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意外な方角ブルジョワジー 

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

レビュー、ブックマーク、ポイント評価、ご感想、心より感謝いたします。

 アトリエ内をはい回るエリーゼの視線。

 それはモノクル越しにルーフの義足を観察する、マヤのそれとよく似た気配を有していた。


「それにしたって、このアトリエも一体いつまでこんな感じの形を保ち続ける必要があるのかしら?」


「と、いいますと?」


 エリーゼの視線の動きに、マヤはほんの少しの間だけモノクル越しの視線をルーフの右義足から外している。

 その途端に、ルーフの皮膚を伝っていた冷たい違和感が外されている。


「どうもこうも、せめてもう少し部屋の照明を増やしたらいいじゃない」


 エリーゼはアトリエ内部に視線をはわせながら、この場所の持ち主であるマヤに提案を、まずは一つ伝えている。


「こう暗いと、足元も不安でしょうがないじゃない。せめて南向きの窓の一つや二つ、造ってもいいんじゃないかしら?」


「やれやれ、何を提案すると思ったら、とんでもねェな!」


 親戚の間柄であるエリーゼの指摘を、マヤは特に真剣に取りあおうともしなかった。


「魔力鉱物が自然光、とりわけ日光を苦手としていることは、キミも知っていることだろうがよー」


「そ、そうなのか……?」


 この世界の常識の一つを語っている。

 宝石店の店員である彼が述べた内容に、ルーフが事細かに疑問を抱いていた。


「なあ……あのお……?」


 ルーフは彼と彼女の会話文の間に質問文を入れ込もうとしている。


「ダメなのー?」


「駄目だっつうのー」


 だが少年一人の密やかな声音を、妖精族の若い男女は聞き入れようとはしなかった。


「あの……話、聞いてくれよ……」


 妖精族のかしましさにルーフはひとり、打ちのめされている。

 困り果てている、魔法使いの少年の耳元にささやきかける声があった。


「魔力鉱物ってのは、たしかに、日の光に弱いものがおおいんよ」


「ミナモ……」


 ルーフは首の向きを左側にぐるりと回す。

 振り返った先には、ミナモがそろりそろりとアトリエ内を移動しているのが見えていた。


 彼女が足を動かす。

 すると、その足元で硬い物がぶつかり、転がる音が鳴り響いていた。


「いっけない、なにかのガラス瓶を蹴っちゃった」


 ミナモは特に悪びれる様子もなく、足元に転がるガラス瓶の一本を拾い上げている。


 ちゃぷん、とまた水の音が聞こえる。

 ガラス瓶を拾い上げたミナモの姿が、周囲の棚の中に陳列されているガラス瓶の内部から微かに放たれる、弱々しい魔法の気配に照らされて、空間の中にうっすらぼんやりと浮かび上がっている。


「よかった、中身はちゃんと守られたままやね」


 ガラス瓶が無事であることを、まず最初に確認していた。

 ミナモは安堵の溜め息を呟きながら、視線をルーフの方に向けている。


「それで? えっと、なんの話やったっけ?」


「あー……えっと……」


「ああ、そうやったね、魔力鉱物ちゃんたちの苦手なモノのお話しやったけね」


 魔法少年が全てを言い終えるよりも前に、ミナモは彼が言わんとしている内容を察しているようだった。


「さる有名な機関、といってもこの辺だと古城の魔術師ぐらいしか該当するものやあらへんけど。ともかく、そこの人たちが調べ上げた内容だと、この宝石ちゃんたちは、日光に酷く弱い傾向があるらしいんよ」


「弱いって……具体的にどういう事なんだよ?」


「うーん? 弱体化の傾向に関しては、それぞれの個体によって色々と違いがあって、一概にコレってモノはうちの口からは言えへんけれども……」


 ミナモは少しだけ考えを巡らせる様子を見せた。

 その後に右の指でコツンコツン、と宝石を内蔵したガラス瓶の表面を爪でつついている。


「まあ、あれやね、大体が内包する魔力の質やら量やらが低下しちゃうんよね」


「そんなんで、エネルギー源として利用できるのかよ?」


 ルーフが単純な疑問に首を傾げそうになっている。


「日光なんて、その辺歩いているとフツーに浴びまくりになりそうだけどな……?」


「えー? そうかなあー?」


 魔法使いの少年の言い分に、疑問を呈しているのはエリーゼの声であった。


「アタシなんて、ここ最近はすっかりおテントウ様なんて拝んでいないけどなー?」


 ルーフの感覚に違和感を覚えている。

 エリーゼはあらためて珍しいモノを見つけたかのような、そんな目線を向けてきていた。


「青空が普通に見れるなんて、カハヅ・ルーフ君はずいぶんとリッチな土地に暮らしてたんだねー?」


「そ、そう……なのか……?」


 自分の価値観を、あまりにもアッサリと異物として認識されてしまった。


 首を傾げそうになるのを何とか堪えている。

 魔法使いの少年に、マヤが追い打ちをかけるように言葉を発してきていた。


「今のご時世、日光が拝める土地なんておれ達みたいな一般市民、平々凡々な平民にはのどちんこから手を伸ばしても手に入らない、超絶怒涛の高級品だっての」


 マヤがふむふむとひとりうなずいている。

 そうしていると、身に着けているモノクルがずれて落ちそうになっていた。


「あれ? もしかしてルーフ君って、結構高貴な生まれの出だったりする?」


「そ、そんなことは、()えよ!?」


 予想していなかった方向性からの質問文に、ルーフは何故か強く拒絶をするような返答しか返せないでいた。

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