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雪景色はここではおあずけ

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、ご感想、心より感謝いたします!

 ハリの様子に違和感を覚えている。

 だがルーフは、まだ別の事を考えなくてはならなかった。


「それで? ルーフ君、名前はお決めになりましたか?」


 たった今、まさに思考を行き届かせようとしていた事柄を、ハリから指摘をされた。

 ルーフは無性に急かされているような心持ちになって、心の中を大きく動揺させていた。


「名前……んーっと? 名前かあ……」


「難しく考えないで、思いついたままのことを適当に当てはめればいいんですよ」


 ハリはルーフに、魔法の武器への命名のコツについてをアドバイスしている。

 実際、魔法使いである黒猫のような彼にしてみれば、ルーフが戸惑いを覚えていることの方が違和感として見えているようであった。


「ンなこと、言われもな……」


 難しく考えるな、と言われても、それを実際に実行できるかどうかはまた別の問題のような気がした。

 だがそれを言葉として、具体的に意見としての形にする気にはなれなかった。


 どちらかといえば、ハリの言い分の方が正しいような気がしていたのである。

 

 だがこれ以上迷っている場合でもなさそうである。

 ハリを含めた、魔導に関係する者たちは早く、一刻も早くこのアトリエ内に侵入してきた怪物を殺したがっている。


「…………」


 難しく考えるな。

 そう言われた。

 内容から想像出来る限りの行動を、ルーフは選ぼうとしている。


 とりあえず、自分が使おうとしている武器の姿をイメージしようとした。


「…………」


 魔法の武器。

 アゲハ・エミルから譲り受けた。

 ……というよりかは押し付けられた、といった方がより事実、現実に正しいのかもしれない。


 思えば、これでアゲハ家の人間から何かしら物品を押し付けられてばかりである。

 兄のエミルからは怪物を殺すための猟銃を。

 妹であるモアからは、これまた同じく怪物を殺害するために必要とされる義足を。


 押し付けられた、そのどれもが結局のところ、ルーフの生活の一部に組み込まれてしまっているような気がしていた。


 ルーフは武器の一つ、エミルから譲り受けた猟銃……に、とてもよく似た魔法の武器の姿をイメージしようとした。


 金属と木材に形作られた。

 ボルトアクション式の、単純な造りの古風な銃。


 名前を思いついた。


「しろ……」


 雪景色が思い出されていた。

 ルーフはイメージを離さないように、それに必死に(すが)りつこうとする。


 ……あれは何時の頃であっただろうか?

 故郷で暮らしていた時に、雪が降り積もった事があった。

 夜の内に降りしきった雪の粒たちが、朝の光に照らされていた。

 真珠の粒を振りまいたかのような、白は朝日に照らされて白色を瑞々しく輝かせていた。


 眼球を少し動かすたびに、日光に照らされた輝きがキラキラと、緻密にきらめきを放っていた。

 光景が、一つの確固たるイメージとなってルーフの思考に鎮座していた。


「! ……うわ?!」


 言葉を呟いた。

 次の瞬間に、ルーフは自分の右腕に重さが発現していることに気付かされていた。


 自分の中の血液が熱くなり、空気中に含まれている要素と触れ合っている。

 あたたかさと冷たさが触れ合った。


 光が明滅する。

 それと同時に匂いが立ち込めていた。


 かすかに甘い、ルーフは自分が腹を下した時に、皮膚から甘い匂いがしてきたのを思い出していた。


 暗がりのなかで、それはアスファルトの上に立つ時よりも一層分かりやすく、現象としてルーフに視認されている。

 

 甘い匂いの光は、藍色を持っていた。

 明滅が消える頃には、ルーフの右腕の中に一丁の武器が現れていた。


「いえーい、おめでとうございます」


 ハリの気の抜けた祝いの言葉が伸びてきていた。


「何を祝うことがあるんだよ」


 猟銃のような、それにとてもよく似た魔法の武器をを握りしめながら、ルーフは魔法使いの黒猫の言葉の意味を考えようとする。


「いえ、なにも、特別なことなんてございませんよ」


 魔法少年が思考を働かせようとしているのに対して、ハリはとりたてて特別性がないことを静かに主張していた。


「名前が決まったのなら、さっそく魔法のほうきに乗り込みましょう」


「ほうき……ほうきなんてどこに?──」


 「しろ」という名前を付けたばかりの、武器を両手に抱えながら、ルーフが物品を探そうとしていた。

 だが魔法少年が検索を張り巡らせるまでもなく、結果はすぐさま目の前に現れていた。


「よいしょっと!」


 ミナモがかけ声をひとつしている。

 再び魔力が巡る、気配が匂いとなってルーフの鼻腔を刺激していた。


 ズシン!

 重たいものを受け入れて、アトリエ内のフローリングが大きく軋む音が聞こえてきた。


 音のした方を見る。


「うわー!」


 驚きの声を発していたのは、マヤの姿であった。


「ちょっとちょっとー?! こんな所でなんてモノだしちゃってるんですかー?!」


 マヤが文句を言っている。

 彼が不満を主張しているとおり、アトリエ内にはなんと、一台のバイクが発現させられていた。


「ウチのアトリエ内に、そんな重さのある魔法武器を出さないでくださいよー! 床が抜けちゃったらどうしてくれるんですかー!」


 現れた「魔法のほうき」に、宝石店の店員が怯えていた。

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