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灰笛続き 2月24日 2つ目 違いなんて分かりっこない

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、ポイント評価、ご感想、心より感謝いたします。

 魔法使いたちが傷をなめ合っている。

 その作業が行われている時間、瞬間の一コマに、メイは観察の目を張り巡らしていた。


 この世界における魔法使いが、日々抱えている悩み。

 そのうちの一つを見つけた、メイという名の魔女は新しい発見を胸の内に取り込もうとしている。


「気に入ってもらえなくて、残念です」


 メイの紅色の瞳が放つ視線の先。

 キンシが、苦笑いを浮かべながら諦めを一つ抱いている。


 魔法使いの少女の様子を見た。

 モアは、継続した微笑みのなかで少女に提案をしている。


「まあまあ、諦めるのはまだ早いよ、キンシ君」


 いかにも観客席の立場らしく、他人事のように、モアは魔法使いの少女に提案をしてきていた。


「形式としては悪くない、間違っていない。だから、もう少し体裁に工夫を凝らしてみてほしいな」


「そうそう、やっぱり実践の形を見せてほしいんだよ」モアの言葉に乗じているのはトユンの声であった。


「そこで、だ、ここでようやくおれがあんた方に頼もうとしていた依頼が関係してくるんだよ」


 そう言えば、トユンはアルバイト先、つまりは今ここに入る喫茶店に発症した怪物? と思わしき怪現象の解決をキンシ達に依頼しようとしているのである。


 彼の要求を思い出した。

 決して忘れていたわけではない、モアの要求にこたえるうちに、そちらの方に意識を向けすぎていたのだ。


 どうにも、このアゲハ・モアという少女の、雲間から覗く晴れのような青い瞳には、相手を服従させる甘い効果があるような、ないような。

 そんな気がしてならない。


「えっと、その……どのような怪物が、この場所に発現したのですか?」


 キンシは気を取りなおす。

 気分を切り替えながら期待を、まだ肉があまり多くない胸部の内側、目に見えない器官の内に満たしている。


「どんな感じか、それは答えられそうにないな」


 しかしながら、キンシからの問いかけをトユンは手早く拒否している。


「実を言うと、怪物の姿もこちらじゃロクに確認出来てねェのが現状でな」


 申しわけなさと気恥ずかしさをないまぜにした表情を浮かべながら、トユンは考え事を頭の中に一つ、設置している。


「でも、さっき見せてくれた魔法の分だけで、君が魔法使いと呼ばれる存在であることはキチンと確認した」


 依頼内容の不透明さ具合を誤魔化すかのように、トユンはキンシに向けて励ましの言葉のようなものを送っている。


「これなら、これ位なら、充分に条件を満たしているからな!」


「は、はあ……」


 依頼主にクエストを注文された。

 キンシは彼の言葉にどう対処したらよいのか、分からないままで、まごまごしている。


 そんな魔法少女に、トユンは場所を案内しようとしていた。


「そうと決まれば、早速こっちに来てくれよ」



 …………。


 店の中に誘われた。

 ルーフという名前の少年に、マヤは訂正をひとつ加えていた。


「さっき言ったことなんだが、ちょっと間違っていたかもしれない」


「……何がだよ」


 どうせ下らないことなのだろう。

 ルーフは直感的に先の展開を予測していた。


 魔法使いの少年の、琥珀色をした左目が横目に見ている。


 「コホリコ宝石店」の店員、コホリコ・マヤが魔法少年に自分の持論を打ち明けていた。


「さっき店の前で、あるいは店の近くで、おれ達濃霧(こいきり)がエルフのようなものだと言った話、覚えているか?」


 店員としての口調ではなく、個人的な、年下の少年に語りかけるための口調になっている。


「あー……」彼の言った内容に合点が行くまで、ルーフはほんの少し記憶領域に検索をかける必要があった。


「何となく……ちょっとだけ覚えている」


「あらー、それはよかったー」


 ルーフの反応に喜びを表しているのは、コホリコ・エリーゼという名の女魔術師であった。


「アタシの言っていたこと、ちゃんと覚えててくれたんだねー」


「そうだな、何故か、何故だかあんたの言葉はやたらと脳みそン中に残りやすいんだよな」


 好ましいと思うものよりも、嫌だと思う事柄の方が記憶に残りやすい。

 のは、人間に数少なく残された本能なのだろう。


 ルーフが予想を組み立てている。

 その後方、少し空いた距離のなかで、エリーゼはマヤの言葉を先んじて借り入れている。


「確かにアタシたち、よく考えたらエルフっていう感じのアレでもないわよねー」


 紛れもなく、間違いなく自分自身が発したはずの言葉を、エリーゼはいとも容易く否定している。


「どっちかっていうとピクシー? いたずらっ子な雰囲気が強いかもね!」


 「雰囲気」を「フインキ」と発音しながら、エリーゼは自分の耳を触っている。

 ルーフの持つそれとは異なり、三角に尖る聴覚器官の先端が、若い女魔術師の白く細い指にいじくられている。


「いたずらっ子、ね……」


 そんな可愛らしいもので済まされるのだろうか。

 彼らの性質(たち)の悪さを言葉にしかけた。

 だがすんでのところで、ルーフは自らの言葉を飲み下している。


 これから義足の謎を解明してもらうのである。

 不必要な、コミュニケーション(じょう)のトラブルはできる限り避けたい所であった。

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