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計画的なご利用はいつできるのかい?

見つけてくださり、ありがとうございます。

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 だがルーフの賢明なる努力も、怪物にとっては何の要素たりえることは無かった。

 細長い怪物は耳の中、下手したら鼓膜が貼られている付近まで、ズプズプと侵入してきていた。


「ンぎゃああああああああああああああッ?!」


 耐え難い感覚。

 許されざる領域に異物が侵入してきた。

 粘膜を直接指で撫でられるかのような、不快感はあまりにも強すぎる不快感。

 拒絶は一閃の電流となって、ルーフの全身を一直線に貫いていた。


「る、ルーフ君?! どうしたんですかっ?!」


 唐突のように叫んだ、ルーフの様子をハリが心配している。

 今しがた会話をしていたばかりのミナモから目をそらし、ハリはルーフの方に注目をしている。


 眼鏡の奥、横長の楕円形をしたレンズの内側。

 深い緑色をした虹彩が伸縮し、縦長の瞳孔が、驚愕によってまん丸く見開かれていた。


「うわあ、どうしたんですか、ルーフ君」


 ハリがもう一度、魔法使いの少年に向けて問いかけている。

 その質問文は状態の確認と呼べるものではなかった。

 どちらかというと状況への過程、どうしてそうなったのか、についてを気にかけているようだった。


 彼が黒猫のような耳をピン、と上に立て、驚いてみせている。


「なになに、どしたん」


 黒猫のような魔法使いが驚愕をしている。

 それに反応する形で、ミナモはハンドルを握ったままで後部座席、そこに座っているルーフの様子を確認しようとした。


 だが、そうしようとした時点で、ミナモは自分の後方に現れている異常事態に気付かされている。


「うわあ!? どしたん、怪物まみれやないの!」


 ミナモがそう表現をしている。

 そこに比喩表現だとか、何かしら、モノを例えるかのような方法は必要とされていなかった。

 彼女がそう言っているとおり、ルーフの体は大量の怪物にまとわりつかれていた。


「どうしたも、こうしたも、分かんねえよ……!」


 二人に心配されている。

 しかしながらルーフは、二人の気掛かりに上手く受け答えをすることが出来ないでいた。

 

 答える余裕を失うほどに、大量の怪物が魔法使いの少年の肉体にまとわりついてた。

 死体に卵を産み付けるために群がる蠅のように、細長い魚のような怪物がルーフの体にたかっている。


 あるいは手の甲の薄皮を噛む。

 あるいは右の頬にへばり付いて、水分をチュウチュウと吸い取っている。

 あるいは、皮膚の下、肉の内側、脂肪分さえも噛み砕こうと、小さな唇を必死に蠢かせている。


「もしかして、ルーフ君の魔力に強く反応をしているのかもしれませんね」


 車にでも撥ねられたかのような、激しい素振りでルーフは怪物の事を振り払おうとしている。


「ああ、そんなに激しくしないで」


 耳の穴に侵入せんとしている怪物を指でほじくり出そうとしている。

 ルーフの動揺っぷりに、ハリがなだめるような声をかけてきていた。


「下手に暴れると、余計に体の奥に侵入されてしまいますよ」


「ほら、とりあえず鼻つまんで、口閉じて、フーッてせな」


 ミナモが言っているとおりに、ルーフは呼吸を止めている。

 気管のそれぞれを密閉させて、鼓膜を大きく振動させる。


 生命が活動している、気配と変化の大きさに驚いた、怪物の一部分がルーフの耳穴から逃げ出していた。


「これは、驚きですね」


 口を開いて大きくを息をついている。

 肩を上下させて呼吸を整えている、ルーフの様子を見ていたハリが、唇に手を寄せて何ごとかを考えていた。


「まさか、ボク以外にも怪物さんの嗜好を寄せ付ける魔力を有している方に、こんな所で出会うとは」


「感慨深そうにしてるところ悪いけど、これで余計にきみの作戦の実行が難しいものになってきよったで?」


 黒猫の魔法使いが驚いているのにたいして、ミナモが溜め息交じりの声を向けていた。


「これだと、ハリ君ひとりだけオトリにさせる方法がし(にく)くなっちゃうし……。

 まあ、もともとそんな無茶をさせるわけにもいかんかったワケやけれど」


 ミナモは安堵と不安を同時に抱いているようだった。

 それぞれに形質の異なる感情がないまぜになっている、ミナモは次なる展開を頭の中でこねくり回そうとしていた。


「どちらかというと、ハリ君よりもルーフ君の方が、怪物さんの好みに合っているらしいね」


「そ、そうなのか……?」


 再び耳の穴に侵入してきそうになっている怪物をやり過ごしながら、ルーフはミナモの予想に耳をかたむけている。


「ここにエリーゼちゃんでもいてくれれば、魔力の敵性とかを魔術式で判別することが出来るんやけど、あの子、「今はオフですー」って言っとったしなあ」


 ミナモはエリーゼの声を真似している。

 分かりやすく声を甘く、高くしている、真似はそこそこの完成度を持っている。


「ともかく、今度はうちの提案を聞いてもらおうかしらね」


「おや、なにか工面があるのですか?」


 ミナモからの意見があると思っていなかった、ハリが重ねて小さく驚いている。


「まあ、でもうちの方でもハリ君とさして変わらない方法しか思いつかんかったんやけどね」


 魔法使いたちが話を聞いている。

 彼らの集中力が同じ方角を向いている内に、ミナモは自分の計画を、怪物を殺すための計画を話していた。

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