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月日が巡る、嗚呼恐ろしさよ

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、心より感謝いたします。

 エリーゼが自信満々と言った様子で、自分が属している種族についてのことを語っている。

 話を聞いた。

 しかしてルーフはそこに何かしら、それらしい特別性をどうにも見出せないでいる。


「それって……なんか、すごいことなのか?」


「そりゃあもちろん! この魔力社会において、ソレが多いか少ないかはケッコー重要な話になってくるわよ」


 疑問に思っているルーフに対し、エリーゼは真面目ぶった様子のままで、この世界の事情の話を一つしている。


「ルーフ君みたいなN型(エヌがた)の人間は、その……? 魔力回路が純粋でサラサラとしていて、巡りが良いらしいのよ」


 まるで、血行か健康か何かしらを良くする何かしらのサプリメントの宣伝文句のような、そんな内容を伝えられている。


「だから、彼らが作る魔術式はとても優秀で、大災害(あと)に残されたいくつかの術式は、今もアタシ達の生活の根底、柱を担っている、らしいわよ?」


 語るだけ語っておいて、最終的には疑問符のようなものを浮かべている。

 のは、エリーゼ自身が若手の魔術師であるがゆえに、せいぜい人づてに聞いた噂話程度の情報しか知り得ていない。

 ということの証明、としてルーフは予想を組み立てる。


「でも、残っている技術は、そのほとんどがどの様な仕組みなのかも分からなくて、だから、古城では今日もその解明にあくせくしているってワケ」


「ブラックボックス、みたいなものか……」


「そうそう、そういうかんじ……──」


 ルーフの理解力の高さに、逆にエリーゼの方が不可解さをあらわにしていた。


「──えっと、ぶらっくぼっくすって、なに?」


 エリーゼはマヤに、親戚の男に問いかけている。

 だがマヤは、若い女魔術師の質問に答えることをしなかった。


 その代わりに、マヤはルーフの方へまなざしを向けていた。


「ところで、だ、ルーフ君、いや、ルーフ様よ」


「な、何だよ……」


 またしても口調を急激に変化させている。

 普段通りと思わしき口調から、宝石店の店員とそこに訪れた客人の間柄に相応しいとされる言葉遣いを選んでいる。


 マヤの変わり様に、ルーフは瞬間的に皮膚の内側に緊張感を張り巡らす。

 言葉を待ち構えている。


「これは簡単なアンケートのようなものなのですが、お客様の観点から見て、当店の印象をお教えいただけると幸いです」


 魔法使いの少年に、宝石店の店員は確認を一つ、行っていた。


「は? あー……えっと……?」


 問いかけられた、ルーフは質問の内容、その真意を少ない文章から推察しようとしている。


 ……どういう意味なのだろうか?

 言葉をそのまま受け取るとしたら、店の具合を確認しようとしている。


 とは言うものの、そんな質問をすることに何の意味があるというのか。

 ルーフが率直に抱いた疑問こそ、彼がマヤに問い質したい内容そのものでもあった。


 聞くべきか、考える。

 詳しく問いただせば、おそらくだが、相手は問われた分の答えをしっかりと、キッチリと用意してくれそうである。


 だが行動に移すよりも先に、ルーフの眼球は確認された内容を素直に実行しようとしていた。

 というのもルーフ自身、まだこの宝石店の全貌(ぜんぼう)を把握しきれていないのであった。


 会話の方に集中するあまり、周囲の環境を確かめることを忘れていた。


 眼球が右を、左を見る。

 松葉杖に頼りながら立つ、ルーフの現状における身長分の高さの視界。


 そこから、この「コホリコ宝石店」という名称の店舗の情報を収集する。

 情報の検索は限定された、ごく僅かなものでしかなかった。

 だが、たった数秒見る、一瞥(いちべつ)するだけでも確立することの出来た印象が一つある。


「なんつうか、宝石店っていう言葉から想像するような、小奇麗な感じはあんまり、……っつうかほとんどしないな」


 最初は曖昧に。

 だがすぐに、これだけでは伝わり様がないと、次の瞬間には単純な言葉だけを選んでいる。


「狭い、暗い、小汚いな」


 難しい言葉は必要なく、ただ思った感想を並べているだけ。

 幼児向けの音の鳴る絵本のような、分かりやすい感想だけを伝えている。


 光景に対して、目の前の条件にあてはまる言葉を考えることが出来なかった。

 というのは、なにもルーフの思考力が、薄暗く空気の通りが悪い店内に酔わされた訳ではなかった。

 ……おそらく。


 ルーフがそう表現した通り。

 少なくとも魔法使いの少年が抱く印象としては、宝石店の内部はその単語に類するもので表現されるに相応しかった。


 何も意外なことなど無かった。

 さびれた外観、色褪せた店の看板。

 それらと同じく、宝石店の内部も時間の経過という、明確過ぎる過程と具体的な結果の上に居を構えていた。


 店内に一歩足を踏み入れた、そこはごくごく「普通」の洋品店の様な、平和そうな雰囲気に満たされていた。


 魔術師も、魔法使いも、怪物も怪獣も何も関係ない。

 町の一部に溶け込む、平和な時間だけがその店内に保たれている。


 そしてそれらの空間、気配、充ちるにおいはルーフの関心を引かなかった。


 ……いや、この言い方は幾らか語弊がある。

 無関係だと思うのは、関係性を能動的に予感するのは、魔法少年ではなく店側、空間側が一方的に決定する要素であった。

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