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春は短し、恋はしないんだよ少年たち

見つけてくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、心より感謝いたします!

 途端にルーフは自分の口のなかに苦いものが広がるような、そんな錯覚を覚えていた。


「あ、その顔、嫌だあーってカンジですね」


 魔法使いの少年の様子を見た、ハリが頭部に生えている黒猫のような聴覚器官をピクリ、と動かしていた。


「べ、別に、そんなことは……」


 黒猫のような魔法使いに指摘をされた。

 ルーフは、その内容に素直な賛同を返せないでいた。

 理由はよく分からない……と言えばそれまでのこと。

 しかしてルーフは、どうしようもなく明確に、自分の心情がこの黒猫の魔法使いに知られることに対して嫌悪感を抱いていること、そのことを認めざるを得ないでいた。


「ですが、これから魔法使いとして怪物を殺すのに、魔力鉱物についてなにも知らないってのは、いささか無礼が過ぎるっていうものです」


「そう言うものなのか……」


 ハリの主張にルーフが首を傾げそうになるのをこらえている。

 魔法使いの少年の疑問符に対して、返答をしているのはバイクの運転席に座るミナモの声であった。


「まあ、あれやって、魔法使いには魔法使いなりの、それなりのローカルルールってものがあるんとちゃう? そう思っておけばええんとちゃう?」


 ミナモはそう言いながら、気軽そうな様子で空飛ぶ魔法のバイクを運転している。

 

 彼女が運転するバイクの後部座席の辺り、少しの余分にへばり付いているハリは、(こい)のぼりのような格好のままで、後続の魔法使いであるルーフに事情の一つを語っている。


「魔力鉱物っていうのは、言ってしまえば怪物の死体を言い換えたものになりますね。

 ほら、そのまま死体を活用しているって言うのも、なんだか気がひけるものでしょう?」


 せいぜい個々人の感覚によるもの、ささいな問題、特筆して語られるべき事柄でもないような気がする。


「そんな、気にすることなのか?」


 と、言うことをルーフは後ろを振り向きながら、背後に、すぐ近くにぶらさがっている魔法使いに問いかけていた。


「何をおっしゃいますやら、名前ってのは案外、この世界において魔力と同じように重要なものなんですよ?」


 もっともらしいことを言われているような気がする。

 ルーフはすかさず反論をしたくなる、欲求はひとえにハリに対する反感から成っているものだった。


「その魔力だって、結局のところはかなりあいまいな話じゃねえか」


 思うがままの内容を伝えた。

 ルーフの言葉に、ハリは驚くような素振りを見せていた。


「ルーフ君、あなたはどれだけこの魔力社会に無縁な生活を送ってきたのでしょう?」


「でしょう? って言われてもな……」


 生まれてこのかた、大して長くもない人生のなかで、当たり前だと思っていた生活に疑問符を投げかけられた。


「もしかしてルーフ君って、部屋の照明は蛍光灯しか使ったことないって感じのヤロウなんでしょうかね? そうなんでしょうかね?


「それが……何だってんだよ?」


 日常生活の一部分でしかないはずの光景を、あらためて問いかけられてしまった。

 ルーフがついうっかりと、何の捻りもなく返事だけを寄越している。

 その平坦とした様子が、どうにもこうにも、黒猫の魔法使いには信じがたいモノのように見えて仕方がなかったらしい。


「ひええー! 今日(こんにち)において、蛍光灯を贅沢に使える環境なんて、とんでもないブルジョワジーですよこんちくしょう」


「……なんか、いちいち腹立つ言い方だな」


 そのあたりはどことなく、同じように黒猫の子猫のような耳を持つ、疎ましき魔法少女を想起させる。

 と、いった個人的な事情をいちいち開示する義理もなく、ルーフはしばしの沈黙を相手に許してしまっていた。


「やっぱりアレですか? ルーフ君、日照権がたっぷり施工されている土地では、この魔力鉱物さんたちも、もっと別の言い方をされていたりしてるんですか?」


「その話題、妖精の二人も話しとったっての……」


 ルーフがうんざりとした様子を作ってみせている。

 だがハリの方はそれに構うことなく、自分の予想がおもむくままに唇を動かし続けていた。


(ちまた)のウワサではいまだに「水入り石」とか、そんな化石を通り越して石油くさい言い方をしているって聞いたんですけど、そこんところホントなんでしょうか? どうなんでしょうか?」


「ンなもん、俺が知って……──」


 否定をしかけた所で、ルーフの言葉は別の衝動に掻き消されていた。


「お二方!! そろそろ無駄話を終わらせた方がええで!!」


 空飛ぶ魔法のバイクの運転席から、ミナモが警告の言葉を彼らに投げつけている。


 運転手の彼女の言うことが、ルーフの頭の中に理解を以て受け入れられるようになるには、まだ少しの時間を必要としていた。


「やれやれ、ついに来てしまいましたか」


 魔法使いの少年が慌てふためこうとしる。

 その間に、ハリはすでに左手をバイクの後部座席の余分から離していた。


 魔法使いたちがそれぞれに準備を、整えているかいないか。

 そんなことは関係なしに、言葉がすべて用意されているか、いないか。

 人間側の事情などお構いなしに、怪物の群れが彼らの目の前に現れていた。


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