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怯える言葉を投げないでキャンディーちゃん!

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 どうやらハリは使役種、怪物の一種である「花子さん」に文句を言っているようだった。


「えっと? 何が何で、どうなってんだ?」


 状況が読み取れそうにない。

 ルーフは回り道を選ばずに、すぐに、素直に質問をしていた。


「どうやら敵は複数の群体を有しているようですね」


 魔法使いの少年に問いかけられた、ハリは空間の中に無重力状態を保ちながら、少年に返事をよこしている。


「ですから、敵は細やかな個体をそれぞれに保ちながら、全体的な動きを同時に保っているようです」


「ひとつひとつ個体を保ちながら、同時に全体の意識を持っているだと……?」


 考えられる想像を頭の中に並べながら、ルーフはどうにも納得を作りだせないでいる。


「今は、とりあえず、「花子さん」さんが敵に怯えて奥に隠れてしまったことだけを理解してくだされば、充分なはずですよ」


 ハリはそれだけの事を言うと、左手にまとわりついている「それら」に目線を移している。


「このように」


 言葉を区切る。

 口で説明するよりも先に、この状況において最も分かりやすいであろう、実例を左の手の甲に示している。

 ハリの手の甲、左側。

 魔力の作用、魔法を使っているため、今はエメラルドの塊のように緑色に透き通っている。

 そこに、怪物の群れの一部が付着していた。


「……! ……! ……!」


 ハリの手の甲でビチビチと動いている。

 怪物の群れの数匹は、ヒルのような吸着力と、生しらすのように透き通った胴体をもっていた。


 何匹もの細長い生き物が、左の手の甲、一個の肉に群がる。

 各々自由に、気ままに蠢いている。


「気持ち悪ッ」


 その光景に、ルーフがつい反射的な嫌悪感を示していた。

 そうしていると、どういう事だろうか、ハリの手の甲にへばり付いていた複数の内の数匹が、ルーフの顔面めがけて突進をしてきていた。


「うわーッ!?」


 突然自分に攻撃が向けられてきた。

 予想だにしていなかった反撃に対して、ルーフがビックリ仰天となっている。


「あー、ほら、あんまり失礼なこと言うと、向こうさんをムダに怒らせてしまいますよ」


 ハリは黒猫のような聴覚器官をペタリ、とイカのヒレのように平らにしている。

 黒猫のような魔法使いに注意をされた、ルーフは疑うような視線を彼の方に向けていた。


「怒らせるって……まさか、向こうがこっちの言っている事を理解しているのか?」


「聞くところによれば、結構筒抜けらしいで?」


 魔法少年の疑問に、バイクを操作しているミナモが声をかけている。


「うちも昔なあ、敵さんの目の前でちょーシツレーなこと言っちゃって、エライ目にあったことがあってなー」


「あー、あー! ありましたねえ、そんなこと」


 「なんだか懐かしいです」と過去を振り返っているハリに、「そない昔の事でもあらへんよ」と、ミナモが小さく反論している。


 思い出話に花を咲かせようとしている。


「えっと! それで?!」


 彼らの会話に、ルーフは若干ながら強引な介入を試みようとした。


「それで、どうやって殺す……じゃなくて、怪物を倒すつもりなんだよ?」


 「殺す」という言い方、表現方法、言葉の選び方に少し、拒否感を覚えていた。

 ルーフの拒絶感を横目に、ハリは今後の行動について思惟を巡らせている。


「そうですねえ、こう細かく動き回っていられると、ボクの武器ではとどめを刺すことは難しいでしょうね」


 ハリは無重力のままで、腰の左側に携帯している、緑色の鞘に収めてある刀にチラリと視線を落としている。


「一匹ずつ、丁寧に、丁寧に、殺していくのもやぶさかではありませんが、みなさんにヒマなお時間を取らせることになってしまいますよ」


「そんなの……」


 わざわざ気にするようなことでも無いのではないか?

 と、ルーフは考えた所で、脳裏にマヤとエリーゼの姿が、妖精族の若い男女の三角にとがる耳の形がよぎっていた。


「そんなの、あの二人が許しそうにないな……」


 ルーフは眉宇(びう)にうんざりとした気分を漂わせている。

 そんな魔法少年に、ハリが柔らかな声音で追い打ちのようなものをかけてきていた。


「おまけに、アトリエを任されているはずの管理者、使役種さんはウンともスンとも言ってくれなくなってしまいましたしね」


 ハリはエメラルド色に透き通る人差し指を何度も振るが、そこにはもう、水晶のタブレットが現れることは無かった。


「地図にも頼らずに、目視で敵さんの居所を探す、かあ」


 ミナモはハンドルを握っていた両手を緩ませる。

 右手をハンドルから離し、まとめてある髪の毛を指先で軽くいじくっている。


「やれやれ、やね。ハリ君といると、いつも難しい問題にばっかり遭遇しているような気がするよ」


 その声音は嘆きというよりかは、どちらかというと、未知なる状況に好奇心をひくつかせる少女のような瑞々しさをたたえていた。


 どうやら彼女はウキウキとしているらしい。

 そのことを、ルーフは彼女が操縦しているバイクの後部座席にて、エンジンの振動と共に察知していた。


「考えが、あります」


 ミナモとルーフがそれぞれに、感情の異なる悩みを抱えている。

 そこに、ハリがひとつ、提案をしてきていた。

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