いの提案に、いち早く反応を示していたのはエリーゼであった。


「ああ、もしかしてー、使役種にしちゃうってことー?」


 使役種、怪物の一種を意味する言葉。

 何の管理もうけていない、野生とされるそれらと比べてみて、人間に友好的な対応を可能としている怪物のこと。

 

 ハリの言い分を察していた、エリーゼはその提案に少しの意外さを覚えているようだった。


「たしかにウチの、「古城」のプログラムを施行(せこう)すれば、このぐらいのサイズの個体だったら簡単のちょちょいのちょいで属国に組み込めそうねー」


 エリーゼの口調こそ軽薄なものではあるものの、その内容は国家を蹂躙する侵略者のような傲慢さに満ち満ちていた。

 灰笛(はいふえ)という名の地方都市、その中心点を担う「古城」に属している。


 エリーゼの表現方法を聞いた、ハリは表情に緊張感の色をすこし濃くしていた。


「おっしゃる通り、あなた方の方法ならば並みの怪物はひとたまりもないでしょう」


 ハリの語っている「並みの怪物」とはつまり、今しがた彼の手によって捕縛した怪物の群れのことを指しているのだろう。

 ハリは眼鏡の奥の瞳をチラリ、と自身が作成した「水」の玉に差し向けている。


 決して小さくはない、直径として大体子供用自転車と似たようなサイズ感を持っている「水」の玉。


 その内側では、捕らえられたばかりの怪物の群れがひっきりなしに暴れ狂おうと、それぞれに画策をしようとしている。

 ような、そんな姿が確認できていた。

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